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羽田発ジャパンラグジュアリーは視界良好か 「JMC」開店から半年

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羽田空港第3ターミナル(国際線)に「ジャパン マスタリー コレクション(JAPAN MASTERY COLLECTION、以下JMC)」が昨年12月に開店し、半年が過ぎた。“地方創生型ラグジュアリー”をうたい、欧米のラグジュアリーブランドと同じ土俵で勝負できる国産品育成を目指す。仕掛け人は羽田未来総合研究所の大西洋社長。元三越伊勢丹ホールディングス社長としてラグジュアリー業界を知り尽くす大西社長の挑戦はうまく離陸できたのか。

円形の大きな棚に陶器、漆器、錫製品、ガラス細工、木工品などが並ぶ。欧米からの観光客と思しき女性は、津軽びいどろ(青森県のガラス工芸品)のフクロウの置物(1万5000円)を購入し、満足げな表情で搭乗口に向かった。

羽田空港の第3ターミナル。「JMC」は保管検査場から出国エリアに入ってすぐ右手にある。188平方メートルの売り場は、グラマラスの森田恭通氏が漆や瓦などに着想を得て内装をデザインし、周囲のラグジュアリーブランドの免税店に負けない空間を作った。全国の産地から“ジャパンラグジュアリー”にふさわしい商品を集め、数万円の雑貨から100万円を超えるアート作品まで幅広い価格で売る。

JMCを仕掛けた羽田未来総合研究所は、羽田空港を運営する日本空港ビルデングの子会社だ。大西社長は日本空港ビルデングの副社長であり、旅客ターミナル運営統括でもある。

売り上げ堅調でも手厳しく

開店から半年がたち、冒頭の津軽びいどろ、鎌倉の美術作家によるブリザードフラワー、富山県の銅製の一輪挿しなどが累計500点以上を売るヒット商品になった。羽田未来総合研究所の楊井吉彦・地方創生事業部長は売れ筋には共通点があると話す。「カラフルで小ぶり。日本らしさを感じさせる。価格は1万〜2万円台。ギフトや手土産としての需要が思った以上にある」。

初年度の売上高は6億〜8億円の計画だったが、大西社長は「がんばって10億円を目指したい」と上方修正を促す。以前同じ場所にあったラグジュアリーブランドの実績を上回るペースで推移しており、幸先は悪くない。

それでも大西社長は現場に厳しい注文をつける。「お客さまの情報を全く取れていないのは問題だ。ビジネスや観光で何度も来日する方は少なくないのだから、CRM(顧客関係管理)でしっかり個客化すべきだ。そうしないと次に打つべき手が見えない。訪日客の増加に頼るだけでは、いずれ行き詰まる」。

手厳しいのは掲げる理想が高いからだ。優れた商品を作る日本の生産者が正当な評価を受けられず、経済的にも困窮し、技術を継ぐ若者も集まらない――そんな現状を変えようと企画されたのがJMCだった。世界中から人が集まる羽田空港の地の利を生かし、発信力を高める。商品の価値と魅力を伝えて、売り上げを稼ぐ。訪日客の反応を生産者にフィードバッグする。JMCは単なる売り場ではなく、地方創生事業のハブなのだ。大西社長は日本の高級品のマーケットが欧米のラグジュアリーブランド一辺倒であることに対し、「本当にこれでいいのか」と訴えてきた。

「JMCは店舗というよりも一つのブランド」だと考える。現時点で2割のオリジナル企画の割合も徐々に上げる方針だ。商品のグレードを高めて、ジャパンラグジュアリーと呼ぶにふさわしいポジションを獲得する。産地の特定の企業が潤うだけでなく、産地のエリア全体に活気を生み出すことが最終的な目標だ。

高級ホテルへのBtoB事業も

JMCが掲げる地方創生に作り手たちも賛同する。

「1〜2カ月の手間をかけて手作りした商品の販売店数が増え、作り手の励みになっている」。そう話すのは香川県の讃岐かがり手まり保存会の溝渕友恵氏だ。「讃岐かがり手まり」は色とりどりの木綿糸の美しさが魅力だが、そもそも訪日客には手まりが何なのか理解されにくく、通常の店舗では販売に結びつけるのが難しかったという。「手まりに興味を持った海外のお客さまが、香川に観光に来てくれるような仕掛けも(JMCに)ほしい」と期待を寄せる。

新潟県で木工品の雑貨を作るストーリオの木村和久氏は、「購入データに基づいたお客さまの嗜好やマーケティングはたいへん役に立っている」、香川県の庵治石(あじいし)でインテリアや生活雑貨を作るAJI PROJECTの二宮力氏は、メディア露出が増えたと評価した上で「顧客の購買意欲を高めるような商品を(JMCと)共同開発したい」と話す。

大西社長は「ブランドとして認知されるためには、最低でも30億円の規模が必要」という。店舗の増床も視野に入れる。越境ECについては具体的に準備を進めており、近日中にスタートする予定だ。また都心の高感度なショッピングセンターへの出店も構想する。

BtoB事業にも乗り出す。高級ホテルやレストランなどの内装、あるいは食器やカトラリー、アメニティをカセットで提案する。楊井部長は「店舗だけで利益を作るには時間がかかる。それにJMCの商品は職人さんが一点一点手作りするものばかり。(その時々の売れ行きに応じるため)安定した発注は難しいが、BtoBの大口発注であれば生産量も納品日も計画的に組める。作り手にとってもメリットが大きい」という。

日本のファッションを世界へ

JMCはこれまで工芸品が目立っていたが、日本発のファッションやビューティの世界に向けた舞台としての機能させていく。

店内のプロモーションスペースで6月26日からデザイナー高橋悠介のファッションブランド「CFCL」のポップアップストア(8月27日まで)を開く。「CFCL」は日本の優れたニッティング技術を用いて独創的な服を作ることに加えて、サステナブルの国際認証Bコープを日本のアパレルで初めて取得するなど、先駆的な取り組みで知られる。「CFCL」の次のポップアップストアも日本のビューティブランドを特集した企画を予定する。

「第3ターミナルは海外のお客さまの目に触れる舞台になりうる」と話すのは、地方創生事業部の寺澤真理氏だ。今春、羽田未来総合研究所に入社する前は三越伊勢丹に在籍し、伊勢丹新宿本店のインキュベーションスペース「TOKYO解放区」のバイヤーなどを務めた。ちなみに楊井部長も三越伊勢丹出身だ。寺澤氏は「JMCは世界に売り出したい若手・中堅のファッションデザイナーの発信の場として機能させていきたい」と話す。

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