コミュニケーションプラットフォーム「ロブロックス(ROBLOX)」は、2006年のサービス開始以来、アバタースタイリングを提案し続けてきた。先鋭的な機能やプロジェクト、ファッションブランドとのコラボレーションにより、デジタル上のファッションスタイルの選択肢を着実に広げている。メタバーストレンドの衰退を受け、企業側がバーチャルに関するもの全体を見直しているのは事実であるものの、「ロブロックス」のウィニー・バーク(Winnie Burke、以下ウィニー)グローバル・グループ・ディレクターが考える未来は真逆だ。ウィニーは米「WWD」の取材に対し、「ブランド・パートナーシップの数は増えており、数年単位での取り組みを持つほど関係性も深まっている」と語る。
PROFILE: ウィニー・バーク(Winnie Burke)/「ロブロックス」グローバル・グループ・ディレクター
広がるブランド・パートナーシップ
小売店とのコラボレーションも
「ロブロックス」上で販売された「アディダス(ADIDAS)」とのコラボによるデジタルネックレスは、先月200万Robux(約312万円※1ドル156円、6月10日時点)で落札された。それまで「ロブロックス」上で販売された限定バーチャルアイテムの最高額とされていた「ランボルギーニ(LAMBORGHINI)」の150万Robux(約234万円)のハットを超え、過去最高額となった。
1 / 2
「ロブロックス」のデイリーアクティブユーザー数は、23年12月末時点で7770万人━━これはイギリスの全人口よりも多い。膨大なユーザーを熱狂させ続けるのは、絶え間ない技術アップデートとユーザー体験、熱心なクリエイター・コミュニティーの構築、そして世界的ブランドとの長年にわたるコミュニケーションだ。「ロブロックス」は過去1年だけでも、「ヴェルサーチェ(VERSACE)」「ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)」「ラブシャックファンシー(LOVESHACKFANCY)」「ジバンシイ(GIVENCHY)」、ロレアル、ヒルトンホテル、ウォルマート……その他多くのブランドや企業戦略のためのパートナーシップを築いた。
大きな盛り上がりを見せる「ロブロックス」だが、プラットフォームの成長においてはさらなる投資が必要だ。23年1〜9月の間、プラットフォーム上で販売されたデジタル商品は160万点を超え、前年同期比で15%増加した。一方で、同社の最新の第1四半期(24年1〜3月期)の業績報告書は、ユーザーの支出が減速していることを示唆した。同期の売上高は22%増の8億100万ドル(約1249億5600万円)に達したものの、第2四半期の予測を下方修正したことが投資家の不安を煽ったのだ。つまり「ロブロックス」は新たな収益源を見つける必要に迫られており、すでにその課題に着手している。今年4月、「ロブロックス」マーケットプレイスは申請プロセスを廃止し、資格基準を満たせば誰でもデジタルアイテムを販売できるようになった。先月には、仮想空間上のビルボードで動画広告配信を開始した。
そして次なるチャレンジは小売店への進出だ。かねてから取り組みを進めてきたウォルマートは、「ロブロックス」上でフィジカルとデジタル両方での商品販売をテストしている。今月「ロブロックス」クリエイター3人とコラボし、ウォルマートで実際に売っている「ノーバウンダリーズ(NO BOUNDARIES)」のバッグ、「TAL」のステンレスタンブラー、「オン(ONN)」のワイヤレスヘッドホンの3商品を「ロブロックス」仕様にデザイン。これらデジタルアイテムを「ロブロックス」上で購入すると、フィジカル商品が手元に届き、売り上げは直接ウォルマート側に支払われる仕組みだ。これらの取り組みは、eコマース上での取引がどれだけユーザー、特にZ世代に響くのかを試験するものだった。
「WWD」のインタビューの中で、ウィニーは“「ロブロックス」とファッションの関係”、そして“その関係がどのように成長しているか”、また“ゲームプラットフォームにおける最新の商品販売と広告”について語った。
WWD:「ロブロックス」は以前からファッションブランドとのパートナーシップを築いてきた。最近では「アディダス」との取り組みが良い例だ。
ウィニー・バーク(以下、ウィニー):「アディダス」は、このプラットフォームへのアプローチにおいて非常に理解がある先進的なブランドだ。私達と「アディダス」チームは密接に協力し戦略を練った。私達からはプラットフォーム上のトレンド傾向や「ロブロックス」上での仮想経済、仮想ビジネス、そして彼らが作成する商品の管理方法など、コンサルティング的なアプローチを提供した。
WWD:「アディダス」のほか、どれほどの企業と取り組みを行っている?
ウィニー:カテゴリーを問わず、300以上のブランドと話が進んでいる。私達のコミュニティーにおいて、自己表現とデジタル・アイデンティティーはとても重要なものだ。ウォルマートのような歴史のある小売業者から、「バーバリー(BURBERRY)」や「グッチ(GUCCI)」のようなラグジュアリーブランド、そして「アディダス」や「ナイキ(NIKE)」「プーマ(PUMA)」などのスポーツブランド、さらにファストファッションまで、多くのブランドや企業とプロジェクトに取り組んでいる。数えればきりがないほどだ。
1 / 4
多くのメタバースが衰退する中
「ロブロックス」が成長し続ける理由
WWD:「ロブロックス」は時にメタバースに分類される。しかし独立したプラットフォームであり、独立した仮想世界であるからこそ、他のエコシステムに依存せず、メタバースバブルの崩壊から隔離されているようにも感じる。
ウィニー:同感だ。しかし同時に、ゲームは限定的なものだと感じる。私達のプラットフォームで最も特徴的なことは、ゲーム、エンターテインメント、ソーシャライゼーション、そして友人と共に楽しめるアクティビティーや体験全てが1つに組み合わさっている部分だ。コンサートに参加したり、アーティストに会ったり、プライベートサーバーで気が知れた仲間とつながったり、ファッションショーに参加したり、アバターを着飾ったりすることもできる。中でもファッションスタイルを表現するゲーム“Dressed to Impress”は、「ロブロックス」上でもトップクラスに人気のコンテンツだ。
WWD:様々なコンテンツがそろった「ロブロックス」は、かなり自己完結的な環境とも言える。その一方で2万ドル(約312万円)ものバーチャルアイテムを買ったら、他のプラットフォームでも着用したくなりそうなものだ。他のゲームやプラットフォームとの相互運用性についての計画は?
ウィニー:第一に、私達はコミュニティーのために作られた組織である。現時点で私達が計画していることはないが、「商品をプラットフォーム外に持ち出すことで、コミュニティーに良い影響力をもたらすのか」という部分では常に注目し、検討しているテーマだ。「ロブロックス」の特徴の一つとして、そのアイテムの有用性がプラットフォーム上に存在することだと考えている。アイテムを身につけたり、ステータスとして見せたりしたい場合、「ロブロックス」上なら大勢のオーディエンスや仲間にアピールすることができる。7800万近いユーザーがいるため、絶大な自己表現の場になり得るのだ。プラットフォームそのものは独立的で閉鎖的に見えるかも知れないが、体験自体は非中央集権的であると言えるだろう。
“フィジタル”で実現する
インタラクティブなeコマース戦略
WWD:「ロブロックス」におけるファッションプロジェクトの軌跡とは?
ウィニー:ラグジュアリーブランドはこのプラットフォームに早い時期から参入していた。21年、「グッチ」のデジタル“ディオニュソス”バッグは二次流通でブームを起こし、約4115ドル(約64万1940円)で落札された。現実で販売されているバッグの価格3400ドル(約53万400円)を700ドル(約10万9200円)以上も上回ったのだ。
この「グッチ」の取り組みは、他のラグジュアリーブランドが取り組みを行うための良い指標となった。もちろん慎重に様子を伺うブランドは多いが、この業界ではよくあることだ。十数年前のソーシャルプラットフォームがたどった軌跡とよく似ている。今では、これから取り組みを始めるブランドだけではなく、すでにアクションを始めているブランドでさえ「自分達は遅れをとっているのでは」と焦っている。しかし進化し続けているプラットフォームだからそう感じるだけで、実際は遅れているなんてことはない。
WWD:広告についてはどのような戦略を持つ?
ウィニー:仮想空間上のビルボードを活用することで、デジタル上であっても現実世界と変わらないチャネルとして利用できる。これにより、ブランド側が金銭・時間的な負担を負うことなくプロモーションにつながるよう努めている。
WWD:eコマースプラットフォームとしての「ロブロックス」に至るまでの道のりとは?
ウィニー:ここ1年半ほどはコミュニティーだけでなく、マーケティング担当者やプラットフォームに参加しているブランドのニーズにも耳を傾けてきた。「ロブロックス」には、多くの時間を消費する膨大なオーディエンスがいる。instagram、Pinterest、TikTokなど、他のプラットフォームも実装してきたように、「ロブロックス」もeコマースプラットフォームとして確立していきたい。ブランドやユーザーがプラットフォームから離脱せずに商品の売買を行えるようにしたいと考えている。
WWD:ウォルマートとのプロジェクトは、eコマース事業のための試験的な取り組みだったのか?
ウィニー:確かにウォルマートとの取り組みは試験的に行った。実際にウォルマートが持つエコシステムの中で反響が大きく、トレンドになっている3つの商品をeコマースで提供することができた。「ロブロックス」上のバーチャルアイテムはフィジカルアイテムとは少し異なるが、それがカギだ。ここからインスピレーションを得て欲しい。「アディダス」が販売したデジタルネックレスを現実世界で生産していないのと同じだ。
「ロブロックス」は研究開発として活用するためのプラットフォームではないが、実際に企業はそのように考えているだろう。昨年行った「フェンティ ビューティ(FENTY BEAUTY)」とのコラボレーションでは、ユーザーが作成した様々なバージョンのリップからリアーナが選んだものをフィジカル商品として生産した。このように実際に“フィジタル”が実現した例はたくさんあるし、今後もっと増えていくだろう。
WWD:「アディダス」のデジタルネックレスにはフィジカルスニーカーが付属し、「ランボルギーニ」のデジタルハットはイタリアのランボルギーニ本社へのツアー特権が付属した。「ロブロックス」は今後も、さらなる“フィジタル”体験の提供を強化していく予定なのか。
ウィニー:最終的には私たちのテクノロジーによって、誰もがプラットフォーム上で販売者になれるようになることを目指している。ブランドにとっても、クリエイターにとっても、デジタル上の仲間と共にフィジカル商品の体験を共有できるようにしたい。今年はより正式なソリューションを確立し、複数の実験を行う予定だ。