ファッション
連載 小島健輔リポート

SPAはアパレル流通を効率化したのか? DXによるオンデマンド生産を問う【小島健輔リポート】

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ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回はSPA(製造小売業)の課題を考える。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」など、気がつけば世界のアパレルマーケットを席巻した感のあるSPAだが、成熟化とともに新しい課題が浮上している。現状を詳しく分析し、次の一手を探ってみた。

かつての卸流通からSPA型の直販流通へ、さらにはオンライン軸のD2C流通、顧客と生産を直結するC2M流通へと、アパレル流通は顧客と生産の距離を縮めていったが、必ずしも効率化したとは言えないのが現実だ。さまざまなアパレル流通の実態を検証して効率化への突破口を探ってみた。

流通経路とリードタイムを短縮していったアパレル流通

 過去半世紀のアパレル流通の変化を総括するなら、ブランド事業者が流通経路を短縮して顧客に近づく一方、小売事業者がSPAを志向して生産に近づき流通経路を短縮するという、流通ダイレクト化の歴史と言って差し支えないだろう。その究極は顧客と生産を直結するC2M※1.あるいはF2C※1.だが、マイナーなD2C※2.流通と思われているうちにシーインやティームーなど中国系産直越境ECプラットフォームが世界を席巻して一挙にメジャーとなった。

流通ダイレクト化はさまざまに試みられて来たが、中抜きして経路を縮めても「時間」を縮められないと、リスクと利益が背中合わせの在庫を抱えて売り減らしになるだけで需給ギャップを解消できず、値引きや残品のロスが利益を食い潰し在庫が滞貨する非効率な流通になりがちだった。生産から販売消化まで数カ月から半年以上も要する古典的なオフショア(低コスト海外産地)生産型のSPAは需給ギャップのリスクが付きまとって業績が不安定という欠点があったが、「ザラ」を運営するインディテックスは短サイクル小ロットの近隣国圏ミルクラン生産※3.、セントラルTC※4.を物流ハブとする蒔き切り無補給ディストリビューション、大規模な空輸で「時間」を買って需給ギャップを抑制し、安定した高収益体質を確立している。

インディテックスの場合、ミルクラン生産は単価の高いドレスアイテムに限られ、低価格のカジュアルアイテムはライバルと似たような西アジアや南アジアでのオフショア生産だから、需給ギャップは解消しきれず値引きや残品が発生して在庫回転は4.93回(24年1月期、期初期末平均法)にとどまるが、ファストファッションなのにリードタイムの長い大ロットのオフショア生産に依存するH&Mの2.88回(23年11月期)に比べれば1.7倍速く、「時間効果」が如実に発揮されている。

究極の「時間効果」は、需給ギャップをほぼゼロに抑え込める受注先行の「無在庫タイムマシン商法」に尽きる。越境ECや百貨店のECでは普通に見かける常套手段(受注してから仕入れる「お取り寄せ」)だが、シーインなど中国系産直越境ECプラットフォームではDXを駆使した高速企画、CADCAM連携による小ロット高速生産、サンプル(バーチャル含む)の先行掲載などで受注を先行させ、週サイクルに受注と生産を擦り合わす大規模な無在庫ビジネスが成立している。

C2Mも中国レッドカラー社に発したオンラインCADCAM連携短納期生産(最長1週間)が我が国でも広がり、既製スーツに代わるパターンオーダー市場が広がりつつあるが、採寸接客の人時効率が壁となって単価の高いフルオーダー志向に流れがちなことが市場の拡大を妨げている(8月19日掲載の「紳士スーツ需要は本当に復活しているのか?」参照)。

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