韓国の大手EC企業クーパン(COUPANG)は、2023年12月に買収した高級ECファーフェッチ(FARFETCH)の企業向けECプラットフォーム事業、ファーフェッチ・プラットフォーム・ソリューション(Farfetch Platform Solutions)を終了することを明らかにした。スティーブン・エグルストン(Stephen Eggleston)最高商務責任者が取引先などに送付したメールによれば、事業の優先順位を検討した結果、今後は主軸のマーケットプレイス事業に注力するという。
ファーフェッチ・プラットフォーム・ソリューションは、ブランドや小売り向けのEC支援サービスとして2015年にスタート。「マノロ ブラニク(MANOLO BLAHNIK)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「ポール・スミス(PAUL SMITH)」「バルマン(BALMAIN)」などのブランドや、英百貨店ハロッズ(HARROD'S)などと提携した。しかし、ここ数年、データの安全性や商品の希少性を維持し、値下げやセールによるブランド価値の毀損を避けるため、ブランド側がECの内製化を進めたことから契約数が減少していた。
また、ファーフェッチは23年8月、「カルティエ(CARTIER)」「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」「クロエ(CHLOE)」などを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)が擁するラグジュアリーEC大手のユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP以下、YNAP)の株式の47.5%を取得することに合意した。この取引には、ファーフェッチ・プラットフォーム・ソリューションをリシュモンとYNAPが導入する契約なども含まれていたが、クーパンによるファーフェッチ買収を受け、リシュモンは「合意を破棄する」との声明を発表した。
それに加えて、24年2月には、「グッチ(GUCCI)」「サンローラン」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」などを擁するケリング(KERING)と、ニーマン マーカス グループ(NEIMAN MARCUS GROUP以下、NMG)が擁する米百貨店バーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)が、ファーフェッチとの提携解消を発表している。
ファーフェッチ買収がクーパンの重荷に?
クーパンは、“韓国のアマゾン”とも呼ばれるeコマース企業。本社は米シアトルにあるが、韓国やアジア各地にもオフィスを構えており、韓国語サイトで家電や生活雑貨、消費財、衣類、食品などを扱っている。
同社の2024年1~3月期(第1四半期)決算の売上高は前年同期比22.6%増の71億1400万ドル(約1兆386億円)、営業利益は同62.6%減の4000万ドル(約58億円)、純損益は前年同期の9100万ドル(約132億円)の黒字から2400万ドル(約35億円)の赤字となった。同社によれば、ファーフェッチの買収は第1四半期中に完了。売上高に2億8800万ドル(約420億円)貢献したものの、9300万ドル(約135億円)の損失を与えたという。
なお、直近の4~6月期(第2四半期)決算は、売上高が同25.4%増の73億2300万ドル(約1兆691億円)、営業損益は前年同期の1億4800万ドル(約216億円)の黒字から2500万ドル(約36億円)の赤字に、純損益は1億4500万ドル(約211億円)の黒字から1億500万ドル(約153億円)の赤字となった。純損失には、ファーフェッチによる損失のほか、クーパンがEC上で自社のプライベートブランド商品が目立つようアルゴリズムを不正に操作したとして韓国の公正取引委員会から科された罰金1400億ウォン(約140億円)が含まれている。
ファーフェッチは、傘下に英セレクトショップ、ブラウンズ(BROWNS)のほか、故ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」などを擁するニューガーズグループ(NEW GUARDS GROUP)、スニーカーのリセールサイト「スタジアム・グッズ(STADIUM GOODS)」などを持っている。これらの資産の今後については明らかになっていないが、クーパンが赤字に陥っていることを考えると、売却の可能性もあるだろう。