サステナビリティ

LVMHのサステナビリティ戦略「LIFE 360」の壮大な計画 キーパーソンが語る

有料会員限定記事

PROFILE: エレーヌ・ヴァラド/LVMH エンバイロメント・デベロップメント・ディレクター

エレーヌ・ヴァラド/LVMH エンバイロメント・デベロップメント・ディレクター
PROFILE: 多国籍市場調査コンサルティング会社IFOP、調査会社TNS Sofresを経て、2005年に水道事業と廃棄物事業を展開するスエズ・エンバイロメント(Suez Environment)傘下のリヨン水道(Lyonnaise des Eau)のサステナブル・デベロップメント・ディレクターに就任する。14年にスエズのサステナブル・デベロップメント部門長に昇格。20年1月に現職に就任。 2007年に共同ファウンダーとしてC3Dを立ち上げるとともに、2016年までサステナブル・デベロップメント・ディレクター・カレッジ(College of Sustainable Developent Directors)のプレジデントを務めるなどサステナビリティ関連の教育に注力し、2018年より企業CSR戦略を支援するORSEのプレジデントを務める。国家功労勲章シュバリエおよびレジオンドヌール勲章を叙勲。フランス国立科学研究センター(CNRS), フランス環境エネルギー管理庁(ADEME)、アリアンス・フランセーズのボードメンバーを務める PHOTO:KAZUSHI TOYOTA
グローバル先進企業には必ずサステナビリティ戦略の「顔」となる人物がいる。LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトンで2020年からその大役を担っているのが、エレーヌ・ヴァラドLVMH エンバイロメント・デベロップメント・ディレクターである。プロフィールを見れば水道、廃棄、科学、教育といった言葉が並ぶサステナビリティを取り巻く多分野で経験豊かなその道のスペシャリストだ。来日したヴァラド・ディレククターに同社のサステナビリティ戦略「LIFE360」について聞いた。それは、ビジネスの根底に関わる壮大なスケールだ。

30年までに製品を100%、エコデザインとする

WWDJAPAN(以下、WWD):「LIFE360」は「LVMH Initiatives For the Environment 360」の略とのことだが、その基本的な考え方とは?

エレーヌ・ヴァラドLVMH エンバイロメント・デベロップメント・ディレクター(以下、ヴァラド):環境問題、持続ある発展が世の中に提起されたのが1992年のリオ・サミットのことで、以降LVMHグループも問題に対する意識を持ち続けてきた。その上で2020年にはそれに弾みをつけるものを作ろうと決めた。なぜなら、サステナビリティに対する期待が従業員から上がり、同時にお客さまからの期待も大きくなっていたからだ。

まずは「ラグジュアリーの未来を問う」委員会を立ち上げた。メンバーは経済学者や哲学者、社会学者、デザイナーなど社外から参加してもらい、「ラグジュアリーの未来を司るためにどのような課題があるか?」を理解するために話し合った。委員会の主な成果は、文化そのものが変わりつつあり、環境をより意識する文化に向かっていることが明らかになったこと。以前は人が自然を支配していたが、今は自然と人との間に新たなアライアンスが生まれている。その委員会の提言をベースにこの「LIFE360」計画を作った。求めるものは「自然界とより調和のとれた関係を築くにはどうすればいいのか」。生物多様性への影響をどのようにしてより良いものにするかを考えた内容になっている。なぜならわれわれが使う素材の多くは天然素材だから。2021年にスタートし、行動計画や具体的な数値目標を盛り込んでいる。大いに努力をしなければならない内容だ。

WWD:「360」は全方位に取り組む、という意味?

ヴァラド:いや、きちんとした段階を踏んでいく意思表示だ。23年目標、26年目標、30年目標をそれぞれ定め、末尾の数字をとった。この計画は戦略として掲げて飾っておくものではなく、LVMHのグローバル戦略に統合されている。だからこそ、アントワン・アルノーLVMHイメージ&環境部門プレジデントが21年の総会でこの計画を発表した。

4つの行動計画 。一つ目は「循環型経済」

ヴァラド:「LIFE360」には4つの行動計画がある。一つ目は「創造性に富んだ循環型経済」。つまり高品質な製品は環境の面からも高品質でなければいけないと考えている。30年までに製品を100%、エコデザインとする。エコデザインとは、リサイクル素材や生物由来の材料の採用や、その製品(の生産過程)がどの道をどうたどり、使用後はどうなるかを作る前段階から見通して設計すること。例えば「この製品にはこういう素材を使用しているから、最後は再利用できるだろう」といったことまで考える。化粧品やフレグランスで特に大事になる。

WWD:化粧品や香水の容器のリサイクルは難しい。油を使っているから洗わないと行けない。そういったことも解決する?

ヴァラド:廃棄物回収・リサイクルの「セードル(CEDRE)」とは2010年から取り組んでいる。香水&化粧品での取り組みをはじめ、現在はテキスタイルの開発も進めている。

WWD:修理もキーワードに挙げているが、修理自体はこれまでも行ってきたサービス。さらに強化をするのか?また事業化も考える?

ヴァラド:ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は年間に60万パーツ、50万点の修理を世界中で行っているが、「LIFE360」により目標を強化した。「ルイ・ヴィトン」だけではなくて、グループの各メゾンブランドで修理のサービスに力を入れることがまずは挙げられる。「ロエベ(LOEWE)」は昨年、革製品の修理と補修を専門とする「ロエベ リクラフト」を大阪の阪急うめだ本店にオープンしている。「リモワ(RIMOWA)」は22年11月から購入していただいたスーツケースは、生涯保証している。修理には値段をつけている。仕立て直しやカスタマイズといったサービスをつけているから。修理は私たちの製品をより良い秀逸なものにすることができる機会だと考えている。

もっとも重要な行動計画は「生物多様性」

ヴァラド:2つ目のアクションであり一番重要なのが「生物多様性」だ。私たちが作る製品は自然由来が大部分であり、植物がなければフレグランスは作れないし、ブドウなしにはシャンパンも作れない。蚕を育てなければ、きれいなシルクの服も作れない。30年までに500万ヘクタールの土地を修復し再生していく。

WWD:そのために何をするのか?

ヴァラド:まず、水リスクや生物多様性の問題がある地域からは資源を調達しない。例えばアマゾン由来のレザーは使わない。そして私たちのサプライチェーンにいる農業従事者や畜産者の実践自体を変えられるよう寄り添って支援していく。環境再生型農業への移行だ。地域を保護するために、例えばアマゾン地域はユネスコと提携するなどしっかりとした外部機関と取り組む。

この続きを読むには…
残り2158⽂字, 画像2枚
この記事は、有料会員限定記事です。
紙版を定期購読中の方も閲覧することができます。
定期購読についてはこちらからご確認ください。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

リーダーたちに聞く「最強のファッション ✕ DX」

「WWDJAPAN」11月18日号の特集は、毎年恒例の「DX特集」です。今回はDXの先進企業&キーパーソンたちに「リテール」「サプライチェーン」「AI」そして「中国」の4つのテーマで迫ります。「シーイン」「TEMU」などメガ越境EC企業の台頭する一方、1992年には世界一だった日本企業の競争力は直近では38位にまで後退。その理由は生産性の低さです。DXは多くの日本企業の経営者にとって待ったなしの課…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。