3月12日に初任給40万円の引き上げを公表したTOKYO BASE。ファーストリテイリングを超える業界最高水準のベースアップは大きな話題となった。谷正人TOKYO BASE最高経営責任者(CEO)は3月26日に開かれたメディア向けラウンドテーブルでベースアップの背景について語った。
新卒のエントリー数は2倍以上、中途は6、7倍に
同社は2024年3月入社以降の社員から学歴、年次に関わらず初任給を一律で30万円から40万円に引き上げると同時に、全社員を対象としたベースアップを行うと今春発表している。発表以降2週間足らずではあるが、すでに新卒のエントリー数は2倍以上に、中途は6、7倍に増えたという。
「背景は大きく3つ。1つは日本一の企業を目指すには、日本一の給与水準にするべきだと考えていること。2つ目は、東名阪に絞った出店戦略を続ける中でビジネスモデルが整理されてきたこと。3つ目は、さらなる海外出店を見据える中で世界基準になるべく早く合わせる必要を感じたことだ」と谷CEO。優秀な人材の確保や離職率低下につなげることが狙いだ。
「固定残業代80時間分に深い理由はない」
しかし、40万円のうち17万2000円は80時間分の固定残業代であるという点に注目が集まり、「80時間は過労死基準に匹敵するものではないか」と、SNSを中心に批判も集めた。
これに対して谷CEOはメディアラウンドテーブルで言及。「当社の販売スタッフの残業時間は平均10時間〜20時間。万が一45時間を超えた社員には始末書で改善策を提出させることを徹底している。(80時間分の設定は)僕らがベンチマークしている企業がそのような設定をしていたので、それに倣っただけで深い理由はない。そもそも80時間の残業は過労死レベルだ。固定残業代を設定することで無駄な残業を減らす狙いもあった。社内では、この数字を気にする人は誰もいない。残業代を稼ごうという人はそもそも採用もしない。当社の文化・認識と世の中の受け止め方にギャップがあったのかもしれない。今回金額だけが一人歩きしてしまったが、本来社員を大事にするのであれば、当たり前だがちゃんと対価を払いたい。他社に対しても、表面的な社内の販売スタッフコンテストを行なって優秀者を表彰するような方法よりも、ちゃんとお金を払うべきだと思う。もちろん経営者はそれに伴ってきちんと利益が出るビジネスモデルを組む責任がある。社員を労働者として見るのではなく、1人1人にちゃんと向き合うという姿勢を、ファッション産業全体のためにもメッセージとして出したかった」。
同社はかねてより、ファッション業界の社会的地位を向上させることを目指してきた。そのためには収入は不可欠であると捉え、独自のインセンティブ制度「スーパースターセールス制度」を続けていた。これは販売スタッフを対象に、売り上げの一定基準をクリアするとその10%が給与として還元されるというもの。5段階で設定し、年間販売額7000万円、8500万円、1億円、1億2000万円、1億5000万円の達成で、それぞれ年収が700万円、850万円、1000万円、1200万円、1500万円になる。2024年1月期は合計で38人の社員がスーパースターセールスになった。また販売スタッフ一人当たりの月間売上高は395万9000円と過去最高の労働生産性を記録したという。