ファッション

K-POPから考える“バレエコア”の流行とその先の“ポスト・バレエコア” 連載:ポップスター・トレンド考察

文筆家・つやちゃんがファッション&ビューティのトレンドをポップスターから紐解いていく本連載。第1回は2023年後半から人気となった“バレエコア”をK-POPアーティストから分析していく。

2023年後半から今年にかけてファッションシーンを席巻している“バレエコア”(※レイヤーを重ねたレッグウォーマーやバレエシューズ、クロップトップとチュチュスカート、リボンなど、バレエからインスパイアされたスタイル)。オフィスサイレンやグランパコアといった多岐に渡る昨今のトレンドの中でも、バレエコアは特に熱狂的な人気を得ることですっかり市場に浸透した。興味深いのは、SNSでの盛り上がりを受けることでこの潮流が息長く続いている点だろう。「ミュウミュウ(MIU MIU)」の22-23年秋冬ウィメンズコレクションを1つのきっかけとしながらも、23年の後半から再びTikTok上で支持が再燃、さらに今年以降いくつものアレンジを経てブームになりつつある。実際、Google Trendsで「バレエコア」をサーチしてみると、24年に入って右肩上がりで一気に検索数が増加。SNSでのポストもこの3カ月ほどで急増しており、もはや流行として定着したように見える。そのような状況下で、ほかのトレンドとの融合や実験~拡大解釈が起こることでいくつかの変奏が生まれ、ポスト・バレエコアとも言えるスタイルへと進化の兆しが。本記事では、まさに今勃興し始めている5つの傾向について紹介したい。

K-POPとバレエコア

その前に、バレエコアがそのフォーマットを確立した昨年までの動向を押さえておこう。そもそも、バレエにインスパイアされたルックというのは特段新しいものではない。それこそハイファッションの世界ではバレエはこれまでも繰り返しインスピレーションの一つとして重宝されてきたし、最近も「シャネル(CHANEL)」が24年春夏のオートクチュールコレクションにおいて「バレエ・リュス」をテーマにショーを展開した。昨今は、むしろトレンドの勢いを加速させているのはK-POPの存在が大きいだろう。もともとK-POPのパフォーマーは、性別問わずバレエ経験者が多い。EXO(エクソ)のカイ、TWICE(トゥワイス)のミナ、さらにLE SSERAFIM(ル セラフィム)のカズハに至るまで、たくさんの演者が流麗な身体感覚をポップスのダンスパフォーマンスへと落とし込んできた。さらに、バレエ・インスパイアな世界観を、アートワークやステージングに反映してきた歴史もある。APRIL(エイプリル)は、「April Story」(17年)をはじめとして着想源にバレエがあったし、OH MY GIRL(オーマイガール)も10年代末から同様のスタイルをたびたび取り入れてきた。完成度という点ではRed Velvet(レッド・ベルベット)も忘れてはならない。コンセプトの1つにバレエを借用した「Feel My Rhythm」(22年)の作り込みは素晴らしく、ほかにも「Psyco」(19年)や「Chill Kill'」(23年)といった曲で麗しい装いを見せてきた。

バレエコアの隆盛を作ったターニングポイントとして、22年末からBLACKPINK(ブラックピンク)のジェニーがたびたび取り入れていたシアーな素材やレース使いといったコーディネートが挙げられる。その流れによって勢いづいた23年は、K-POPにおいて音源やMVのアートワークでも盛んにバレエ(のレッスンウエア)が参照され、一気に一大ムーブメントと化した。バレエをそっくりそのまま持ち込んだLEE CHAE YEON(イ・チェヨン)「LET'S DANCE」やJESSICA(ジェシカ)「BEEP BEEP」などの曲もあったが、新たな解釈を取り入れることで“バレエからのインスピレーション”を“バレエコア”へと進化させたのはやはりNewJeans(ニュージーンズ)だろう。「ASAP」のアートワークにおいて見せたフェアリーでおとぎ話的とも言える儚さは、バレエコアの1つの完成形として、イージーリスニングな曲の世界観ともマッチ。以降、「The 38th Golden DISC AWARDS」をはじめとして各所で儚げなコーディネートをまとい、K-POPシーンにバレエコア・ブームを巻き起こした。

ポスト・バレエコアの5つのバリエーション

さて、NewJeansが打ち立てたバレエコア以降、23年の末から24年にかけて薄ピンクやホワイトのカラー、レースやフリル、サテンリボン、クロップトップ、レッグウオーマー、あるいはバレエシューズやトゥシューズ、サテンシューズ風の足元が、あらゆる組み合わせでスタイリングされるようになった。さらには、コルセットやパフスリーブといったコケットコアの潮流とも融合することで、ほとんどのアートワークに何かしらのバレエコア要素を見つけられるほどに。例えばLE SSERAFIM「Swan Song」やRESCENE(リセンヌ)「YoYo」といった曲の衣装を王道と置いた場合、昨今はそこから5種類ほどのバリエーションへと進化しているようにみえる。(※XGは日本のグループだが、主な活動拠点は韓国であるため便宜上本記事で取り上げる)。

フェアリー系

いわゆるポスト・バレエコアのまず1つ目は、フェアリー系。NewJeansのスタイルをベースにした妖精のような世界観は、ILLIT(アイリット)が「Magnetic」で継承してみせた。同時期にARTMS(アルテミス)が「BIRTH」でロリータコーデを展開し話題になったが、ILLITもややロリータのテイストをミックスしているのが特徴的だ。

近未来系

2つ目は、近未来系。XG(エックスジー)が「PUPPET SHOW」で展開したフューチャリスティックなバレエコアは、今後誰かの手によってサイバーな要素とも掛け合わされ進化していくかもしれない。

ギャル系

3つ目は、ギャル系。VIVIZ(ビビジ)が「MANIAC」で試したスタイリングだが、辛めの衣装にバレエコア的なアイテムを引用し構成している。やや難易度の高いバランスだが、ギャルファッションとの接近は今後も避けては通れないはず。

スポーツ系

4つめは、スポーツ系。NiziU(ニジュー)「SWEET NONFICTION」が代表的だが、ジャージやスニーカーと合わせることで、ブロークコアとバレエコアが融合したようなスタイルを標榜。

メンズ系

そして5つ目は、メンズ系。キム・ジョーンズが「ディオール(DIOR)」の24-25年秋冬メンズ・コレクションで宇宙を舞台にバレエコア解釈を行ったが、K-POPにおいてはTOMORROW X TOGETHER(トゥモロー・バイ・トゥギャザー)が「Light」のConcept Clipで『星の王子さま』をテーマにトライ。圧倒的に優雅なロマンティシズムを見せつけた。

韓国のファッションブランドも盛んにバレエコアを解釈しており、たとえばNewJeansが着用した「セリック(CERRIC)」やLE SSERAFIMが取り入れた「ヒッシュ(hish)」など、ウエアからヘアアクセまでさまざまなアイテムが注目されている。恐らく今後もポスト・バレエコアはますます拡大していくと思われるが、やはりこのスタイルは、虚構的で夢見るコンセプトの世界観に最もハマるように思う。バレエをモチーフにしたaespa (エスパ)の24年SEASON’S GREETINGは「Girls just want to have a dream!」というコピーが掲げられていたが、まさに「夢」というのが本来バレエコアの核にあるはず。

今回はK-POPを参照したが、それこそ日本国内でも、雑誌「LARME」のルーツ“ゆめかわいい”などは、確実に今のバレエコアに通じる概念だろう。だからこそ国内カルチャーとの親和性は高く、現在、ムーブメントは衣服を飛び越えてロマンチックなネイル、シニヨンをアレンジしたヘアスタイルといった範囲にまで影響を及ぼしてきている。ファッションだけではない、本格バレエ小説として恩田陸の「spring」が話題を集めていたり、本物のバレエダンサーが躍る映画「RED SHOES/レッド・シューズ」が公開されていたりと、多くのジャンルでバレエの魅力に人々が夢中になっている最中。現実世界が暗澹(たん)たるものになればなるほど、その反動としてファンタジーへの現実逃避が加速するのが世の常だが、バレエコアを通じた“夢へのひきこもり”は、今後さらなるバリエーションを生みながらまだまだ続いていきそうだ。実際、24-25年秋冬コレクションにて、「プラダ(PRADA)」はすでに「INSTINCTIVE ROMANCE(本能的なロマンス)」をテーマに全身薄ピンクリボンのルックにアプローチ。次の秋冬が到来する頃、K-POP勢は、バレエコアを如何なる方法で料理しているのだろう?

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