XRプラットフォーム「STYLY」を提供するスタイリーは4月24日、コンデナス ト・ジャパン、KDDI、J.フロント リテイリングと空間コンピューティング(リアルとバーチャルの融合)時代の事業創出を目的とした共創型オープンイノベーションラボ「スタイリー スペーシャルコンピューティング ラボ(以下 SSCL)」を設立した。「STYLY」を活用し、空間コンピュータApple Vision Proを想定したユースケースの創出から社会実装までを推進する。
記者会見で渡邊遼平スタイリー執行役員CMO兼SSCL所⻑は「われわれは“空間を身にまとう時代”が来ると想定し、空間コンピューティングをずっとやってきた。Apple Vision Proの発売で、ようやく一般の人が手にできるデバイスが登場した。次のライフスタイルを考え、未来像を描いていきたい。音楽、ファッション、インテリアなどさまざまなジャンルのユースケースを作りながら、ビジネスチャンスも模索する」とSSCL設立の意図を語った。
具体的には、リサーチリポートをまとめて公開することをはじめ、コンテンツを詳細化したワークショップの開催やプロトタイピング、体験機会と共創パートナー同士のコミュニティーの創出、戦略パートナー「ワイアード(WIRED)」日本版を軸にした情報発信などを行なっていく。まずは6月に米国で開催されるXR関連の展示会AWEに出展する予定で、年内にはエンドユーザー向けのイベントも計画する。
Apple Vision Proで実現する世界
コンデナスト・ジャパンの小谷知也「ワイアード」日本版エディター・アット・ラージは、「未来のライフスタイルがどう変化するのか、だったらどうバックキャストとして何を準備しておくべきなのか、ということをこのラボで体現していきたい。メディアとして、フラットに考えや視点を共有し、可能性を広げる役割をしたい。年配の人や障がいのある人への助けにもなるかもしれない」と抱負を語った。
スタイリーに出資するKDDIの佐野学パーソナル事業本部サービス・商品本部auスマートパス戦略部 ビジネス開発Gグループリーダーは、「空間コンピューティング、つまりリアルとバーチャルが融合した世界に可能性を感じている。熱量のある人たちとスタートし、いろんなトライ&エラーをしながら、時間や場所を超越するような体験を作りたい。デバイスを介して、渋谷にいる友人と名古屋にいる私が一緒に渋谷パルコ(PARCO)での買い物を楽しめるようになるかもしれない」と語り、「最終的に通信でそこを支えたい」と加えた。
“空間を身にまとう時代”の実現には、エンドユーザーとの接点が大事で、そのためにはコンテンツが恒常的に必要だ。同じくスタイリーに出資するJ.フロント リテイリングの林直孝・執行役常務デジタル戦略統括部長兼大丸松坂屋百貨店取締役は、「『あの体験ができるから日本のあの店へ行きたい』と思われるようなコンテンツをクリエイトしたい。空間コンピューティングデバイスを活用すれば、ノンバーバルや他言語でのコミュニケーションも可能になる。空間を使って価値を提供できる時代に先んじて、ユースケースを作っていきたい」と述べた。
スタイリーは、NEW VIEWプロジェクトで、新しいクリエイターを発掘・育成をしており、世界39カ国に約9万人のクリエイターエコシステムを築いている。
しかし、Apple Vision Proはまだ米国でしか販売されておらず、価格は3499ドル(約54万円)と高額。日本での発売は未定で、果たしてどれだけの人が購入するのかは疑問だ。デバイスとしてもゴーグル型で顔に直接装着しなくてはならず、バッテリーも外付けなど、ユーザビリティーにもハードルがある。廉価版が出てくるなど、一般に普及するまでには相当時間がかかりそうに思える。
「(空間コンピューティングが)いつどのような形で一気に広まるのか、予測が難しいのが正直なところ」とスタイリーの山口征浩CEO。「しかし、そのタイミングがいつ来てもいいように、むしろわれわれが先導できるように、先んじて仕掛けていきたい」。普段からApple Vision Proを装着し、一足早く“空間を身にまとう”生活を体感している。