「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へのオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事は「WWDJAPAN」2024年8月26日号からの抜粋です)
今年上期のベスコスに、ある異変が起きている。長年、“常勝ブランド”ともいうべき顔ぶれが、代わる代わるベスコスを取り合い、結果として“無風状態”であった口紅のジャンルで、今回圧倒的な強さを見せベスコスを総なめし、「VOCE」などでは全体のコスメ大賞まで獲得したのが、黒カネボウこと「カネボウ」の口紅であったこと。実はこの結果、美の定義そのものの異変を意味している。
カネボウ化粧品は「ケイト(KATE)」の“リップモンスター”など大ヒット商品を生み出し、品質では群を抜いているものの、“ブランド”としては白斑問題以降、攻めの展開ができないなど苦しい状況にあったが、2020年、欧文の「KANEBO(カネボウ)」が新生デビューを果たしたあたりから、明らかにイメージが変わり、みるみる勢いを増してきた。次々に大ヒット商品を生み、一躍トップブランドの1つに踊り出たものの、今回の口紅の成功は異例。また別の意義をはらんでいる。口紅ばかりは、品質や色味もさることながら、何よりブランドイメージやメッセージがモノを言う。そんな中で、「I HOPE……美ではなく希望を語る。」という大胆なメッセージを掲げた「カネボウ」の口紅“ルージュスターヴァイブラント”が、絶大な支持を集めたのは、ある意味“歴史的”な事件。「美よりも」「美ではなく」と、“外見至上主義”を露骨に否定するように「希望」を最優先させ、あえてリンゴを頬張り、ラーメンをすするシーンをCMに使うなど、化粧品としてはリスキーな提言が、口紅で圧倒的な評価を得たのだから。
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