ファッション

スニーカーブランド「ヴェジャ」が広告費をかけずに成長を続ける理由 

PROFILE: フランソワ・ギラン・モリィヨン/「ヴェジャ」共同創業者 フランス生まれ。1998~2002年、ビジネススクールの名門校HECで経営学を学ぶ。04年「ヴェジャ」を設立 PHOTO : SHUHEI SHINE
サステナビリティとデザイン性、ビジネス成長を両立してみせるのがフランス発のスニーカーブランド「ヴェジャ(VEJA)」だ。人気モデルの“V-10”はアッパーにVの字をあしらった一見シンプルなスニーカーだが、その一足には消費をポジティブな力に変えるためのさまざまな工夫が凝らされている。

創業者のフランソワ・ギラン・モリィヨン(Francois Ghislain Morillion)とセバスチャン・コップ(Sebastien Kopp)は、「自分たちの世代を象徴するアイテムであるスニーカーでオルタナティブなモノづくりを実践したい」と2004年に同ブランドを立ち上げた。ブランド名はポルトガル語で“見る”を意味する。欧米を中心にビジネスを広げ、累計の製品販売数は1400万足にのぼる。このほど来日したモリィヨン共同創業者は、今後日本での存在感をより高めていきたいと意気込む。モリィヨンに「ヴェジャ」の独自性を聞いた。

WWD:「ヴェジャ」は創業当初から広告費用をかけず、生産者の賃金と生産工程の改革に多くを投資する方法を貫いてきた。オーガニックで成長できた強みをどう分析する?

フランソワ・ギラン・モリィヨン(以下、モリィヨン):第一にスタイルだ。一般的にサステナブルだからという理由で商品を購入する人はほとんどいない。お客さんとの最初の接点はあくまでビジュアルだと強く意識している。自分たちは広告を通して消費欲求を喚起しない分、よりシビアに人々が直感的に欲しくなるデザインを追求している。もちろん、初めからそれができたわけではなく、周りのフィードバッグも得ながら何度も修正を重ねてきた。

WWD:「ヴェジャ」のスタイルはファッション業界内でもファンが多く、さまざまな有名ブランドとのコラボレーションも実現している。

モリィヨン:私たちが尊敬するアニエス・ベーが最初のコラボ先だった。今ではコラボ事例は100以上ある。以前「ヴェジャ」のECサイトで何足も商品を購入してくれる人がいて、チーム内で「毎回熱心に買ってくれるこの人は誰だろう」と話していた。そうしたらその人物がリック・オウエンスだと分かった時には驚いた。その後、彼のチームから正式なオファーをもらってコラボが実現した。

WWD:あなたは主に生産面を担っているが、「ヴェジャ」の理想のサプライチェーンとは?

モリィヨン:理想は100%オーガニック素材で製造することだ。工業型の農地ではなく、小規模なオーガニック農地から素材を調達したい。現在コットンは、ブラジルとペルーで生産されたオーガニックコットンを直接仕入れている。ラバーはアマゾンの天然ゴムで、こちらも生産者から直接仕入れるサプライチェーンができている。次の課題は、サトウキビ由来のEVAだ。ブラジルではサトウキビが育たないためまだ直接のルートができていない。まだまだやるべきことはたくさんある。

「サステナビリティとコストはトレードオフの関係にはない」

WWD:他社からは物価高や生産コストが上昇し、サステナビリティに投資できないという話も聞く。

モリィヨン:一時期は商品の値上げをせざるを得なかったのは私たちも同じだ。ただ「ヴェジャ」にとって、サステナビリティはトレードオフの関係にない。サステナブルな解を探す作業は、私たちには純粋な楽しみなんだ。サステナビリティをコンプライアンスに準ずるための制約と捉えている他社と大きく違う部分だと思う。解を見つけるためには生産者との距離感はすごく大事で、10年ほど前には私はパリからブラジルに引っ越した。現地で素敵な工房と出会って、この人たちとどうやったら一緒に仕事ができるだろうかと試行錯誤していた延長で今のチームが出来上がった。

WWD:現在70カ国以上でビジネスを展開している。ビジネス規模を拡大しながらも透明性を担保し続けられる秘訣は?

モリィヨン:確かに最初は会社の規模が大きくなるにつれ、自分たちが貫いてきた倫理とのバランスが取れなくなるのではないかと心配だった。でも実際はその逆で規模が大きくなればなるほど、理想に近づくことができる。生産者に払う賃金も増やすことができるし、革新的な素材の開発のためにプロフェッショナルな人材をチームに迎えられているのもビジネスの成長があってこそ。それから、革新的な素材を使うためにはある程度の量を扱う必要がある。「ヴェジャ」が採用しているリサイクルポリエステル糸は、生産拠点のブラジルで地元の廃棄ボトルを回収し、そこから自社工場で100%廃棄ボトル由来の糸を製造している。一般的なリサイクルペットボトル由来のポリエステル糸では、そのペットボトルがどこから来たのかわからない場合が多いし、リサイクル糸を作るためにペットボトルを生産しているという本末転倒な話も耳にした。そこでブラジルの人々と連携し2年ほどかけて今の形を実現できた。ビジネス成長と比例して、より洗練されたサプライチェーンが構築できる。

WWD:来年は創業20周年を迎える。これまでターニングポイントとなるような出来事はあった?

モリィヨン:特に大きな転換点なかったように思う。むしろ1本の木が自由に枝を広げながら成長するように、どの地域もそれぞれのペースで自然に着実と成長してきた。最初はヨーロッパが中心で、最近ではアメリカと南アメリカが特に伸びている。振り返ればもちろん、失敗もたくさんあったし一方で予想外の成功もあった。たとえば、パリに12年前にオープンしたセレクトショップ業態「センターコマーシャル」は、最初は周りから「絶対うまく行かない」と心配されたが、今もとても好調だ。「センターコマーシャル」では「パタゴニア」を筆頭に、共感するブランドを並べている。「ポーター(PORTER)」「ナナミカ(NANAMICA)」「スティル バイ ハンド(STILL BY HAND」)」など、日本のブランドもたくさんある。来年以降は韓国に支社を立ち上げる予定で、アジア市場に力を入れる。特に日本はブランドとしての存在感はまだまだ出せていない。ポップアップやローカルモデルの企画など、しっかりコミュニケーションしていきたい。

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