ファッション

エルメス「つかの間の停泊者」展リポート 作家4人の壮大な作品を解説

エルメス(HERMES)財団は、「エコロジー:循環をめぐるダイアローグ」展ダイアローグ2「つかの間の停泊者」を、銀座メゾンエルメスフォーラムで開催中だ。会期は5月31日まで。

同展は、昨年から個展とグループ展の二部構成にわたって開催しており、アートにおけるエコロジーの実践を問う展覧会だ。第1弾のチェ・ジェウン(崔在銀)個展「新たな生(La Vita Nuova)」に続く第2弾「つかの間の停泊者」は、ニコラ・フロック(Nicolas Floc'h)、ケイト・ニュービー(Kate Newby)、保良雄(やすら・たけし)、ラファエル・ザルカ(Raphael Zarka)のアーティスト4人に焦点を当てた。

展覧会名の“エコロジー”は、家や住居を意味するギリシャ語「オイコス」と、論理や学問を意味する「ロゴス」を合わせて19世紀にできた造語だ。同展では“エコロジー”を単なる自然環境ではなく、“循環するエネルギーのありさま”と捉え、「“地球”という惑星に、ほんのつかの間存在する人間やモノ」について、4人の作品を通じて問いかける。

水中と一体化する写真家
ニコラ・フロック

ニコラ・フロックは、世界各地の海や河川に潜りながら、水面下の生態系をテーマに撮影を続けてきた。その理由を「私たちの起源である海洋が、地球、大気、氷とどう相互作用しているのか、その理解を深めたい」と、同氏は語る。青と緑のグラデーションが目を引く「水の色、水柱」は、65枚の写真で編成した作品だ。フロックは、仏マルセイユのカランク・ド・コルティウの海岸からリウ島までの5キロにわたって水深5〜30メートルの水景を撮影。色の変化には水深と微生物の数による濃度が関係しており、マルセイユ市が流出してきた廃水が水域の景観に与える影響を色のグラデーションで伝えている。他にも、自然光で水中の景観を撮り下ろしたモノクロ写真「インヴィジブル」「海の始まり」などを展示している。

素材を巧みに操る彫刻師
ケイト・ニュービー

セラミックやガラス、布など、さまざまな素材を操るケイト・ニュービーは、栃木・益子と居住地である米テキサスで制作した、新作のセラミック作品2点を展示。どちらも、現地の人とのつながりや、素材と対話することで生まれるエネルギーに着目する同氏ならではの作品だ。8階のフロアには、藤原陶房と益子で協働した、300ピース以上の陶板からなる「いつも、いつも、いつも」を設置。陶土の上でニュービーが体を自在に動かしながら形を作り、また複数の釉薬や原土パウダー、東京の街を歩きながら収集したガラスなどを用いて、さまざまな土の姿を表現した。そのとなりには、米テキサスで制作した1000ピースあまりのウィンド・チャイム「呼んでいる、呼んでいる」を展示している。

あらゆる存在を平等に受け入れる
保良雄

保良雄は、3つの相関する作品から構成したインスタレーションを披露した。同氏は「テクノロジー、生物、無生物、人間を縦軸ではなく横軸で捉え、存在を存在として認めることが制作の目的」と語り、アートワークの一環で農業や養蜂も行っている。「noise」は、帰宅困難地域だった福島・大熊町で栽培された稲藁を原料に、保良自身が作った和紙を用いた円柱状のドームだ。内側には12個の照明を配し、同会場内に設置した太鼓の上に落ちる精油の音によってランダムに点灯する。精油は東京と福島、千葉、沖縄で採取した柑橘から抽出した。

「cosmos」は、木材と大理石の台座の上に19世紀に天気予報に使われていたストームグラスを置き、自然素材を通して宇宙の秩序の可視化を試みる。「glacier」は、ネパールのアンナプルナで採取した氷河の氷が、手の平で溶けていく様子を24枚の写真に収めた作品だ。人間社会におけるモノとの関係を検証しながら、エコロジーの中に潜在する優劣や格差などへの批判を込めたアプローチを披露している。

新旧アートを乗りこなす奇才
ラフェエル・ザルカ

美術史における過去作品の流用と再利用に着目するラフェエル・ザルカは、スケートボードを媒体とした作品と、斜方立方八面体に関する作品を紹介する。「ライディング・モダンアート」は、パブリックアートの上をスケートボーダーが滑る様子を捉えたモノクロ写真シリーズだ。東京やパリ、バーゼル、シカゴなどの世界各地で撮影した“モダンアートに乗る”姿は、アートである彫刻に新たな命を吹き込む。「斜方立方八面体のカタログ・レゾネ」は、2009年から続くザルカの研究発表だ。斜方立方八面体は、絵画や建造物、お菓子の箱、おもちゃなど、歴史のさまざまなシーンで採用されてきた。特段実用性に優れたわけでもないこの立体がなぜ人々を惹きつけるのか、その“謎めいた形”に迫っている。

■「エコロジー:循環をめぐるダイアローグ」
ダイアローグ2 「つかの間の停泊者」
ニコラ・フロック、ケイト・ニュービー、保良雄、ラファエル・ザルカ
日程:開催中〜5月31日
時間:11:00〜19:00(入場は18:30まで)
場所:銀座メゾンエルメス フォーラム 8・9階
住所:東京都中央区銀座5-4-1
料金:無料
※開館日や開館時間は、エルメス銀座店の営業に準ずる

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