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「バレンシアガ」超高層シルエットで上海のビル群を描く アジア初のショーは大雨と熱狂と「アンダーアーマー」と

バレンシアガ(BALENCIAGA)」は、2025年スプリング・コレクションのランウエイショーを中国・上海で現地時間30日に開催した。同ブランドにとって現体制でパリ以外でのショー開催は3回目で、アジアでは初めて。会場は浦東美術館(The Museum of Art Pudong)敷地の屋外で、大雨の中での開催となった。

ショー開始前から、アーティスティック・ディレクターの“デムナ(Demna)劇場”はスタートしていた。ブランドの公式インスタグラムでは、同コレクションに登場するアイテムを数日前から投稿し、米大手スポーツメーカーの「アンダーアーマー(UNDER ARMOUR)」とのコラボレーションも予告。浦東(プートン)の近代的な高層ビルには“BALENCIAGA”の文字を映し出し、派手な演出と、大雨によって霞みがかった光景の対比が、まるで計算していたかのような近未来的ムードを作り出した。

厚さ18cmのブーツが意味するもの

ファーストルックは、デムナのパートナーであるロイック・ゴメス(Loik Gomez)ことBFRNDが登場し、アワーグラスシルエットをオーバーサイズに再解釈したジャケットを披露する。肩から緩やかに落ちるパワーショルダーと、ひと目で伝わる仕立ての良さ、そして縦に大きく伸ばしたシルエットが特に目を引いた。ボトムスも地面に引きずりそうなほど長く、足元には厚さ18cmという巨大プラットフォームブーツを合わせ、静謐なエレガンスが堂々とそびえ立つ。これらはデムナが浦東の高層ビル群にインスピレーションを得たシルエットで、序盤のパートでは超高層シルエットが連続した。

デムナは「できる限りシルエットを垂直に伸ばした。これほど背が高くて垂直なシルエットを作ったのは初めてだと思う。私は中国に行ったことがなかったので、今回のクリエイションに用いたイメージは、私が見てきたビジュアルに基づいている」とコメントした。

注目アイテムはショー後すぐ発売

テーラリングパートを終えると、アリババの電子決済システム「アリペイ(Alipay)」とコラボレーションした中国限定のTシャツを起点に、カジュアルパートへと移っていった。ワイドなトップスとタイトなボトムスのメリハリはさらに鮮明になり、特盛りプリントのスエット上下や、シアリングのボンバージャケット、ジーンズとトラックパンツをレイヤード仕立てにしたウエストコンシャスなボトムス、そしてソールが何重にも重なった靴底16cmという受注限定の超巨大スニーカーなど、アイテム単品の強さが増していく。

予告していた「アンダーアーマー」とのコラボも披露し、フーディー(21万8900円)やTシャツ(11万8800円)、スエットパンツ(19万8000円)、キャップ(7万1500円)など一部アイテムをショー終了後に先行発売した。フルコレクションは今年後半に販売予定だという。

新たな美を探求するアプローチ

ウィメンズでは、クロシェ編みやケーブル編み、クロコダイルやフォックスファーをプリントした鮮やかなドレスや、カジュアルなスタイリングを上下をデジタルプリントしたボディースーツといった、トロンプルイユの手法を多用する。プログラミングしたデータを基にダメージ加工を再現したストッキングなど、テクノロジーを組み合わせた手法も目立った。日常的アイテムには新たなシルエットを取り入れ、ビッグサイズのポロシャツの衿には芯地を入れてスタンドカラーにしたり、前身頃を二重にしたり、定番のトレンチコートやシャツは縦に大きく伸ばして短くカットしたり。キャミソールとスラックスは縫い合わせてオールインワンにし、垂直に近いシルエットを表現した。強いアイテム群に、23年スプリング・コレクションに開始した上質なプレタポルテのライン“ガルドローブ(Garde-Robe)”のジャケットやTシャツなどの新作も組み合わせた。

巨大靴をはじめ、コミカルでフックの効いたアクセサリーは充実。シューズボックス風のレザークラッチバッグ、トレンチコートやシャツなど普遍的なアイテムから作ったワンショルダーバッグ、汚れ加工を施したハイヒールソックス、「ジェイコブ(JACOB & CO.)」とのジュエリーなどを披露した。アイコンバッグ“アワーグラス”は“ロデオ”で用いているやわらかいレザーにアップデートしている。

超絶技巧でたたみかける終盤

終盤のクチュールパートでは、デムナ節がいっそう強まった。“クチュール界の建築家”と呼ばれた創業者クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)のアイデアを現代風に解釈し、1957年に発表した円筒形シルエットの“サックドレス”を旅行かばん=サックを使って再現。アーカイブのピンクフェザーのドレスは、10年以上前のビニール袋を手で裂いてフェザー風仕立てにし、現代に蘇らせた。防護服などに使うプロテクティブな素材タイベックで純白のドレスを作り、ゴールドにコーティングした包装紙のようなドレスで体をラッピングした。ブラックベルベットのドレスには「バレンシアガ」の歴代ジュエリーを全面に縫い付け、時代を超越した輝きが、大雨に耐えるゲストたちを照らした。

メゾンが継承し続ける夢のような技術と、デムナの日常生活に軸を置いたアイデアを融合させ、幅広い層がピュアな驚きを感じられるピースが続いた。フィナーレでは、ランウエイから離れた位置に設けた大きなスクリーンの前をモデルが歩き、どこか奇妙で美しい、構築的シルエットが浮き上がった。中には傘をさすのを諦めて、その光景を目に焼き付けるゲストもいた。

地域との関係性を深める取り組み

ショー後のアフターパーティーには、「バレンシアガ」を身に着けた巨大な肩の若者が地元の大箱クラブに集い、熱気に包まれていた。また今回のショーに合わせて地元レストラン「NU XIANG MU DOU」とコラボレーションし、黒トリュフを使った小籠包と、近隣地域の名物菓子“ウィンウィンケーキ”をショー後に一般販売した。「アリペイ」との協業も含め、ローカルとのつながりを強く意識した施策を同時多発的に行い、ショー翌日の顧客向けの受注会はごった返していた。「バレンシアガ」は中国本土の24都市に出店しており、中国市場が重要であることを証明する一大プロモーションだった。

マーケティングの側面だけでなく、上海の街を表現した“超高層シルエット”は、浦東というローカルのインスピレーションから生まれたものだ。デムナのブレないクリエイションはこれまで、社会に対する自身のアティチュードを発信し続けることでアップデートを繰り返してきた。裏を返せば、作り手のパーソナリティーから大きく逸脱することなく、ガラリと変わることもなかった。しかし今回のデスティネーションショーでは、地域の街や文化に目を向け、それらの刺激を取り込むことでコレクションを前進させている。上海で得た新鮮な刺激は、今後もアイデアの源泉の一つになっていくだろう。

開催地の上海ではショーの熱狂で共感を広げ、SNS上では奇天烈なアイテムで“バズ”を世界中に起こし、各地の店頭ではテクニックを親切に伝える。パワーとバズ、テクニックが三位一体となったクリエイティビティーの先にあるのは、クリストバル・バレンシアガとデムナのストーリーだ。ローカルショーの利点を最大限に生かしたクリエイションとビジネスに、新たな価値観を創造し続ける「バレンシアガ」とデムナのしたたかさを感じた。

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