2009年から続く「WWDBEAUTY」のベストコスメ特集では、バイヤーのアンケートをもとに本当に売れた商品を表彰する。連載「ベスコス歴代名鑑」では、15年以上続く本特集の中でも常にランキングに入賞する“傑作”をピックアップ。時代を超えて愛される理由や商品の魅力について、美容ジャーナリストの加藤智一が深掘りする。今回は「イプサ(IPSA)」の人気化粧水“ザ・タイムR アクア”にフォーカス。
「イプサ」の“ザ・タイムR アクア”が初めて発売されたのが2002年。商品名のRはリセットの意味で、肌をリセットして、水をまとったような肌に導くというコンセプトのもと発売した。その後、バージョンアップを繰り返し、14年5月に現行品である4代目が発売。3代目に採用した肌あれ防止効果は継承しつつ、アルコールフリー、油分フリーをうたってリニューアルした。そして、この“肌あれ防止効果”こそが、その後の爆発的ヒットを呼び込むきっかけになる。
肌あれケアの口コミが広がり“流金水”の異名も
というのも、当時はリポソームや酵母系など機能性タイプや、白濁した高保湿タイプが美容業界を席巻していた時代。その中で、肌への水分補給や肌質問わずに使用できることを一貫して訴求していた“ザ・タイムR アクア”は、化粧水としての堅実なコンセプトからリピーターを獲得。加えて、中国では“ザ・タイムR アクア”が環境汚染による肌あれをケアするという口コミが話題になり、肌をリセットする“流金水”、“アクア神水”と名付けられてヒット。そこへ訪日客による“爆買い”現象で人気が定着。中国の電子商取引大手アリババ・グループによる毎年恒例の「独身の日」セールでは、化粧品ブランドのトップに躍り出るほど飛躍的に認知度を向上させた。
一方、日本国内でも「肌あれ 化粧水」でググると、“ザ・タイムR アクア”がトップに表示されるほど、肌あれに対する効果で認知が高まり、ジェンダーレスコスメ、シェアコスメとして男性にも愛用者が拡大した。肌質を問わずに使えることから、ドラマや映画の撮影時に活用できるとヘアメイクからのファンも獲得。また、コロナ禍では肌がゆらいでいる時でも使える化粧水として、アジア諸国と同様に、国内でも高評価な口コミが波及効果を醸成した。
大型広告を打つことなしにベスコス通算135冠
現在では“ザ・タイムR アクア”初代の愛用者が肌あれに悩む息子やパートナーに手渡すなど、夫婦や2世代にわたるファンも増えており、そんな“家族使い”も浸透しつつある。そんなロイヤリティの高いリピーターに支えられ、“ザ・タイムR アクア”はテレビCMなど大型広告を打つことなく、2024年上半期時点でベストコスメ通算135冠を獲得。さらに、23年度は国内のほか、アジア各国を含めて年間販売個数が約300万本を達成した。ブランド内ではスキンケアの売り上げのおよそ半分を“ザ・タイムR アクア”が占めるという名実ともにアイコニックな存在を確立した。
現行品が発売されて、今年で10年。現在は「近い将来のリニューアルに向けて、鋭意研究に尽力している段階」(菅野麻沙未「イプサ」PR)という。水の層で肌表面を包み込むという現行品のテクノロジーが、どの方向性で進化を遂げるのか。温暖化とともに乾きが悪化していく肌にいかにアプローチするのか。その新たな技術に期待が膨らむ。