米百貨店サックス・フィフス・アベニュー(SAKS FITH AVENUE)などを擁するカナダの小売り大手ハドソンズ・ベイ・カンパニー(HUDSON'S BAY COMPANY以下、HBC)は7月4日、米百貨店ニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)やバーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)を運営するニーマン マーカス グループ(NEIMAN MARCUS GROUP以下、NMG)を26億5000万ドル(約4240億円)で買収することに合意した。取引が成立すれば、年商100億ドル(約1兆6000億円)規模の“ラグジュアリー百貨店グループ”が誕生するが、懸念点もある。ここでは、買収の経緯や狙い、メリットとデメリットなどをまとめた。(この記事は「WWDJAPAN」2024年7月15日号からの抜粋です)
HBCを率いるリチャード・ベーカー(Richard Baker)会長兼最高経営責任者(CEO)にとって、今回の買収は“悲願”ともいえるものだろう。同社は2013年にサックス・フィフス・アベニューを買収しているが、ベーカー会長兼CEOは、その時点ですでにNMGを傘下に収めたい旨を明らかにしていた。17年には、多額の長期負債を抱え業績が悪化していたNMGの買収にHBCが関心を示しているとの臆測が広まったものの、NMG側がこれを否定。18年には、両社が非公式の協議を重ねていると複数の業界筋が証言していたが、結局実現しなかった。その後、ECの台頭などによって小売り環境は大きく変化し、HBCも苦境に。19年には、「短期間での成果やリターンが期待されない環境で再生を目指したい」として、ベーカー会長兼CEOを含めた複数の主要株主が同社の発行済み株式を買い取る形での上場廃止となった。
一方のNMGも、負債の返済や利息の支払いが業績の重しとなっていたほか、コロナ禍の影響などもあり、20年5月に日本の民事再生法に当たる米連邦破産法第11条の適用を申請。HBCにとってまたとない買収機会だったが、前述の上場廃止のため、資金的な余裕がなかったと見られている。こうした紆余曲折を経て、ようやく買収合意までこぎつけた。
ベーカー会長兼CEOは、「この取引の実現には10年以上かかっているので、今回の合意を大変うれしく思っている。過去に何回も協議を行ったが、価格面などで折り合いがつかなかった。その後、コロナ禍が起き、NMGは経営破綻に陥ったものの、ようやく全ての当事者にとって納得がいく取引をすることができた」と語った。なお、今回の合意に向けた協議は、23年の夏ごろから行っていたという。
これほどNMGを獲得したかった理由は、ベーカー会長兼CEOが以前から語っていた、北米に“ラグジュアリー百貨店グループ”を誕生させたいという夢はもちろん、スケールメリットによるコスト削減という現実的な側面もあるだろう。人事、財務、事業開発、法務など重複する本社機能の集約、バイイングチームや顧客データ管理の共通化、店舗の統廃合による賃料や人件費の削減などが考えられるが、場合によっては数百~数千人規模での人員整理が行われる可能性もある。
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