糖尿病治療に効果があるとされるGLP-1減量薬の登場以来、ソーシャルメディア上では“オゼンピック・ベイビー”が騒がれている。医師は、GLP-1減量薬で最も人気のオゼンピック(OZEMPIC)やマンジャロ(MOUNJARO)などの減量薬を使用すると妊娠数が増えると報告。専門家は、GLP-1減量薬がホルモン性避妊法の効力に影響を及ぼしている可能性があると推測する。また体重が減ると、性交渉に前向きになるため妊娠しやすくなる可能性もあると指摘する。
肥満医学協会の会長で、肥満ケアのプラットフォーム「ノウンウェル(KNOWNWELL)」の最高医療責任者であるアンジェラ・フィッチ(Angela Fitch)医学博士は、「GLP-1減量薬が経口避妊薬の吸収率を変える可能性がある」と話す。実際米製薬大手イーライリリー(ELI LILLY)のマンジャロとデンマーク製薬大手ノボ・ノルディスク(NOVO NORSIDK)のオゼンピックは、ラベルに「経口避妊薬の効果の低下と妊娠リスクの可能性がある」と明記している。
産婦人科医で、英イェール大学の臨床教授であるメアリー・ジェーン・ミンキン(Mary Jane Minkin)医学博士は、「かなりの肥満は排卵を妨げる」と話す。フィッチ医学博士も、「肥満の人は妊娠しにくいというデータがある。体重を減らすと、その方法がどうであれ妊娠しやすくなる」と同意。「ノウンウェル」には、妊娠のために減量を望む人も数多く集まる。自分を不妊症だと思い込んでいるGLP-1減量薬の使用者には避妊しない人も多く、不意の妊娠につながるリスクがある。形成外科専門医で、「エレクティブ・ウェイトロス・プログラム(ELECTIVE WEIGHT LOSS PROGRAM)」を創設したシャーロン・ギース(Sharon Giese)医師は、「患者がセマグルチド(SEMAGLUTIDE)やマンジャロを服用する最初の1カ月間は、コンドームなどの避妊用具の使用を推奨している」と話す。ほかの医師は、GLP-1減量薬の服用者には子宮内避妊用具の使用などの非ホルモン性の避妊法を推奨しており、多くの製薬メーカーがこれを支持している。
フィッチ医学博士は、「オゼンピックのような減量薬が、乳幼児や発育中の胎児にどのような影響を与えるのかはまだ分かっていない」と話す。GLP-1減量薬が胎児に及ぼす影響を理解するためのデータ収集は10年以上かかると予想される。生殖精神医学の専門家で、妊産婦のメンタルヘルスケア・プラットフォーム「マビダ・ヘルス(MAVIDA HEALTH)」の創設者であるサラ・オレック(Sarah Oreck)医師は、「オゼンピックを服用している人の中には、ほかの薬剤を併用していたり、うつ病を患っていたり、多元的な問題を抱えている人もいるので、減量薬の直接的な影響を研究するのは難しい」と話す。
JPモルガンリサーチは、米国では2030年には3000万人がGLP-1減量薬を服用していると予測。フィッチ医学博士は、「不意の妊娠が増えることは問題だ。初期に集めたデータは、妊娠期間に対して胎児が十分に成長していないという所見を示している」と危惧する。妊娠が発覚した後は、直ちに投薬を中止することが推奨される。また、積極的に妊娠を試みる6週間前には薬の使用を中止すべきだ。一方でオレック医師は、「人々が生殖補助医療や体外受精に何百ドルも何千ドルも費やす前に、利用される手段になるかもしれない。産後の減量にも役立つだろう」と述べた。