ファッション
特集 東コレ2025年春夏

「テルマ」美の協奏 律儀なエレガンスは躍動する

中島輝道デザイナーのウィメンズブランド「テルマ(TELMA)」は2日、2025年春夏コレクションを「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」で披露し、今シーズンの東コレ開幕ショーを飾った。

同ブランドは「RFWT」主催の日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)によるサポートプログラム「JFW ネクスト ブランド アワード2025(JFW NEXT BRAND AWARD 2025)」でのグランプリ受賞のサポートを受け、ブランド初のランウエイショーに挑んだ。中島デザイナーは「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」や「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」で経験を積んだ実力派で、緻密な構造と大胆な色柄使いのバランスに優れたデザイナーだ。一方で、ショーの一瞬だけでは伝わりづらい職人肌な一面もあり、スタイルや世界観作りにおいては未知数でもあった。

冷静さと緊張感と

ショー前の中島デザイナーは、「全然緊張していなくて」と冷静だった。これまでのキャリアでいくつものショーに携わり、数々の土壇場をくぐり抜けてきたからだ。バックステージではアシスタントにアイロンの指示をしたり、モデルに声をかけたり、スタイリングを微調整したりと、準備は万全。しかし、いざリハーサルが始まると、座るシートを右に移動し、さらに右にずれて、もう一度右に移動するなど、明らかに気持ちが高ぶっているようだ。いつもは冷静沈着な語り口も、どこか熱を帯びていた。徐々に高まっていくボルテージは、まるで400人近くを集めたこの日のショーを表しているようでもあった。

今シーズンは、「テルマ」の強みを日本らしい端正なスタイルで表現した。中島デザイナーならではの端正は、主にオリジナル生地と鮮やかなプリント、そして「360度全てを見てほしい」と自信を見せるシルエットで構成する。ファーストルックは、和紙にギマ加工した生地のガーメントケース風コートで、フォームを少しひねって開いた胸から脇にかけてのスリットから、ゴールドのワンピースが輝く。

モデルの動きの個性に合わせて、後身頃を長く仕立てたトップスの裾がなめらかにゆらぎ、オーガンジーのフリルスカートやリボンが軽やかに弾む。正面からは華やかで、横切る際にシルエットのクセに気が付き、後ろ姿に余韻を残す。この連続により、「テルマ」のスタイルと女性像が徐々に浮き上がっていく。

重厚感と軽快さと

そのムードに緩急のリズムを加えたのが、素材を使った視覚効果の数々だ。例えば、ジャージートップスに何層にもコーティングしてムートン調にしたり、デニムをレザー調に加工したり、オーガンジー2枚にオプティカルアートを同時プリントし、モアレのような錯覚を演出するドレスだったり。この遊び心も「服の可能性を信じ、装う楽しさを伝えたい」という「テルマ」のアイデンティティーだろう。

優しい色彩と、重なり合う一枚の布に世界観を与えるのが、中島デザイナーが愛する花のモチーフだ。カモフラージュのようにコートに敷き詰めた花の数々や、アルミホイルで作ったヒマワリのブローチ、配置を緻密に計算したコスモスのペイントが、生地開発の執念と新しいシルエットの探求心、多彩なプリントの高揚感を一つの世界観に美しく調和させる。中島デザイナーのクリエイションは、全方位の美に全力で向き合い、突き詰め、それらを衝突させてスタイルにつなげていく手法だ。軽やかさは、ショーの表現を経て今後さらに身についていくはずだし、「ドリス」とも「イッセイ」とも違う、日本らしい律儀なエレガンスが「テルマ」にはある。

全力感と脱力感と

フィナーレを終え、慣れない囲み取材を終えると、ショー前は落ち着かなかった男が、真っ赤な目と晴れやかな表情で現れた。「チームの力が大きい。人と人が連動しながらブランドをそれぞれに解釈し、一つのものを目指す。そこに生まれるダイナミズムを体感した」と、手応えをつかんだようだ。ショー開催の目的は「表現の幅を広げて、次のフェーズに進むため。パリでの展示会に向けて、成長していきたい」から。現在の卸先は国内のみで、大手百貨店やセレクトを中心に23社約40店舗。海外への本格進出に向けて、全方位の美に全身全霊を捧げる全力男は、大きな一歩を踏み出した。ようやく表情を崩したのは、ショーを中と外からサポートしてくれた家族の話題になったときだった。

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