「エクソソーム」という言葉を耳にする機会が増えている。国立研究開発法人日本医療研究開発機構が「エクソソーム製剤の品質管理戦略構築に関する研究」を研究開発課題として採択するなど、産業化に向けた動きも始まっている。美容業界でも注目度は高い。今回は「エクソソーム」と、エクソソームを豊富に含む「幹細胞培養上清液」についてひもく。
「エクソソーム」をキーワードにしたシートマスク・パーツケア美容液が活況
美容家・君島十和子氏がプロデュースする「FTC」のまつ毛美容液“FFアイラッシュセラム クリスタリュクスEX”(4mL、5500円)や、 10月1日に発売される「ファブール(FAVEUR)」のアイ&リフトケア美容液“ニードルアイ&リップリフトクリームCC”(15g、9980円)のキー成分はヒト脂肪由来間葉系細胞エクソソームだ。「ルルルン(LULULUN)」 “ルルルン ハイドラ EX マスク”(7枚、880円/28枚、2640円)は、日本製ヒト脂肪由来間葉系細胞エクソソームをキー成分とし、オンラインショップでは欠品になるほどの人気ぶり。
「ベルアージュ(BELAGE)」も、唇の縦ジワ対策美容液“ベルアージュ リペアリップ ∞”(15g、7700円)に、ヒト脂肪由来間葉系細胞エクソソームを搭載する。同商品をハリウッドと共同開発した、セルソース主席研究主幹・大西和夫によれば「幹細胞は、皮膚や血液など私たちの体をつくるさまざまな細胞に変化する。これまで、幹細胞の機能として考えられていた細胞を修復させるパワーは、実は幹細胞が放出する微細な粒子『エクソソーム』による働きだと判明し、注目を集めている」とコメント。大西氏によれば、エクソソームとは、「細胞が分泌する直径約100nm(ナノメートル/10億分の1メートル)前後という非常に小さなカプセル状の物質のこと」と説明する。
エクソソームは、細胞間のコミュニケーションを促進し、抗炎症に有望
エクソソームは、幹細胞を培養するときにできる上澄み液「幹細胞培養上清液」に多く含まれる。“エクソソーム(幹細胞培養上清液)”(1回、10万5000円)を展開する、東京美容クリニック表参道本院・山村菜実医師は「幹細胞を培養し、その培養液から幹細胞を取り出し滅菌などを行った液体の上澄み液『幹細胞培養上清液』に、エクソソームをはじめ、多くの生理活性物質が含まれている。このため、幹細胞培養上清液を『エクソソーム』と称するクリニックもある。エクソソームは、エイジング、ニキビ、しわなど幅広い悩みにアプローチする。当院では、さまざまな美容医療を経験された40代から50代の顧客が、たるみ毛穴、シワなどを理由に施術を受けるケースが多い。エクソソーム注射は、頬やおでこに注入することが多く、1カ月おきを目安に施術を受けることができる」。
神宮外苑ウーマンライフクリニック・伊沢博美医師は「エクソソームは、細胞間のコミュニケーションを促進する。抗炎症、免疫調整といった特性を持ち、炎症性疾患の治療にも有望とされている。汎用性が高い一方で、懸念点もある。一般消費者からは、高品質の製剤が見分けにくい点だ。現時点では、エクソソームの製造・収集方法の標準化が規定されていない。また、体内での半減期が短いため、持続的な効果を得るためには頻繁な投与が必要になる可能性がある」とコメント。
エクソソームを豊富に含む「幹細胞培養上清液」は由来によって特長が異なる
一言で「幹細胞培養上清液」といっても、元となる幹細胞の由来によって特長が異なる。「一般的に、臍帯由来はフレッシュな幹細胞で、エクソソーム含有量が多いといわれている。肌のターンオーバーが促され、幅広い美容効果が期待できるが、臍帯由来の幹細胞培養上清液の国内生産は数社で少ない。脂肪由来は、比較的価格を抑えられるメリットがある。歯髄由来も乳歯を使うので、臍帯由来同様にエクソソームを豊富に含んでいる」と山村菜実医師。
伊沢博美医師は、「臍帯由来は、高い再生能力で知られ、アンチエイジングに関連する成長因子を豊富に含んでいる。脂肪由来は、抗炎症、皮膚再生、コラーゲン生成促進に、乳歯髄由来は、神経の再生や抗炎症に用いられることが多い。当院では、日本では希少な月経血幹細胞治療を行っている。自家月経血幹細胞とは、いわゆる生理で排出される血の中に含まれる幹細胞のこと。20年に、再生医療等安全性確保法下で、日本初となる『卵巣機能低下に対する自家月経血由来幹細胞の静脈投与』が受理され、現在まで治療を提供している。美容分野だけでなく不妊治療でも貢献が期待されている」と話す。
乳歯由来の幹細胞培養上清液がキーの「リユー(RE/U)」 伊勢丹新宿本店でのポップアップは過去最高売り上げを記録
2022年2月に上野ナツヒと乙黒えりが設立した「リユー(RE/U)」は乳歯由来の幹細胞培養上清液“ビーナ(BYINA)”をキーとする。伊勢丹新宿本店で、今年開催したポップアップストア(1月31日~2月6日)は、催事として過去最高の売り上げを記録したという。
上野ナツヒ「リユー」ブランドマネージャーは「幹細胞培養上清液には、肌を健やかに保つために重要な5000種類のたんぱく質、1mLあたり50億個のエクソソームを豊富に含む。幹細胞培養上清液“ビーナ(BYINA)”は、疾患のない10歳の日本女児の乳歯幹細胞由来で、提携ラボで培養されている。各製品の濃度も明示するなど、トレーサビリティを実現し情報開示も積極的に行っている。こうした企業姿勢も、アイテムを選ぶ基準になり得る」とコメント。また、幹細胞培養上清液に含まれるサイトカインやエクソソームなどの生理活性物質は、20℃の常温で徐々に活性を失うとされ、「リユー」では全製品を冷凍便で配送し、開封後も冷蔵保管を推奨する。
「カキモトアームズ」“ヒト幹細胞上清液・エクソソーム頭皮スパ”は新規予約が2カ月先まで埋まる好調ぶり
エクソソーム人気は、ヘアサロンでも広がっている。「カキモトアームズ(KAKIMOTO ARMS)」は、“ヒト幹細胞上清液・エクソソーム頭皮スパ”(約75分、ブロー料金込、3万3000円/AZABUDAI HILLS店3万6000円)を展開する。同メニューでは、日本初の美容皮膚科と言われる石井クリニックが9月24日に発売する「イシイクリニックビューティラボ(ISHII CLINIC BEAUTY LAB.)」“ヒト幹細胞上清FD(美容液)”(0.5mL×2本、2万4750円)を、エレクトロポレーションで導入する。
村上智美「カキモトアームズ」セラピストチーフは、「エビデンスや品質管理が不透明なものが多いが、『カキモトアームズ』では品質の高いエクソソームにこだわっている。“ヒト幹細胞上清液・エクソソーム頭皮スパ”は、美容感度が高く、メディカルグレードの美容を求める30代から60代前後の顧客に支持されている。麻布台ヒルズ店では、7月末時点で新規予約が2か月先まで埋まっており、目標に対して+30%以上となった」と好調ぶりを明かす。
ヘッドスパに、ヒト幹細胞上清液・エクソソームを取り入れるメリットに関しては、「主に4つある。まず、頭皮のターンオーバーを整え健やかな状態へと導く。次に、肌の真皮層にある繊維芽細胞の活性化が期待でき、頭皮の弾力アップに。3つめは、毛髪の再生をサポートする成分を毛根に届け、発毛や育毛を促す。4つめに、抗炎症、免疫調整作用、血管再生抗炎症により頭皮のトラブルを予防する働きだ。髪のエイジングサインに悩まれていた顧客から、髪質の向上、ボリュームアップ、薄毛改善などを感じられた、とポジティブな感想を多くいただいている」。