全国の理美容師、ヘアメイクアップアーティストを対象に、モデルを起用したヘアデザイン作品を募集し、グランプリを決定する「WWDBEAUTY ヘアデザイナーズコンテスト」。7回目の開催となる今回は、“2023~24年のコレクション(ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリ)におけるファッションやビューティのトレンドを意識した作品”というテーマで募集中だ。
毎回ポイントとなるのが、テーマとなっているコレクショントレンドの解釈。トレンドキーワードをそのまま反映させる必要はないが、コレクションの空気感やムード、流れくらいは把握しておいた方がベターだろう。ここでは「WWDBEAUTY ヘアデザイナーズコンテスト」の審査員も務める村上要「WWDJAPAN」編集長に、2023~24年のコレクションの“気分”を聞いた。
「WWDBEAUTY ヘアデザイナーズコンテスト」担当者(以下、WWD):2023~24年のコレクショントレンドは?
村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):大きなキーワードとして“クワイエット・ラグジュアリー”があるが、まずここまでの流れをざっくりと紹介したい。ここ数年、インスタグラムに代表されるSNSが普及して、写真1枚で魅力が伝わるルックとか、高速スクロールする中で目に留まるようなファッションが求められてきた。具体的には、例えばストリートに代表されるような、原色を派手に使う、ロゴを大胆に配置するような感じ。アイテム的には大きなブルゾンや巨大なスニーカーなど、コントラストの効いたプロポーションバランスを誇張するようなスタイルが受け入れられてきた。
WWD:それが変わってきた。
村上:そう。そのテイストは言わば主役は洋服で、着ている人ではない。そこに疑問を抱くムードが生まれ、「着る人が主役になれる服を作ろう」という服本来の役割に回帰する流れになった。違いを端的に言うと、派手な色使いのストリートウエアから、モノトーンベースで赤などの差し色が入った普遍的な定番へ。極端なプロポーションバランスの服も減ってきた。アイテム的には、インパクト強めのブルゾンやスニーカーよりも、ジャケットや白シャツ、ローファーなどが台頭している。
WWD:まさに“クワイエット・ラグジュアリー”。
村上:強く主張しないけれど、丹精込めて作っていることを表現した“クワイエット・ラグジュアリー”は大きな流れ。定番のアイテムが主役で、いつでも、どこでも、誰でも着ることができる。デザイナーたちはダイバーシティやサステナビリティの価値観も意識している。長く使える物を求め、新しい物を買い過ぎないことを良しとする考え方も追い風になっている。
WWD:定番が主役となる中で、どこで個性や今っぽさを出す?
村上:定番を自分らしくスタイリングするのが今の流れ。特に“若々しさ”が1つのテーマになっており、例えば白シャツにミニスカート、ジャケットに膝上丈のショートパンツといった合わせが、自由奔放なスタイリングをシンボリックに表現している。
WWD:実例を挙げると?
村上:2024年春夏コレクションの「ミュウミュウ(MIU MIU)」は、ブルマーや水着、ホットパンツといったアイテムに注目しがちだが、むしろ見るべきはトップス。シンプルなパーカや、ニットとカーディガンのアンサンブルなど、定番を組み合わせるスタイリングを提案している。23-24年秋冬コレクションもカラータイツなどで意表をついているが、スタイリングを紐解いてみると、トップスはプルオーバーニットやカーディガンなど言わば“普通”のアイテムだ。24年春夏の「プラダ(PRADA)」も肌見せのミニ丈を提案しているけれど、トップスは至ってシンプル。そういった発想が、1つのお手本になりそうだ。
WWD:確かに分かりやすい。
村上:変化がもっと分かりやすいのが「グッチ(GUCCI)」。以前はど派手な原色のカラーブロッキング、大胆なロゴ使い、ギラギラのジャケットといったアイテムが象徴的だった。しかしクリエイティブ・ディレクターがサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)に変わると、例えば24年春夏はミニ丈ではあるけれど、上半身はシンプルなコートやスエット風のジャカードニットをコーディネートするなど、その変わり様が今っぽい。「ミュウミュウ」や「プラダ」は分かりやすいコーディネートが参考になり、「グッチ」はビフォー&アフターを比較すると、「今ってこういう時代なんだな」と感じ取れる。
WWD:ほかには?
村上:23-24年秋冬シーズンの、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」の黒いネクタイ。シャツがオーバーサイズで今っぽいシルエットだったり、合わせるパンツがミニ丈だったり、ローファーにスタッズが打ち込んであったり……。ちょっとパンクやストリートのムードを取り入れる、つまり定番を一ひねりするだけで今っぽくなる、というヒントになるのでは。
WWD:その“自由奔放なスタイリング”はマスでも見られる?
村上:街中で起こり始めているのが、カーディガンをパンツイン、スカートインするなどのスタイリング。これからはジャケットの上にブルゾンをはおったり、白シャツとネクタイの上にGジャンを重ねたり、それくらい自由なスタイリングで自分らしさを表現する流れが広がってくるかも。
WWD:ヘアは?
村上:ヘアカラーでいうと、ファッション業界で“クワイエット・ラグジュアリー”が浮上したのと同じタイミングで、ハイブリーチ一辺倒だったトレンドカラーに、自然できれいなブラウンやベージュが戻ってきた。色だけでインパクトを与えるのではなく、本質で人を魅了しようという流れは、ファッションとビューティで通じるものがある。そう考えると、質感がきれいな髪や、一見普通だけどよく見るとテクニックが施されているようなヘアスタイルが時流とシンクロするのでは、と思う。一方、服は“クワイエット・ラグジュアリー”だから、髪型はせめて派手に、という方向性もアリだ。
WWD:編み込みなどで遊んだ、構築的なヘアもあり?
村上:先述したサバト・デ・サルノは、後ろからでも横からでも、360°どこから見ても美しいシルエットの服を作ろうとしている。どこから見ても美しいフォルムの構築的なヘアは、その考え方とシンクロしているように思う。
WWD:ファッションにおける“色”のトレンドは?
村上:一般的には“素材の良さを引き立たせる色”が強くなってきている。例えば素材に柔らかいカシミアを使っているのなら、真っ黒に染めてその良さが分からなくなるよりは、優しいグレーや淡いパステルなど、柔らかい素材の良さがより引き立つ色選びが増えた。逆にレザーのような強い素材を使うなら、黒や赤を用いて、ハードエッジなムードを強調していくような方向性だ。コンテストの作品作りにおいても、トレンドカラーを考えるのではなく、「素材(ヘアやモデルのパーソナリティを含めた“素材”)を引き立たせるにはどの色がいいか」という思考はあってもいいかも。
WWD:今回の応募作品に期待することは?
村上:「自分の作品がイケているのか、かっこいいのか」ではなく、「自分が表現したかったことが伝わっているか」という原点を大切にしてほしい。というのも、ファッションのコンテストでもヘアのコンテストでも同様に、何か1つにつまずくとその解決に終始しがちだから。コンテストの審査をした際、受賞できなかった人に話を聞くと、「問題解決に終始してしまい、途中で『私って何でこれをやろうとしたんだっけ?』と迷子になってしまった」と答える人が多い。そこで「こういうやり方もあったのでは?」と提示すると、「実はそれがやりたかったんです」という回答が……。そうならないためにも、モデル、服、ライティングなどを、常に「何を表現したいか」という視点で1つ1つチェックしていくと、メッセージは伝わりやすくなる。