2024-25年秋冬ロンドン・コレクションで海外の有力バイヤーの視線を集めたのは、「英国スタイル」と「フェイクファー」「フルスカート」。ここ数シーズン席巻した“クワイエット・ラグジュアリー”は継続することなく、イギリスのライフスタイルやカルチャーを回帰するアイデアやテクニックが織り込まれた。ブランドの伝統を重んじるダニエル・リー(Daniel Lee)による「バーバリー(BURBERRY)」のアウターウエアや「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」のニットのバリエーション、「ロクサンダ(ROKSANDA)」を筆頭とするバリエーション豊富な色彩は、ロンドンのトレンドになりそうだ。
ハロッズ(HARRODS)
サイモン・ロングランド(Simon Longland)=ファッション部門バイイング・ディレクター
良かったブランド:「アーデム(ERDEM)」のコレクションは力強く、オペラ歌手、マリア・カラス(Maria Callas)からのインスピレーションが随所に感じられた。美しいドレスのバリエーションに加え、ニットウエアも注目したい。また、ツイードにデザインを施したトータルルックやフェザーで縁取ったセットアップなどのコーディネート提案は、シーン問わず対応でき、すぐにでも人気が出そうだ。
「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」の力強いコレクションは、ドラマチックな会場の雰囲気と相まって、感動した。フェイクファーのトリミングからシアーなスカートやケープまで、彼女が新しい形に楽しんで取り組んだことは見ているだけで楽しい気分になった。目新しい砂時計シルエットは、ここ数シーズンのトレンドに上がるスーパーフェミニンなスタイルをさらに盛り上げるだろう。
「バーバリー」は、当初から探求しているアウトドアをテーマにしていて、店頭に並ぶアイテムと同じ。ソフトなニュートラルカラーやアースグリーン、ブラックに加えたポップなレッドのカラーパレットは「バーバリー」らしいセレクション。アウターが主役となった今シーズンは、クロップド丈のボマージャケットやワックス仕上げのパーカ、レザーのトレンチコート、シアリングジャケットなどが素晴らしい。キルトや、キルトにインスパイアされたデザインも随所に見られた。
注目したいトレンド:「バーバリー」や「エミリア ウィックステッド(EMILIA WICKSTEAD)」「シモーン ロシャ」がアウターなどのポイントにしたフェイクファー。「JW アンダーソン」が提案したさまざまな形やフィット感のニットウエア。
マストハブなアイテム:「16アーリントン(16ARLINGTON)」のシルバーのテンセル生地のマキシスカート。「アーデム」のニットのスカーフセット。「バーバリー」のクラシックなトレンチやボマージャケット、シアリングジャケットは来シーズンのマストアイテムになるだろう。
ネッタポルテ(NET-A-PORTER)
リビー・ペイジ(Libby Page)=マーケット・ディレクター
良かったブランド:「アーデム」。ニューヨーク・コレクションで多かったエレガンスのトレンドをけん引。
注目したいトレンド:「アーデム」や「モリー ゴダード(MOLLY GODDARD)」が提案した“オックスブラッド(Oxblood)”の色。「エミリア ウィックステッド」や「JW アンダーソン」によるプレッピーな“グラニー・シック”のアプローチは気に入った。
マストハブなアイテム:「JW アンダーソン」の透かし編みのニットセット。
注目の新進ブランド:「トル コーカー(TOLU COKER)」。イギリス系ナイジェリア人デザイナー、トル・コーカー(Tolu Cocker)によるアフリカンテイストのエネルギッシュなコレクション。
ブラウンズ(BROWNS)
ヘザー・グラムストン(Heather Gramston)=バイイング部門シニアヘッド
良かったブランド:「16アーリントン」「JW アンダーソン」「シモーン ロシャ」。
注目したいトレンド:“クワイエット・ラグジュアリー”から脱却し、チャンキーな冬の定番アイテムとともにセクシーな着こなしへと移行している。
マストハブなアイテム:「JW アンダーソン」の卓越された技術のストライプ柄ニットとシアリングブーツ。「16アーリントン」のレザーメタリックのカーゴパンツ。
ハーヴェイ・ニコルズ(HARVEY NICHOLS)
ローラ・ラーバレスティア(Laura Larbalestier)=ファッション・ディレクター
注目したいトレンド:英国らしさを感じるインスピレーション源。「アーデム」のマリア・カラス、「16アーリントン」のモンスターとマドンナ(Madonna)、「シモーン ロシャ」のビクトリア女王の喪服、「ジェイ ダブリュー アンダーソン」の比喩や型への探求。
マストハブなアイテム:「シモーン ロシャ」のバラクラバ、「アーデム」のロンググローブ、「JW アンダーソン」のトレンチトップ。
ニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)
ジョディ・カーン(Jodi Kahn)=ラグジュアリーファッション部門バイス・プレジデント
良かったブランド:「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のクチュールを発表したばかりの「シモーン ロシャ」。コレクションのメーンテーマにあった彫刻のようなシルエットを生み出すコルセットには、テーラリングの技術が存分に発揮され、彼女の新境地が伺えた。シアーで美しい装飾が施されたドレスやスカートは、テーラリングとは対照的にソフトな印象だった。
「アーデム」のグラマラスな色彩やテクスチャー、シルエットのバリエーションには、また感心した。目を見張るようなフェザーコートから、宝石で縁取られたイブニングパジャマまで、どのアイテムもタイムレスな魅力に溢れていた。
注目したいトレンド:ロンドンのランウエイでさまざまな色彩を見ることができて、私たちはとてもうれしかった。「バーバリー」や「モリー ゴダード」「アーデム」「JW アンダーソン」による深い赤のガーネットやバーガンディ、明るい黄緑のシャルトルーズグリーンの豊かな色合い。「シモーン ロシャ」や「16アーリントン」では、チュールやシフォン、ニットといった透け感のある素材の使い方が目を引いた。全体的には、フェザーやファーが立体感を加え、ワインレッドは引き続きキーカラーになりそうだ。
マストハブなアイテム:「バーバリー」のアウター。ブランドの必需品であるが、ダニエル・リーにより確固たるものにした。シティからゲレンデまで、ブランドを象徴するデザインがそろった。特に、アイボリーのシアリングコートやチェック柄のダッフルコート、レザーのロングトレンチなどは注目。
注目の新進ブランド:「コナー アイブス(CONNER IVES)」と23年度「LVMHプライズ」セミファイナリストに選ばれた「アーロン エッシュ」(AERON ESH)」。
ノードストローム(NORDSTROM)
リッキー・デ・ソーレ(Rickie De Sole)=ウィメンズ・ファッション・ディレクター
良かったブランド:「JW アンダーソン」「アーデム」「シモーン ロシャ」「モリー ゴダード」「バーバリー」。
注目したいトレンド:けばだった質感がそこかしこに見られた。手触りのよいシアリング、風通しのよいフェザー、そしてループ状の糸がスタイリングの主役だ。「シモーン ロシャ」や「ノウルズ(KNWLS)」のレースアップのコルセットのディテールをあしらったランジェリーやインナー、「アーデム」の見せるブラやスリップスカートは、コレクション全体にセクシーなアクセントを加えた。
アウターはミックスアレンジされたトレンチコート、ボリュームのあるダッフル、オーバーサイズのツイードコートなど、評価が高い。中でも「バーバリー」は、現代的なディテールを取り入れた魅力的なスタイルでリードした。
シルエットはオーバー。「JW アンダーソン」のマクロニットや「モリー ゴダード」のふわふわとしたシフォンスカート、「シモーン ロシャ」の球根のような丸いシルエットのケープドレスなど。
マストハブなアイテム:「JW アンダーソン」のロープハンドルのバッグ、「バーバリー」の首元を覆うファンネルネックのコート。
注目の新進ブランド:2023年「LVMHプライズ」最終選考に残った、ポーリナ・ルッソとルシール・ギルマード(Lucile Guilmard)による「ポーリナ ルッソ(PAOLINA RUSSO)」。
セルフリッジ(SELFRIDGES)
ボス・ミール(Bosse Myhr)/メンズウエア&ウィメンズウエアディレクター
良かったブランド:「シモーン ロシャ」は美しくエモーショナルで、ドラマチックなコレクションを披露した。メンズウエアも充実していて満足している。「JW アンダーソン」は着やすいセパレートと独特の質感の生地を幅広く見せてくれた。
注目したいトレンド:「バーバリー」のような手の込んだアウターウエアやコート、「ロクサンダ」の一際目を引く大きなガウンのイブニングウエアやパーティウエア、「デヴィッド コーマ(DAVID KOMA)」のショートドレス。透け感のある生地や金具のアクセサリーは、ほとんどすべてのショーで見られた。
注目ブランド:サイモン・ホロウェイ(Simon Holloway)のデビューショーとなった「ダンヒル(DUNHILL)」は、ブランドのヘリテージにとても合う英国美学の真髄を捉えた素晴らしいショーだった。