「ヒロココシノ(HIROKO KOSHINO)」は5月30日、東京・原宿で2024-25年秋冬コレクションをランウエイショー形式で披露した。これまではオートクチュールラインとプレタポルテラインのショーを別々に実施して最新作を発表してきたが、ショーでの発表は今後クチュールのみに絞るという。今回はその第1弾で、セミクチュールとオートクチュールを中心にした全41ルックで構成した。「ヒロココシノ」のプレタポルテは今後も継続し、ブランド全体にクチュールの精神を据える姿勢だ。
コシノヒロコ=デザイナーはその理由について、「日本では“モード”をアートのレベルに引き上げようとする人が徐々に減っている。日本の重要なファッション文化を支えるために、『ヒロココシノ』ではプレタポルテでもオートクチュールに近い作り方をしなければならないと考えた」と話す。
東洋文化と西洋文化の融合
「アートとファッションを同時に作る」という言葉通り、ショーはコンセプチュアルな演出で始まった。2つの額縁を重ねたかのような真っ白なオブジェを、暗闇から一筋の光が照らし出す。疾走感のあるチェロのボーイングにより緊張感が張り詰めたところで情緒的な音色に切り替わり、モデルがゆっくりとフロアに登場した。
ファーストルックは、ヒップラインを覆うライトグレーのトップスと、テーパードシルエットのボアパンツ。そこにダークグレーのニットカーディガンを重ね、柔らかな印象を演出する。足元には、アッパー部分をシルバーのスパンコールで覆ったシューズを合わせてアクセントを加えた。
カジュアルな雰囲気の立ち上がりから、ドレッシーさが徐々に増していく。コシノ=デザイナーが得意とする、東洋文化と西洋文化を融合させたルックが連続し、角帯を思わせるベルトや、前立てを着物の襟のように強調したカーディガンが現れる。直線的なフリルをあしらった千鳥柄のジャケットは、折り紙を連想させた。モデルのヘアスタイルには、水引やまげを模したようなウェーブを作り、ジャポニズムの要素を散りばめた。
深化を続けるクリエイション
オートクチュールの精神は、細部に盛り込んだ。パンツの裾のスリットやドレスの胸元に刺しゅうでファスナーを描き、ラップスカートはカッティングでアシンメトリーに、Iラインが特徴のドレスには、メッシュの切り替えを細かく施した。ティアード部分がバルーン状のドレスや、ベル状のひだが印象的なスカートなども登場させた。
スタイリングは、カジュアルとフォーマルや、マニッシュとレディーライクを両立し、「ヒロココシノ」流の遊び心を効かせて、「一人のデザイナーが生み出したものが、あらゆる場面でも適用できることを見せたかった」。シンプルなジャケットにはスキニーなリブパンツを合わせてカジュアルさをプラスし、モノトーンのバトラー風スタイルにはヒールで華奢な印象を添えた。大きくスリットを入れて脚を露出させるブラックドレスにはプルオーバーを肩掛けし、オケージョンのムードを引き算した。
ラスト2ルックを飾ったのは、着物風のジャカード生地で仕立てたジャケット。アート分野での活躍を見せるコシノ=デザイナーが、実際に描いた作品を用いたといい、「ファインアートとテキスタイルの一体化を意図した」とコメント。デザイナー歴約70年を迎えた今もなお、クリエイションはさらに深化している。