榎本光希デザイナーによるメンズブランド「ヴェイン(VEIN)」は2月5日、全25ルックからなる2024-25年秋冬コレクションを発表した。榎本デザイナーは21年にメンズブランド「アタッチメント(ATTACHMENT)」を創業者の熊谷和幸デザイナーから引き継ぎ、2ブランド合同のショーを続けた後、2024年春夏コレクションからは「ヴェイン」単独での発表に切り替え、今シーズンは2度目の単独ショーとなった。
ラテン語で「あいさつ」がテーマ
会場にアトリエを選んだ理由
榎本デザイナーが今回会場に選んだのは、原宿に構えるアトリエだった。スタッフが日々服作りに励むスペースから、壁一枚を挟んで隣接したショールームを解放し、ゲストを招き入れる。代々木第二体育館や国立競技場で開催した過去のショーから一転して、今回は観客同士が身を寄せ合ったとしても70席ほどにしかならないキャパシティーだ。
その理由は、ショーのテーマ“ave(アヴェ)”にある。ラテン語で「歓迎」「敬意」を表し、気軽なあいさつにも使われる言葉に、榎本デザイナーは「服を介してコミュニケーションを取る楽しさ」を重ねたという。「あいさつは対人関係における1番最初のコミュニケーションであり、ショーはブランドにとって1番最初のあいさつ。第二の家でもあるアトリエでショーを開くことで、自分の素をさらけ出し、『ヴェイン』の親密感をゲストにも感じてほしかった」。
ショーは、黒いジャケットに同色のコート、ストレートデニムを合わせたルックでスタート。榎本デザイナーは「『ヴェイン』らしくなくて一番好き。クリーンでリラクシングな雰囲気のものを選んだ」という。今回のコレクションでは、カジュアルやストリートなどの定石から外れて自由になることを意識したという。ビンテージ加工を施した革靴や、裾のリブをダメージ加工したMA-1、ダメージ加工したフーディーが繰り返し登場したほか、大きくドロップした肩のラインが特徴のジップアップのニット、パワーショルダーのジャケットなどによって、エレガントなムードも加える。
ブランドコンセプトである「構造表現主義(structural expressionism)」も忘れない。洋服の構造をデザインするアイテムには、ストラップが左右の身頃間を横断するジャケットや、膝部分をカットオフして切り替えたジーンズやスエットパンツ、ドローコードで裾を絞り、形を変えるミリタリーパンツが並ぶ。トレンチコートのウエスト下部分のペンシルスカートや、ラップスカートタイプのバッグで新しい洋服の可能性を提案した。
等身大のクリエイション
「ドーンピンクは始まりの色」
榎本デザイナーは「『アタッチメント』を手掛け出してしばらくは、キャパオーバーになっていたが、最近は心の余裕が出てきた」といい、家族や友人と過ごす時間からインスピレーションを得たディテールも落とし込んでいる。例えば知人と開催したサッカーイベントの思い出を、1990年代のサッカーユニホームをサンプリングしたレースアップシャツで表現したほか、子どもを保育園に迎えに行く際に、多摩川から見える夕焼けを模したピンクカラーで再現。「これは“朝焼け”色でもある。“始まり”の意味を込め、『ドーンピンク』と名付けた」。
榎本デザイナーの「自由なスタイリングで」というオーダーには、スタイリストの髙田勇人が応えた。ニットトップスをモデルの体に巻きつけたり、くるぶし近くまでマフラーを垂らしたり。レザー地のストールを固結びして作った大きなコブに至っては、「僕らのノリ」と笑う。モデルの個性をスタイリングに盛り込み、同じアイテムでも複数の見え方が生まれるように演出した。
榎本デザイナーがフィナーレに登場し、小走りで会場を後にして間もなく、照明と音楽が突然落とされる。「初めて会う人とあいさつをした後、『……で、これからどうする?』と次の会話を切り出す緊張感を表現したかった」。19年のブランドスタートから5年目を迎え、新たに始めた“会話”には、デザイナーの「かっこつけない」等身大なクリエイションが詰まっている。