「ダウンビートランニング(DOWNBEAT RUNNING)」は昨年9月、新宿・歌舞伎町にオープンしたランショップだ。「オン(ON)」などの大手メーカーのほかに、「サティスファイ(SATISFY))」「ノルダ(NORDA)」「ソアー ランニング(SOAR RUNNING)」「チャンス(CHANCE)」「ディストリクト ヴィジョン(DISTRICT VISION))」「タヌキ(TANNUKI)」と、国内外から集めたインディペンデントなブランドが並ぶ。店舗面積66平方メートルながら、1日100万円を売ることもある。月間平均売り上げは1500万円だ。同店を率いる今井崇ディレクターは、過去にスニーカーショップ「アトモス(ATMOS)」で店長やバイヤーを務めていた。スニーカーの最前線にいた人物が、なぜランニングショップを始めたのか。
WWDJAPAN(以下、WWD):ランニングにはまったきっかけは?
今井崇「ダウンビートランニング」ディレクター(以下、今井):最初は健康のためでした。酒もタバコも大好きで、それまでの不摂生がたたって痛風が発症して(笑)。これはマズイと思っていたところ、「アディダス(ADIDAS)」から皇居ランに誘われました。中学時代に陸上をやっていたけれど、ウエアがダサくて、それ以来は走っていませんでした。ところが、提供いただいたウエアとシューズがかなりイケてて、「ファッションとしても面白いじゃん」と、次第にハマっていきました。
WWD:ビジネスとして興味を持った理由は?
今井:スニーカーにはない市場の可能性を感じたから。スニーカーって、実は革新的なモデルがなかなか生まれないんです。それでも売るために、過去の商品の色を変えてみたり、誰かとコラボして付加価値をつけてみたり。いつしかそのサイクルを、心から楽しめていない自分がいました。一方ランニングは、最先端の技術をフル活用して作るから、シーズンごとに着実な進化があるし、自分で履いて機能も実感できる。メーカー同士がバチバチに競い合っているのも、ゲーム性があって面白い。実は「アトモス」時代にも、スポーツ目線のスニーカー屋を構想していました。しかし、「アトモス」はライフスタイルカテゴリーでメーカーと契約していて、パフォーマンスを卸してもらうのも難しいし、どこまで需要があるかが読めないから、実現しませんでした。だったら自分でやろうと、独立を決めました。
今井:個性が出ないから。ウチは近くに「アルペントーキョー(ALPEN TOKYO)」があって、大手メーカーを量でそろえても意味がない。それよりも、自分の感覚と人脈を生かして、“イケてる”と思うブランドをピュアに集めた方が、個性あるショップになる。それと、大手メーカーは四半期ごとにモデルチェンジするから、在庫リスクも高い。キャリーオーバーの多いメーカーとお付き合いした方が、長い目で見ると健全です。「オン」は大手の規模ながらも、ソール構造から開発する独自のアプローチが面白いし、デザイン性も高く、ショップと親和性があります。
WWD:新宿に店を構えたのはインバウンドが狙い?
今井:それも見据えていました。でも最初は、純粋にいい物件が見つかったからです。原宿や渋谷はすでにスポーツショップがたくさんあって、客層も予想できる。せっかく自分で店をやるなら、“予想できない何か”が生まれてほしくて。
WWD:実際に予想外の出来事は起こっている?
今井:はい。タイの爆買い観光客が押し寄せています。タイでは今、ランニングすることがステータスになっていて、タイの王族の方が「オン」のシューズを履いたことから、同ブランドの人気が急上昇しているそう。“「オン」が買える店”としてタイ人に知られていて、この間、ウチの店に「ON」とだけ書いた地図を持ったお客さまが入ってきました(笑)。
WWD:今後の目標は?
今井:まずはウェブを充実させます。そこが整えば月商2000万円までは伸ばせるんじゃないかな?あとは地方にも店を構えて、東京と異なるコミュニティーとつながりたいです。2月14日には、韓国にフランチャイズ店舗を開きました。ウチのコンセプトを面白がってフランチャイズでやらせてくれと依頼があり、そこからかなりのスピードで出店しました。ほかにもマレーシアとシンガポールからもリクエストをもらっていて、準備を進めています。規模が大きくなれば、ショップの表現の幅も広がる。今はシューズの別注は難しいけれど、2000人の顧客リストがあればメーカーも動いてくれるようになるかもしれない。それでも、やりたいことは曲げません。ランニングはパフォーマンスだけでなく、自己表現の一つ。いろいろな楽しみ方があっていい。そんな人を後押しする店として、今後も運営し続けます。
■ダウンビートランニング
住所:東京都新宿区新宿3-22-11 JACKPOT 1F
営業時間:12:00〜21:00