ニューヨーク、ロンドン、ミラノに続き、2024-25年秋冬パリ・ファッション・ウィーク(以下、パリコレ)が2月26日に開幕した。3月5日までの9日間にわたり、公式スケジュールでは総勢107ブランドがショーやプレゼンテーションで新作を発表する。
夕方から始まった初日は、若手ブランドが中心。夜には高橋悠介クリエイティブ・ディレクターによる「CFCL」がショーを開いた。これまでは公式スケジュールのプレゼンテーション枠での参加だった(その中でショー形式の発表をしたり、ミニショーを開いたりもしていた)が、今回は初めて正式にショー枠での発表となった。パリコレは過密スケジュールのため、グローバルでの注目度やメディア露出という点で、ショー枠のブランドの方が有利。そのため、そこを目指す若手ブランドは多い。高橋クリエイティブ・ディレクターも以前からショー枠を希望していたといい、パリコレに参加し始めてから4シーズンの実績によって念願がかなった。ただ、初の公式ショーだからといって気負ったり、観客をアッと言わせるための華美なショーピースを作ることはなく、ストイックなモノづくりとシンプルなランウエイで「CFCL」の世界観を表現した。
ニットで作る日常のワードローブ
“韻律(Cadence)”をテーマにした今季、暮らしの中での道具としての服をニットで表現する“ニットウエア(Knit-ware)”(wareは機能をもった器の意)という概念を追求する高橋クリエイティブ・ディレクターは、衣服の実用性と控えめなエレガンスに着目。「実用的ではない要素を省いていった時に、服がもつ役割は日常に変化やリズムをつけることではないかと感じた」と説明し、朝から晩まで、そしてオンからオフまで抑揚のある現代の日常生活を支えるワードローブを提案した。
ラインアップは、ハイゲージで編んだボクシーなスーツスタイルやフォーマルなシーンにも使えそうなシックな黒のドレスから、スポーティーなメッシュ構造を用いたフェンシングジャケットやフード付きのコート、細かい凸凹でストライプを表現するコクーンシルエットのボンバージャケットなどのカジュアルなスタイルまで。そこにラメ糸のセーターやタイツ、透け感のあるトップスやフレアパンツ、ウエアと同色のスパンコールを手縫いしたドレスやスカートを加えて、リズムをつけていく。また、彫刻的なシルエットが特徴的なアイコンシリーズ“ポッタリー”は光沢のあるベロアのような風合いで仕上げることにより、いつもより柔らかなラインを描き、新たな表情を見せた。
ショー音楽は、セルビア出身でベルリン在住の現代音楽作曲家クリスティーナ・スザーク(Hristina Susak)に制作を依頼。「東京でのコンサートを聴いて、感銘を受けた。緊張感と反復するリズム、シンプルな構造という彼女の音楽に対する考え方は、『CFCL』にマッチすると感じる」という。ただ、弦楽器のカルテットが弾くかすれたような音と奏者が上げる声で生む感情をむき出しにしたような旋律は、心をざわつかせた。
そんな音楽はコンセプチュアルすぎたようにも思えたが、ブランド設立から8回目になる今回は、シーズンごとに取り組んできた挑戦の積み重ねとニットへの飽くなき探究心が見て取れた。それは、公式のショー枠に入ったことで初めてコレクションを目にする観客にも「CFCL」らしさが伝わるものだっただろう。
ショーを終えて、高橋クリエイティブ・ディレクターが語ったのは「ショーに翻弄されないようにしたいという気持ちがあった。半年に1回新しいものを作らなければいけないというよりも、日常で買ってくれたり着てくれたりするお客さまをしっかり増やしていって、ファンにしたい」ということ。その思いを反映したバリエーション豊かな提案は、これまでより多くの人に響きそうだ。