ファッション

もはや“実家”な群馬のセレクトショップ 名物社長がつくる、異色コラボや信頼関係

群馬県のエスティーカンパニー(ST COMPANY)を知っているだろうか。1978年創業で、約半世紀にわたってアパレル業界人のみならず、ファッション好きの心をつかんできた、名セレクトショップだ。「ぜひ商品を置いてほしい」と掛け合うブランドも多いようで、筆者は、その理由をこの目で確かめたいと常々考えていた。

そんな矢先、「ポーター(PORTER)」が新製品の卸先に同店を選んだというニュースが飛び込んだ。商品のお披露目会と、それを記念したレセプションパーティーを開催するとのことで、東京から群馬まで急いで向かった。

「人が大好き」な名物社長がつくる
信頼のトリクルダウン

桐生駅から徒歩10分。閑静な街並みの中に、元は和菓子店だった建物をリノベーションしたというエスティーカンパニーが姿を現す。出迎えてくれたのは環敏夫社長(74)だ。あいさつもそこそこに、「うちの店内見たことある?」とショップツアーを始めてくれた。

離れを含む3階建ての店内には、「ハイク(HYKE)」や「ビズビム(VISVIM)」「ダブレット(DOUBLET)」「トーガ(TOGA ARCHIVES)」などの国内ブランドを中心としたアパレルアイテムや、「イソップ(AESOP)」と「ダヴィネス(DAVINES)」のようなビューティアイテム、「ヒロタカ(HIROTAKA)」といったジュエリーが並ぶ。2階にはカフェを設けており、顧客の憩いの場を提供している。屋上では「面白いコンテンツを増やしたい」と養蜂をしており、そこで採取したハチミツをカフェメニューに使う。ちなみに、SNSでインフルエンサーが紹介したことで、現在はカフェを訪れる客が激増しているという。

「人がとにかく好き」と話す環社長は、展示会に足を運ぶだけでなく、暇を見つけてはデザイナーの元を訪れてコミュニケーションを図る。「桐生という消滅都市で店を営むわけだから、そこは誰にも負けないくらい努力してないとダメ」。また、コロナ禍から現在まで売り上げが伸長し続けているほど、同店は入荷した商品の消化率が非常に高いため、特に個人でブランドを営むデザイナーからの信頼があつい。「うちはデザイナーさんとのトラブルが起こらない店。ありがたいことに、ブランドの方々が自ら『ここでお取り扱いしてください』と連絡をくれる」。

店舗スタッフとの関係構築も抜かりない。自らも店頭に立ち、常に接客につくそうで、「背中を見せているからこそ、スタッフがついてきてくれると思うし、垣根なく話し合えていると思う。僕はもうお爺ちゃんの年齢なのにね(笑)」と分析する。アパレル業界では低賃金が問題視されることが多いが、エスティーカンパニーでは社員の給与面向上にも気を配る。Uターン・Iターン者向けの支援として、引越し費用のサポートをするなど、「アパレル店で勤務する誇りを育てたい」という環社長の思いが光る。

環社長がブランドやデザイナー、店舗スタッフと築いた信頼は、さらなる取引を呼び、余裕のある接客につながり、ひいては顧客のニーズを満たす。「うちは、遠方から何年も通い続けてくれるお客さんが多い」。上流から下流に水が流れるように、ここには“信頼”のトリクルダウンが生まれている。

記者が目撃
“異色のコラボ”が生まれる現場

群馬を訪れる前、先輩記者から「遠方からわざわざ行きたくなる店、それがエスティーカンパニー」と聞いていた。上述の信頼度合いも大きな要因だろうが、それだけを“わざわざ行きたい”の理由にするには、どこか心許ない。そう思っていると、「ポーター」の新製品お披露目を記念した、レセプションパーティーが始まった。

まず驚いたのは、ブランドのデザイナーやメディア、商業施設の責任者などの業界関係者だけでなく、エスティーカンパニーの常連客も同じくらい多く招待していた点だ。20年来の店のファンだという女性客や、仲良しのスタッフを訪ねて埼玉県からやってきたという男性客も。パーティーで見かけがちな、気まずそうに立ちすくむ参加者はおらず、社長やスタッフ、他のゲストらと垣根なく交流を図る姿が印象的だった。

それもそのはずで、環社長は「このカフェを使って、頻繁にイベントを開き、みんながフラットに会話できる機会を作っている」と話す。中でも“もじゃ君”という愛称でスタッフから呼ばれる20代の男性客は、お正月イベントで獅子舞に扮し、来店した子どもの頭を噛んで一年の健康を祈る役を行ったという。

ゲストの一人であった渋谷パルコの平松有吾店長は、「環社長の人を惹きつける力はすごい。23年11月の渋谷パルコ50周年記念でも、社長が取り持ったことで『ダブレット』と『ファセッタズム(FACETASM)』のコラボアイテムを作ることができた」と教えてくれた。どうやって取り持つのだろうと疑問に思っていると、「ミスターイット(MISTER IT.)」の砂川卓也デザイナーに、環社長が目の前で話しかけていた。「『ダブレット』の井野君とこの前会ったよね?いい人だからコラボとかしたらどうだろう? 『ダブレット』×『ミスターイット』、面白いはず!」。

夜も深まり、パーティーも終盤に差し掛かった頃、気づけばデザイナーや常連客が環社長を囲んで談笑を始めていた。会話が盛り上がり、互いに記念写真を撮る一幕も。参加者全員が肩肘張らない光景を目にして、ふと「ここはみんなの第二の家だ」と思わされた。距離が遠かろうが忙しかろうが、わざわざ行きたいと人に感じさせる場所は実家くらいなもの。スタッフの「いらっしゃいませ」は、「おかえり」と同じなのだろう。

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