「サカイ(SACAI)」は6月23日、パリ・メンズ・ファッション・ウイークで2025年春夏メンズ・コレクションとウィメンズの2025年プレ・スプリング・コレクションを発表した。阿部千登勢デザイナーが今季着目したのは、「この世に生きる主な理由は、発見することである」という故ジェームス・ディーン(James Dean)の言葉。24歳でこの世を去った俳優のピュアで自由な精神やスタイルと「サカイ」らしいデザインをハイブリッドし、若々しいアティチュードを表現した。
随所に感じる亡き俳優へのオマージュ
会場のセットデザインは、木の枠組みで作られた家。これは、アメリカ人写真家のデニス・ストック(Dennis Stock)がディーンの幼少期に住んでいた家の前で撮影したアイコニックな写真から着想したもの。そこから出てくるモデルたちは、メガネをかけていたり、ブックバンドで縛った本を携えていたり。その姿はディーンが本を読む姿を捉えたストックの写真からヒントを得たという。
ファーストルックは、黒のバイカー風レザージャケット。続いて、ディーンが映画「理由なき反抗」の中で着ていたハリントンジャケットを想起させる真っ赤なバリエーションも登場したことで、彼のスタイルへのオマージュであることが見えてくる。そんなハリントンジャケットは、別のアウターやテーラリングのデザインとハイブリッドしたり、シェイプをアレンジしたりと、さまざまな形で登場する。そこに合わせるインナーは、ディーンの写真をプリントしたTシャツや、彼自身の着こなしにつながる真っ白なTシャツ。また、カジュアルシャツやブルゾンに用いられたビンテージカーのモチーフは、彼の愛車をほうふつとさせるとともに、彼が活躍した1950年代のムードを漂わせる。
人気を集めそうなコラボが充実
「サカイ」のメンズ&プレ・コレクションでは毎シーズン、多彩なコラボレーションが発表されるが、今季も充実している。まず目を引いたのは、「リーバイス(LEVI’S)」。2017-18年秋冬のウィメンズでもコラボアイテムを手掛けたことがあるが、今回はトラッカージャケットのタイプI、II、IIIの3型をベースに裁断して再構築したり、フライトジャケットなどとドッキングしたり。長いベルト付きのバギージーンズや、大胆なフレアシルエットを描くウィメンズのジャンプスーツもそろえる。そして、23年に初めてコラボした日本の「ダブルタップス(WTAPS)」とは、両ブランドが得意とするミリタリーウエアにインスパイアされたアウターやシャツ、スカート、パンツを打ち出す。
これまで数々の名作を生み出してきた「ナイキ(NIKE)」とは、トレイルランニングスニーカーの“ゼガマ トレイル2(Zegama Trail 2)”とハイキングブーツの“ラバ ドーム(Lava Dome)”をハイブリッドした新作“ゼガマドーム(Zegamadome)”を制作。白、黒、イエローの3つの配色をラインアップする。さらに、昨シーズンスタートした「J.W.ウェストン(J.W. WESTON)」との協業も継続し、かかと踏んでも履くことができるペニーローファーを提案する。
「まだまだ学びたいし、いろんなものを発見していきたい」
今回のコレクションは、全体的にいつもよりシンプルな印象だった。しかし、「親しみのある定番を再解釈した今季、特にメンズは一見シンプルだけれど、実は一着に3つのアイテムがハイブリッドされていたり、ジャケットのように見えてシャツだったりと『サカイ』らしく複雑に作り込んでいる」と阿部デザイナーは説明する。一方、ウィメンズは肩周りから二の腕までが大きくふくらんだジゴ・スリーブのような誇張された袖や、動きに合わせて弾むフレアラインがポイントに。メンズ・ウィメンズ共にワイドパンツは、ポケット部分が張り出したような立体的なデザインで新鮮な印象に仕上げている。そのアプローチは、ウィメンズのメイン・コレクションで果敢に取り組み続ける新たなシルエットの探求に通じるものだ。
「以前から知っていて、いつか使いたいと考えていたが、今の私たちの気分にピッタリ合った」というディーンの言葉から出発したコレクションを通して、阿部デザイナーが伝えたかったのは「洋服のデザインだけでなく、ブランドのあり方も皆それぞれの人生も前を進むことで発見がある」というメッセージ。「25年もコレクションを作り続けているけれど、私はまだまだ学びたいし、いろんなものを発見していきたい」と意欲的な姿勢を見せた。