PROFILE: 川部将士/ストライプインターナショナル社長
2023年2月に、住友商事出身で元フェイラージャパン社長の川部将士氏が社長に就任し、新体制となったストライプインターナショナル。創業者によるトップダウン型企業から、社員自ら考えて進んでいく組織へと脱皮を進めている。値引きを抑えることで、指標にしている営業利益率は想定以上のスピードで改善している。(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)
営業利益率5%を達成
WWDJAPAN(以下、WWD):社長就任から丸一年。手応えは。
川部将士社長(以下、川部):想定していた以上の手応えだ。外から見ていた以上に、自力のある会社だと感じた。収益改善を進める中で、売上高ではなく営業利益率を指標としているが、23年2〜10月期では5%台にまで高まった。業界内で高水準ではないが、前年同期は赤字だったことを考えれば、想定以上のスピードで利益が出せる体質へと変わっている。方針さえ明確になれば、ミッションをしっかりこなせる会社だ。売上高をかつての水準まで回復させることも将来的に考えてはいるが、中身が伴わない状態で売り上げだけ追求しても、うまくはいかない。
WWD:利益率改善には値引き抑制が効いているのか。
川部:ここ数年はかなりセール偏重の商売をしてきた。ファッションの会社として、最初にお客さまに伝えるべきは商品やブランドの魅力であり、できるだけ値引きせず売る努力をしよう、しっかり接客しようと社内で伝えてきた。同時に、仕入れもコントロールしている。需給のバランスの中で、最終消化のために値引きすることはもちろんあるが、安易なタイムセールはしない。その意識改革だけでも、粗利はかなり改善できた。
WWD:一丸となるため、まずは社内に向けたパーパスも策定した。
川部:「ファッションの力で笑顔輝くあしたを創る」だ。リーダー約30人に集まってもらい、4日間のワークショップで議論し決めた。私自身は横で見ていたが、社員からこの言葉が出てきたことで、やはり値引きに頼った商売ではなく、ファッションビジネスをやりたいという思いを強く感じた。われわれの服を着ることで、お客さまが前向きに生きていこうと思えるような、そんなブランドでありたいという思いがこもっている。
WWD:以前は創業者が引っ張るトップダウン型組織だった。
川部:経営層が変わった今、皆の意識を変えて、会社の新しい運営形態を作っていかなければいけない。今はあらゆることが猛スピードで変化していく時代であり、成功体験を持っている人が必ずしも正しいとは限らない。だからこそ、皆で挑戦を重ねるしかない。活力ある若い人たちがいかに挑戦していくかにしか答えはない。ただし、強力なオーナーシップの下、言われたことをこなす形で働いてきた社員が、自主自律で動いていく組織に変わるのは時間もかかる。だからこそまずパーパスを策定し、そこに向けて自分は何に挑戦するかを考えられるようにした。
WWD:23年は適時・適量・適価で売り切るといった商売の基本に改めて注力したが、24年の課題は何か。
川部:より戦略的に、会社をどう成長させていくかを考えていく。ファッションビジネスの軸は、クリエイション、カスタマーコミュニケーション、サプライチェーンの3つだ。ネットへの常時接続を前提に社会もビジネスも変わっていく中、その3つも変えていく必要がある。正直に言って、当社は業界の中でやや遅れている。マーケットへの挑戦権を得るために、まずは3領域で最低限のアップデートを行い、加えて他社との差別化も必要となる。
WWD:具体的に何から始めるのか。
川部:3つのボタンを同時に押すような気持ちだが、まずカスタマーコミュニケーション、いわゆるOMO領域が先行している。顧客とのコミュニケーションの軸であるブランドアプリ、SNS、LINE、自社ECサイトの4つで、強化すべき部分は多い。お客さまとつながる回数を増やさないと今はブランド力が落ちてしまう。LINE登録を店頭でしっかり促すなど、基礎的なところから進めている。その上で、次はクリエイションを強化。サプライチェーンマネジメントにも本格的に着手する。当社はモノ作りや物流において、商社や物流業者に任せっきりになってしまっている部分が大きい。全て自社で行うという考えはないが、流れを把握し、自ら課題を見出して解決していく組織になることが、SDGsの観点でも不可欠だ。昨年9月にサプライチェーン本部を立ち上げたが、流れを見える化し、パートナー企業と議論ができる形を作る。それが、原料高騰や物流問題対応にもつながっていく。
WWD:一部ブランドでは既に好循環も生まれ始めている。
川部:最大ブランドの「グリーン パークス(GREEN PARKS)」は業績も伸びている。端境期のMDコントロールが好調で、再現性のある成功事例を作ることができている。「アメリカンホリック(AMERICAN HOLIC)」も堅調だ。見直し中の「アース ミュージック&エコロジー(EARTH MUSIC&ECOLOGY)」は、チームの議論の中から新しい指針が出てきている。これらマスマーケット向け3ブランドとミドルマーケット向けの他のブランドとでは、9月に事業部も分けた。
WWD:24年度の数値目標は。
川部:営業利益率5%という、26年1月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画で掲げた目標は1年目で既に達成できたが、24年度は人材へのさらなる投資や、ECプラットフォームの刷新も進めるため、横ばいの見込みだ。会社としての基盤強化に投資していく1年にする。
会社概要
ストライプインターナショナル
STRIPE INTERNATIONAL INC.
1994年に岡山県でセレクトショップとして開業。95年にクロスカンパニー設立、99年に「アース ミュージック&エコロジー」を立ち上げてSPA企業に転換。2000年に東京本部を開設、12年にキャンをグループ化、16年に現社名に変更した。「アース」のほか、「グリーン パークス」「アメリカンホリック」「イェッカヴェッカ」などを擁する。23年1月期の売上高は前期比4.1%減の607億円、営業損失は10億円(前期は15億円)