PROFILE: 左から、小和田哲弘/スタイレム瀧定大阪第二事業部ガーメント1部38課課長、「リフィル」ディレクター 可児ひろ海/AWA代表取締役、「スキンアウェア」デザイナー
スタイレム瀧定大阪(以下、スタイレム)のD2Cブランド「リフィル(LIFILL)」は4月26日、「スキンアウェア(SKINAWARE)」とコラボレーションし、同社の「オーガニックフィールド(ORGANIC FIELD)」のコットン生地を用いたTシャツを発売した。対象のTシャツは既存の1型で、デザイナーが行ったことは色の指定のみ。だから中身が薄いかと言えばそうでもない。むしろアパレル産業の課題解決のヒントがそこにはある。
「リフィル(LIFILL)」はカットソー専門のブランドで、同社で長年カットソー生地を営業してきた小和田哲弘スタイレム瀧定大阪第二事業部ガーメント1部38課課長が2021年9月に社内公募で立ち上げた。「とにかくカットソーという生地が好き」というオタク気質の小和田ディレクターは「原料を突き詰め、糸の選定や編み方、染めなどの加工にこだわり“たかがTシャツ”だけど着用したときテンションがあがり生活を豊かにする」一着を追求している。
「オーガニックフィールド」のコットン生地を採用
カットソーの品質を左右するのは「原料」だと言われる。今回採用した原料は、スタイレムがインドで進めている「オーガニックフィールド」のコットンだ。生産段階で異物を手作業で丁寧に取り除いていることもあり、なめらかでしなやかな落ち感を持つ。名称に“オーガニック”の文字が入るが、既存のオーガニックコットンの認証を受けているわけではない。ならば「まがい物」かと言えばそれも違う。
「オーガニックフィールド」は同社が種の選定から綿花栽培、糸の生産までをオーガニックのプロセスで管理することで、トレーサビリティを確保している。オーガニックコットンの認証は現在、3年以上無農薬・無化学肥料で栽培されたものが対象となっており、小規模農家にとってはハードルが高い。そこで同社は現地のNGO、大手紡績会社と組んで小規模な農家の綿花栽培や労働環境の向上を支援しつつ、移行期間の綿花も含めて買い取っていく仕組みとして「オーガニックフィールド」を進めている。
世界的に需要が高まるオーガニックコットンだが、生産に手間がかかるため流通量は綿花全体の1%未満と少なく、価格が割高なのが現状だ。また、2020年には、オーガニックコットンの有力生産国であるインドで認証の大規模な不正行為が発覚するなど認証に対する信頼が揺らぐ“事件”が起きている。こういった現状を踏まえ、日本の商社はトレーサビリティを担保するオーガニックコットンのプロジェクトに各社取り組んでいる。「オーガニックフィールド」もその一つだ。
“畑に赴き、生産者と対話し、活動全体を支援することが大事”
今回「リフィル」が協業をした「スキンアウェア(SKINAWARE)」はオーガニックコットン&植物染めを用いたアパレル・インナーブランドで、エシカルファッションの先駆者的存在だ。認証オーガニックコットンだけを使用してきた可児ひろ海「スキンアウェア」デザイナーが「オーガニックフィールド」を採用した、その選択は「オーガニックフィールド」にとっては大きい。オーガニックコットンに見識がある可児は、今回の協業を決めた理由について次のように説明をする。「私のブランドは、糸段階から認証・認定を受けたオーガニックコットンを使うことをブランドの姿勢としている。同時に、生産者を増やすことの大切さも痛感しているので、生産者と直接つながり支援する『オーガニックフィールド』の取り組みに共感する。結局は人間がやることだから、畑に赴き、生産者と対話し、活動全体を支援することが大事だと思う。オーガニックの背景に関心が高いお客さんも増えてきたので、一緒に知識をつけるよいタイミングだとも思う」。
可児デザイナーと小和田ディレクターの付き合いは、20年近く。可児のこだわりを、生地オタクの小和田のこだわりが支えてきた。その関係性もまた長いサプライチェーンのひとつ、「結局は人間がやることだから」の一部だろう。「服のデザインのために生地を選ぶとき、最終的に見るのはスワッチだけど、その向こうには人がいる。オーガニック、サステナブル、フェアトレードと、言葉は色々あるが、畑でコットンを栽培している人たちの姿を見たとき“この人たちと作っているのだ”実感し、服は畑から続くバトンをお客さんに渡すアンカーなんだと腑に落ちた」と可児。1型だけのTシャツにおいて協業したコトとは、畑までさかのぼったモノづくりのストーリーであり価値観だ。