PROFILE: 左:河合航大/ピックユー取締役 右:冨田理央/ピックユー社長
WWD:インフルエンサーを対象としたフリマサービスはありそうでなかった。どのように着想した?
冨田理央社長(以下、冨田):僕は大学時代に洋服をたくさん購入していました。でも、結局長く愛用していた服は憧れの人からもらったお下がりや、河合が作ったアイテムなどでした。「この人が着ていた」といった付加価値を含めて洋服を着るのが好きだったのです。
当時、インフルエンサーが個人開催する対面フリマを利用したこともありました。しかし、梱包が雑だったり正直あまりいい体験ではありませんでした。それでも、周囲にインフルエンサーの友人がいたので、開催準備や梱包といった全ての作業を個人が担う難しさも理解できた。出品者の苦労と購入者の不満足感の両方を解消するサービスを提供すれば、ユーザーを獲得できるのではと思いました。
WWD:「ピックユー」はどういうサービスか?
冨田:インフルエンサーが着ていた服を購入できるC2Cマーケットプレイスです。いわゆるフリマサービスは、インターネット上に取引のプラットフォームを作り、出品者が出品作業や配送などを担っていますが、「ピックユー」では僕らが全ての取引に関与しています。まず、出品者であるインフルエンサーは僕らの物流センターに古着を送ります。それらの商品の情報確認、採寸、画像の撮影、コンディションチェックを僕らが請け負います。出品者は商品の説明文、スタイリング写真、着用写真を登録して、出品完了。購入が成立し次第、僕らが手数料を頂き、出品者に売上金を支払うモデルを採っています。購入者は商品写真を統一規格で閲覧できるし、一括してカゴに入れて購入できるため出品者ごとに決済をする必要がありません。
裏側を全て引き受けているため、インフルエンサー側の出品体験も購入者側の購入体験も良い。だから両方のユーザーの獲得につながっています。
WWD:なぜ、商品の説明文といった工程は出品者に任せる形を採用したのか?
冨田:出品者個人の個性や魅力が出るところであり、僕らに委ねたくないこだわりの部分でもあるからです。インフルエンサーの服を買うというサービスの仕組み上、出品者である彼らが表に立つことは必須。そこは購入のフックとして残す必要があると考えました。
WWD:どういった商品が売れる傾向にあるか。
冨田:フォロワー500人の人でも売り上げを立てている事例もあり、フォロワー数と売り上げが相関しないのが僕らのサービスの面白い点だと思っています。売れる商品は商品自体にバリューがある場合もありますが、「ピックユー」のプラットフォーム上にあるから売れるという側面もあります。出品者に関係なく全ての商品を一括で決済できる仕組みによる満足感や、全アイテムを統一規格で採寸して商品画像を掲載していることの信頼感により、場としての魅力が高まっていることで商品が売れやすくなっています。
フリマをかっこいいと思っていなかった
WWD:そもそも、2人が共同で会社を立ち上げるに至った経緯は?
冨田:大学在学中にこのビジネスモデルを思い付き、大学3年の終わり頃には1人で実験的にサービスを始めていました。ビジネスモデル自体には自信がありましたが、僕らはファッションのサービスなのでビジネスの側面と同じくらいユーザーからどれだけイケてると思われるかが重要です。そこが河合とならできると思いました。
河合航大取締役(以下、河合):僕は文化服装学院出身で、周囲にファッション業界の人が多い環境にいました。僕を含めて彼らはフリマをかっこいいとは捉えていませんでした。特に、インフルエンサーがフリマをやることに対してネガティブなイメージを持っている人が多いと感じていました。そこの価値観を逆転できたらうまくいくのではと思いました。
WWD:確かにインフルエンサーが鍵垢や別アカウントで自分の古着を売る動きは一時期頻繁に見られた。
冨田:いろいろ事情や考えがあるんだと思います。ですが、フォロワーを使っていらなくなったものをお金に変えるという行為自体がイケているものではないので、ダサいと思われたくないという面もあったと思うんです。出品者側も洋服を売りたいし、ファンである消費者としても買いたいという需要があるのに、オープンに運営しづらい状況がありました。今は、「ピックユー」でインフルエンサーが実名で堂々とフリマをやっています。これは「ピックユー」のイノベーションだと自負しています。
WWD:インフルエンサーはなぜ「ピックユー」であれば出店したいという気持ちになるのか。
河合:ファッションを理解している僕らだからこそ、「ピックユー」で出店することが“イケている”というムードをつくることができたと思います。「ピックユー」で出品、購入することがイケているというムードを醸成するためには、そもそも「ピックユー」のプラットフォーム自体がイケているという認知を広める必要がある。その役割をSNSが担うという道筋を最初から設計していました。
動画「今日なに着てる?」でファッションの熱量を上げる
WWD:すでにフォロワー数はインスタグラムが13.7万人、tiktokが8.8万人に達している。
河合:基本的に僕らのサービスはSNSからユーザーが入ってきています。SNS運用で広告宣伝費を使わずにサービスの認知を拡大できました。また、商品を買い取っているわけではないので出品者がインスタグラムのストーリーズなどで自発的に宣伝をしてくれることも経営上のメリットです。
WWD:インスタグラムのリール動画「今日なに着てる?」インタビューの総再生回数は1.2億回を超えている。このコンテンツを始めようと思ったきっかけは?
河合:ファッションに対するみんなの熱量を上げないと服が売れていかないと思ったからです。僕自身も服が好きで、学生時代は当時のストリートスナップに影響を受けていました。スナップがあるからみんなファッションを頑張るし、オシャレして外出しようと思う。近年はその文化が衰退していって、アルゴリズム的にもフィードのトップにストリートスナップが上がらなくなってきていました。そんな中で再燃できたら、みんなのファッションの熱量が上がって業界にもプラスだと考えて始めました。
最初がバズれば、他の媒体も続いてどんどんはやる。多くの人がファッションを目にする機会が増えて、服をおしゃれにしてみようかなという気持ちが湧く。このサイクルをつくりたいと考えたんです。
WWD:「今日なに着てる?」の出演者は全員出品者?
河合:出品者もいますし、これから出品する人もいます。アポイントを取って撮影することもあれば、歩いているときにハントすることもあります。そこは特に決めていません。ですが、ファッションの系統はオールジャンルを扱うことを意識しています。フォロワー数も気にせずにオファーをしています。狙っているのは、誰でも出られるわけではないが、全員が自分も頑張ったら出られるかもしれないと思えるライン。そこを見せることが、みんながファッションを楽しみたいという欲につながると思います。
メディアならばニッチな狭い層に刺さるものを選ぶという手段もあると思いますが、僕らはあくまでフリマサービス。利用者は多ければ多いほどいいんです。そうなると、全員に共通して可能性を見せる必要があります。
WWD:ジャンルを問わずに取り上げるとイケているムードとは離れて、大衆に寄りすぎてしまう気がする。そこはどうコントロールしている?
冨田:リールは可能性を絞らずに出演してもらっています。ですが、フィード投稿は河合がディレクションして「ピックユー」の世界観をダイレクトに作っています。リールはさまざまな人が出演する、フィードは自分たちのサービスの世界観を魅せる、ストーリーズはアイテムの情報を出すなど、SNSツールの機能で使い分けています。
WWD:利用者の幅は広げつつも、インフルエンサーが出店したくなるようなイケてるツールという絶妙なバランスを保っている。
河合:文化服装学院に通っているときに思ったんです。みんな好きなものを作るしやりたいブランドがある。でもやっぱりうまくいかないし、そもそも見てもらえないということも多かった。どうしてだろうと考えたときに、何をやるかだけでなく、それをどう見せていくかが重要だと思いました。だから、ファッションに興味のない人にも届けるために、「今日、何着ていますか?」などの文脈に載せたアプローチをしています。
WWD:再生回数や閲覧数の増加など、アカウントの影響力も高まっている。PRとしての仕事依頼も来そうだ。
河合:リール動画に出演したインフルエンサーのフォロワーが1万1000人増えるという事例もありましたし、すでにいくつかのブランドからPR依頼を頂きました。2次流通のサービスが1次流通の会社やブランドから案件を頂くことはまれなケースだと捉えています。
WWD:今後どう成長していきたいか。
冨田:SNSを中心としたマーケティングなので結果として20代を獲得していますが、このスキームは年代問わずに需要があると考えています。直近は、双方のユーザー体験の向上に注力していきたいです。現状では、こちらが担う作業の部分にコストがかかっているので、倉庫の自動化、オペレーションのデジタル化を進めていきたいです。