「プッチ(PUCCI)」は4月4日、イタリア・ローマで2024年春夏コレクション“ベリー・ヴィヴァラ(VERY VIVARA)”のファッションショーを開いた。15世紀に建てられた邸宅(パラッツォ)を修復したローマ国立博物館アルテンプス宮を舞台に、カミーユ・ミチェリ(Camille Miceli)=アーティスティック・ディレクターは象徴的なプリントを生かしたリアリティーのあるスタイルを提案。リゾートウエアにとどまらない、ブランドの着実な進化を見せた。
都会的な着こなしを意識した提案
今回のショーにローマを選んだのは、「父の故郷ということもあり、私にとってパーソナルで親しみのある場所だから」とカミーユ。「それだけでなく、ローマの女性はある意味とても『プッチ』的だとも思う。つまり、イージーゴーイングで、働かない(笑)。ただ人生を楽しんでいるの。私自身も引退したら住みたい街」と冗談まじりに話す。それだけでなく、世界遺産や歴史的建造物がいたるところにあり、世界中から多くの人が訪れる都市というロケーション選びは、「リゾートだけでなく、街で過ごす日常でも着られるブランドとしてのイメージを確立したい」という彼女の思いにも合致する。
その思いは、コレクションを通して明確に示された。天井や壁にフレスコ画が描かれ、古代彫刻が並ぶ空間で行われたショーは、スーパーモデルのクリスティ・ターリントン(Christy Turlington)がまとう、首元にスパンコール刺しゅうで曲線模様をあしらった黒のカフタンからスタート。序盤はカーキや黒、茶、ベージュといういつもより落ち着いた色彩で柄を描いたルックを打ち出した。もちろん鮮やかな色柄のシルクツイルを用いたリゾートライクなスタイルもあるが、今季は都会的な着こなしをより強く意識。黒をベースに縁取りやトリムだけにプリントを用いたテーラリングやドレス、そしてブルーの濃淡で柄を表現したジーンズやデニムスカートとプリントアイテムをミックスしたコーディネートは、「プッチ」のアイコンがデイウエアとして活躍することを感じさせる提案だ。一方、全面にスパンコール刺しゅうを施した贅沢なイブニングドレスやセットアップは、パーティーなどの特別なオケージョンを想起させる。
1965年に生まれた“ヴィヴァラ”プリントを復刻
終盤は、シーズンを象徴する柄として復刻した1965年誕生の“ヴィヴァラ”プリントを、涼しげなブルーや淡いパープルを中心としたオリジナルの配色で使用。スポンジのように柔らかなパイル地で、さまざまなスタイルのマキシドレスを仕立てた。そんな“ヴィヴァラ”プリントは、今季の出発点となった90年9月号のイタリア版「ヴォーグ(VOGUE)」の表紙に使われた柄。ラストルックには、そのカバーモデルを務めたローマ出身の女優イザベラ・ロッセリーニ(Isabella Rossellini)がケープドレスをまとい、笑顔を振りまきながらランウエイを歩いた。
言わずもがな、豊富なプリントアーカイブは、「プッチ」にとって貴重な遺産だ。そこに“活気”を与えるため、カミーユは2022年のデビュー以来、コレクションに用いる全ての柄を手描きで描き直している。そして、時に柄をふくらませたり、一部を抽出したりして再解釈。「柄は全てアーカイブ。それをセンシュアルかつ洗練されたシルエットと組み合わせることで、現代にふさわしいウエアにすることを心掛けている」という。今回復刻した“ヴィヴァラ”については、「(創業者の)エミリオにとって代表的かつクラシックな柄だけど、最初の数シーズンはコレクションに使いたくなかった。というのも、まずは『プッチ』のサイケデリックな面にフォーカスしたかったから。そしてブランドを“クレッシェンド”のように盛り上げていく中で、ふさわしい時期が来たと感じた」とコメント。“ヴィヴァラ”のほか、今シーズンは白鳥の首の湾曲をイメージした“チーニ(CIGNI)”や波打つ渦巻きのようなデザインの“ベルサーリオ(BERSAGLIO)”、ストライプをプレイフルに解釈した“キアーヴェ(CHIAVE)”などがウエアを彩った。
充実するバッグやシューズ、アクセサリー
また、もともと「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」でアクセサリー部門のクリエイティブ・ディレクターを務めていたカミーユは、バッグやシューズ、アクセサリーの拡充にも注力している。今季はアイコニックなプリントを施した多彩なナイロンバッグや、シルクスカーフをサイドに編み込んだ夏らしいラフィア風素材のバッグ、エフォートレスなフラットサンダル、馬の足をモチーフにしたヒールが印象的なサンダル、バリエーション豊富なシルクスカーフ、大ぶりなディスクモチーフやウッドパーツのピアスやネックレス、スエードとメタルスタッズで幾何学的なデザインを表現したブレスレットなどが登場。パンツの上に着けた長いフリンジ付きのベルトや、ストラップをブレスレット同様のデザインで仕上げたシルクドレスなどにも、アクセサリーを得意とする彼女のバックグラウンドが垣間見える。
独自形式での発表を続ける理由
「プッチ」はカミーユ体制になって以来、ファッション・ウイークを離れ、独自の日程と場所で“シーナウ、バイナウ(See Now, Buy Now、見てすぐ買える)”コレクションとして新作を発表している。22年5月にカプリ島で開いたデビュープレゼンテーションに続き、同年12月にはスイス・サンモリッツの雪山でのプレゼンテーション、23年5月には創業の地フィレンツェのアルノ川沿いでの初のランウエイショーを通して、コレクションを披露してきた。その理由については、「『プッチ』というライフスタイルを強調する必要があるから。リゾートウエアからスタートした『プッチ』は他のブランドとは違う。だから、単にファッションショーだけではなく、皆がダンスを楽しむディナーパーティーやヨガなどのアクティビティーも含め、滞在中の体験全てを通して世界観を感じてほしい。それをファッション・ウイーク中に行うことはできないでしょ?“シーナウ、バイナウ”という形式を選んでいるのは、情報にあふれた時代だから」と説明する。
そして、デビューから2年を振り返り、彼女は「最初から“きっとうまくいく”という自信はあったけれど、このブランドは自分にぴったり合っているし、とても心地いい。私は、年齢も肌の色も問わず、女性を美しく見せると共に自信や活気をもたらす服を作りたい。そのために何よりも大切なのは、楽しむこと。この歳になって、退屈に過ごしている暇なんてないわ」と笑う。そんなポジティブなマインドとあふれるエネルギーこそ、今の「プッチ」を体現している。