「ザボディショップ(THE BODY SHOP)」が各国で正念場を迎えている。最大の市場だった英国事業は2月に480人以上の従業員を解雇し、店舗閉鎖を伴う管財手続きをスタート。米国事業は3月に閉鎖し、カナダではリストラ手続きを開始、フランス事業も4月に管財人の管理下に入れるなど、世界各地で破綻している。現在「ザボディショップ」を運営する欧州の投資大手アウレリウス・グループ(AURELIUS GROUP以下、アウレリウス)は2月初め、ヨーロッパとアジアの一部における大半の事業を、とある家族経営の企業に売却。売却の対象は、同ブランドの全世界における事業の約14%に相当する。当時「ザボディショップ」は70カ国以上で約2800の店舗を運営していた。
日本事業はアウレリウスの関連会社であるアルマ24が親会社であり、管財手続きに入った英国法人との間に資本関係は存在しない。ジャパン社は「ザボディショップ」のグローバルフランチャイズ・パートナーとして事業を継続し、68店舗を運営する。
「ザボディショップ」は、ロレアル(L’OREAL)が買収する直前だった2005年度の売上高は4億1900万ポンド(約800億2900万円)だった。業界筋は、相次ぐ欧米事業の破綻は、特定の株主や経営者の責任ではなく、経営母体が3度も変わったことによって繰り返された誤った決断の結果が招いた顧客離れと分析する。
創業者のアニータ・ロディック(Anita Roddick)06年、「ザボディショップ」をロレアルに6億5200万ポンド(約1245億3200万円)で売却した。彼女は、ロレアル幹部と共に出席した売却後の記者会見で「売り払ったわけではない」と語っている。業界筋や元従業員らは、「ロディックは『ザボディショップ』をトロイの木馬とみなし、ロレアルという大企業を内部から変えようとした」と語り、会社を売却してまでも強い信念を業界全体に広げようとしていたと振り返る。振り返れば1980年代の株式公開から、ロディックによる「ザボディショップ」の経営理念は、当時当たり前だった利益優先の経営と激しく衝突してきた。
その後ロレアルは2017年、ブラジルの化粧品大手ナチュラ&コー(NATURA & CO.以下、ナチュラ)に「ザボディショップ」を11億ドル(約1694億円)の評価額で売却。ナチュラは組織と収益性に問題を抱えていたため、「ザボディショップ」の運営に手が回らず、23年にアウレリウスに同ブランドを2億5400万ドル(約391億1600万円)で売却した。
バーミンガム・ビジネス・スクールでリテール・マーケティングの教授を務めるセーラ・モンターノ(Sarah Montano)は、かつての顧客は「ザボディショップ」の商品とミッションに投資していたと分析する。「アニータ・ロディック自身がブランドだと信じていた顧客は、彼女の理念を支援することを望んでいた。ロレアルなどの大手企業にお金を払う気はなかったのでは?」と話す。初期の「ザボディショップ」でロディックと共に働いた経験を持つマーク・コンスタンティン(Mark Constantine)=「ラッシュ(LUSH)」共同設立者兼最高経営責任者(CEO)は、「『ザボディショップ』は理念が全てだ。売買されたらうまくいかない。家族経営と従業員所有を組み合わせるべきだったのではないか」と述べる。
度重なる売買によって創設者の理念は薄れていった
ロディックがロレアルに仕掛けた“トロイの木馬”作戦はいくらか成功した。ロレアルは、実験用表皮モデル“エピスキン(EPISKIN)”の開発によって動物実験を廃止する取り組みを強化したほか、調達モデルを改善し、ロディックが支援してきた数々のフェアトレード施策も前進した。しかし元従業員によると、ロレアルと「ザボディショップ」の文化は全く融合しなかったという。ロレアルはブランドオーナーであり、小売業者ではなかった。一方で「ザボディショップ」は、小売業を生業とする会社だった。そして競合他社がサステナビリティを重視するようになると、「ザボディショップ」の個性は見えづらくなっていく。
ロンドンとニューヨークに拠点を置くリテール調査会社グローバルデータ・リテール(GLOBALDATA RETAIL)でマネジング・ディレクター兼リテール・アナリストを務めるネイル・サンダース(Neil Saunders)は、「最大の問題は、商品とブランドが消費者の心を掴めなくなったことだ」と分析する。イギリスの企業経営コンサルティング会社ソート・プロヴォーキング・コンサルティング(THOUGHT PROVOKING CONSULTING)のリチャード・ハイマン(Richard Hyman)共同経営者は、「新しいアイデアがほとんど生まれず、創設当初のオリジナリティーをしっかりと守ることもできなかった」と述べる。
「ザボディショップ」は復活できるのか
「ザボディショップ」は1976年の創設以来、ビーガン処方やクルエルティフリー(動物実験をしない)、女性のエンパワーメント、社会問題などに取り組む革新的なブランドだった。環境問題が流行するはるか以前からリサイクルを奨励し、美容のエシカル(倫理的)な前進を先導、動物実験反対やフェアトレードの推進など、インパクトのある活動を展開してきた。美に対するホリスティック(包括的)なアプローチを支持し、魅力的とされるものをよりインクルーシブに捉えることも推進した。
こうした偉大な歴史を踏まえて専門家は、大規模な資金調達や献身的なオーナー、新たな戦略などで、少なくとも部分的には回復する可能性があると考えている。サンダース=マネジング・ディレクター兼リテール・アナリストは、「ECと卸売に重点を置いたより小規模な事業体としてなら、何らかの復活を遂げることができる」と予想。特にフランチャイズ経営を通して、ヨーロッパやその他の国々で復興できる可能性は低くないと説く。
ハイマン共同経営者は、「『ザボディショップ』はすでに、小売業者というよりブランドになってしまった。商品という、ブランドの核となる部分への投資を増やす必要があるだろう。ウェブサイトをより機能的に改良し、商品を支え、ブランドの独自性を伝えるための物語をより堅固にすべきだ」と話す。英コンサルティング会社ウィズ&コー(WIZZ & CO.)のウィズ・セルヴィー(Wizz Selvey)戦略アドバイザーは、「顧客との感情的なつながりを再構築するには、長年主張してきたものの、今やありきたりになってしまったクリーンビューティから脱却すべきだ。バイオテクノロジーによって生み出した、確かな効能と実績のある商品に注力してはどうか」と分析する。