アダストリアの基幹ブランド「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」が、“スーツに見える作業着”として知られるオアシスライフスタイルグループの「WWS (ダブリューダブリューエス)」とコラボレーションした商品を4月26日から発売する。2型からスタートする、一見小さな取り組みだが、実は両者にとって大きな可能性を秘めたプロジェクトでもある。
グローバルワークは2024年2月期に売上高が前期比13.3%増の516億円となり、500億円を突破。期末店舗数は219店舗になった。1000億円達成に向けて、長く愛される日常着を突き詰め、強い看板商品の開発や店舗の大型化やオペレーションの進化などに取り組み、その名の通りグローバルな展開を目指している途上だ。セットアップ、そして、「WWS」との協業が、その起爆剤の一つになるのか。アダストリアの木村治社長と、太田訓・執行役員「グローバルワーク」営業本部長、オアシスライフスタイルグループの関谷有三社長が語る、シナジー&両社の強みとは?
異例のコラボのきっかけは?
WWD:協業のきっかけは、1年ほど前に小売業や飲食業の経営者が集まる食事会で、アダストリアの木村治社長とオアシスの関谷有三社長が出会ったことだと聞く。
木村治アダストリア社長(以下、木村):「グローバルワーク」や「ニコアンド」でセットアップを扱ってきたことや、飲食担当をしていることなどもあり、「WWS」や「春水堂」には目を留めていた。会ってみたら、自ら著書(「なぜ、倒産寸前の水道屋がタピオカブームを仕掛け、アパレルでも売れたのか?」フォレスト出版刊)を持ってきて宣伝したりと、関谷社長自身が面白い方だった(笑)。
関谷有三オアシスライフスタイルグループ社長(以下、関谷):すごい大御所が集まる中で、アダストリアは『ライフスタイル界の巨人』であり、憧れの会社。木村社長もメディアなどで姿を拝見していたが実際にお目にかかると、とても気さくに声をかけていただき、渋谷ヒカリエにあるオフィスに遊びにおいでよと声をかけていただいたので、すぐに行った。ただ、そのときはコラボできたら面白いなとは思いつつ、実際には価格帯も規模も違うし、どういうアウトプットになるかはわからないというのが正直な気持ちだった。
ファンクショナルなボーダレスウエアでつながった
「グローバルワーク」と「WWS」の可能性
木村:「『WWS』の認知度を上げたい」という課題が話に出たので、だったらうちのブランドとコラボしたらいいのでは?と。アダストリアには多くのブランドがあるが、お客さまの層が幅広く、セットアップに力を入れている「グローバルワーク」が良い、とその場で太田を呼んでバトンを渡した。
基本的に、人との出会いをどう会社や事業につなげるかが僕の仕事であり、一番のチャンスになる。今回は関谷さんと「WWS」を、太田と「グローバルワーク」につないだが、実際にはそうした出会いをどうするかは任せた人間次第。任したスタッフは決して無理してやる必要はないと思っているが、こういったことはタイミングもとても重要だ。だから僕自身はなぜ今なのかを常に考え、やると決めたらすぐに動くようにしている。
太田訓アダストリア執行役員「グローバルワーク」営業本部長(以下、太田):「WWS」は業界内でも話題になっていたので知ってはいたが、マーケットも価格帯も異なるのでコンペティター(競合)とは思っていなかった。「スーツに見える作業着」というコンセプトも面白いし、売り方も斬新だなと思っていた。急遽同席したときにすぐ、「WWS」の独自素材「アルティメックス」を見て、これはすごいと思ったし、多様なライフスタイルに寄り添うボーダレスウエアブランドを目指す「WWS」のコンセプトにも共感した。
「グローバルワーク」では、こだわり抜いた日常着を提案するため、3つのFをフィロソフィーに掲げている。“ファッション”と、機能性の“ファンクション”、そして、日常生活で肌触りや質感、着心地を感覚的に〝良い〟と感じられる“フィーリング”だ。「WWS」のファンクションとは親和性を感じたし、私たちが職業やシーン、季節に関係なく着用できるシーンレスなアイテムの提供に向け、「ボーダレスウエア」を新しいキーワードとして定義できると思った。共感をベースに、お互いの強みを掛け算したら面白いことができるのではと考えた。純粋にお客さまにとって良い商品ができたので、多くの方々に体験して喜んでいただきたい。
アダストリアのノウハウで「WWS」を異例の半額で提供
WWD:「WWS」はセットアップで3万5000円。今回は同じ「アルティメックス」、“WWSアラエルソッカン”のジャケットで1万890円、スラックスで7920円と、半額に近い価格を実現している。商品の特徴やこだわりのポイントは?
太田:第1弾では定番のセットアップを作った。テキスタイルは、撥水性や速乾性、ストレッチ性があり、しわになりにくく、毎日洗濯機で丸洗いできるイージーケアという、「WWS」が独自開発した最高級の多機能素材「アルティメックス」を使った。しっとりした質感で、マットで、上品な光沢感と張りがある。「WWS」のメインラインはテーラードに近い形なので、コラボ商品では腰の後ろ側にゴムを入れるなど形やシルエットは「グローバルワーク」で実績のあるパターンを使用し、幅広いお客さまが着やすいようにした。
注力したのは、お互いのブランドの良さを大切にし、表現するかということ。Dカンや、内ポケットにファスナーを付けるなど、作業着として打ち出す「WWS」のコンセプトやこだわりのディテールを反映させた。ストレッチ性がとても高いので縫製が難しかったが、お付き合いしている取引先工場でしっかりした商品を作れた。
関谷:水道屋が開発した「スーツに見える作業着」は、6年目で累計25万着のセットアップを販売し、ブランド年商は10億円に育った。店舗やECだけでなく、2500社の法人にも愛用していただいている。ここまでアクティブスーツ市場が盛り上がってくるとは思っていなかったが、僕たちが機能系セットアップスーツの元祖だという自負がある。
僕らベンチャーの弱みではあるが、ロットの問題で、どんなに頑張っても超えられない価格の壁があった。「アルティメックス」は国産品で、原価もめちゃめちゃ高い。それが今回、アダストリアのノウハウや生産背景を活用することで、パターンも含めてビックリするぐらいハイクオリティのものをロープライスで作ることができた。正直これは本当に驚きだったし、この掛け算は経営者としてとても勉強になった。
WWD:カジュアルのイメージがある「グローバルワーク」の中で、どのような売り方をしていくのか?
木村:実は「グローバルワーク」では数年前からリングヂャケットと協業し、本格的なテーラリングと高見えする素材によりハイクオリティ、ハイコストパフォーマンスを追求したドレスクロージングライン「サロン ド グローバルワーク (Salon de GW)」を展開してきた。シーズンにもよるが、3ピースのセットアップからジャケット、パンツ、シャツ、ニット、ネクタイまで販売している実績がある。これも含めてセットアップ系の商品はかなり提供してきたが、まだその認知が薄い。今回のコラボは「WWS」の力を借りて、セットアップでも信頼がおけるブランドだということを訴求する好機になると思う。
太田:今回は「グローバルワーク」の30店舗と、自社の「ドットエスティ(.st)」、楽天、ZOZOのEC3モールで販売する。私たちの強みは、多くのお客さまが実際にいらっしゃり、手にとっていただけるリアル店舗があること。その店頭で「WWS」とのコラボがわかるように、素材やディテールのこだわり、商品メリットをしっかり伝えられる売り方を準備している。
関谷:「スーツに見えますが、作業着です」というコピーもしっかりと打ち出してもらう(笑)。第1弾もいいものが出来たが、第2弾でさらに「グローバルワーク」の真骨頂を感じた。「WWS」ではこれまでカジュアルのアイテムを展開してこなかったし、その知見もなかったが、第2弾はなんと、カジュアルアイテムと雑貨。僕らの「アルティメックス」を使ったカジュアルアイテムがどのようなものになるのか興味深いし、ここからも本当に多くのことを学ばせていただいた。
太田:今日木村が着ている、羽織にもなる半袖シャツや布帛Tシャツ、ショートパンツ、キャップ、サコッシュを用意する。もともと夏場によく売れるアイテムだが、機能性も高く、街中を歩けるキレイ目なカジュアルとして、仕事にもレジャーにも活用いただけると思う。
アダストリアのスピード感に、ベンチャーの旗手も「びっくり」
WWD:協業する中で驚いたことや、期待することは何か?
関谷:スピード感と的確性だ。僕らはベンチャーなのでスピード感や機動力で大手企業に挑んできた。だけどアダストリアは大きな会社なのに、木村さんのダイナミックな動き方や、太田さんのジャッジの速さ、そして、現場の方々のサンプルを上げる速度、修正するスピードなどが尋常でないぐらい早くて。「ミスター・ベンチャー」の僕でもびっくりした(笑)。そして、ふわっとしたリクエストに対してもディテールまでものすごく的確に返ってきて、サンプルの修正もビシッと上がってきて、さすがだなと感じた。
コストダウンに対しても並々ならぬ企業努力をしていた。アダストリアという会社と「グローバルワーク」というブランドのすごさの理由がわかった。手に届きやすい価格で顧客に提供してもらえることで、僕らみたいなニッチなブランドを知っていただけるのはすごくありがたいし面白い。ホリエモンや田村淳さん、マコなり社長など著名人も含めて、熱狂的なお客さまがいるが、これだけ安くてブランドのコンセプトやクオリティーを踏襲したとてつもなくいいものが出来てしまったので、驚かれると思うし、瞬殺・即完売だと思う。新しいお客さまに「WWS」を知っていただくことも含めて、どういう反応がいただけるか、「令和のヒットメーカー」としても楽しみにしている(笑)。
太田:通常、素材探しを含めて開発には半年以上かかったり、協業ではお互いをリスペクトしあいながらコンセプトを決定したりアプローバルを取ったりするのに時間がかかりがち。けれども今回は共通点が多くてコンセプトも明確だったので、異例のスピード感で進めることができた。
この数年はビジネスをしっかりと確立して上昇気流に乗せていくことにフォーカスしてきた。商品開発においては、ブランドの世界観というよりも、完成された単品を追求し、お客さまのニーズに応える商品を創り上げていくことにフォーカスし、研ぎ澄まされた仕事をしているところだ。その積み重ねを行うとともに、主力商品との掛け算で強みを生かせる取り組みも積極的に行っていきたい。
木村:関谷社長は『大きい会社』と言ってくれていたが、僕自身、アダストリアが大きな会社だという意識はまったくない。コラボももっと積極的にやろうとしているし、もっともっと楽しいことをやろうとしている。チャンスを生かすにはクイックさは必要不可欠。スピード感を増しながら、ますますご縁を大切する会社にしていきたい。