PROFILE: ハンナ・トンプソン / KENSINGTON DIAMONDS代表
ダイヤモンドに特化したブランド「ケンジントン ダイヤモンズ(KENSINGTON DIAMONDS)」は、鑑定書付きのダイヤモンドを幅広くそろえ、適正価格で販売している。最近では、注目を浴びている希少性の高いイエローダイヤモンドも提供。ダイヤモンドは、硬度が最も高く、4C(カラット、カラー、クラリティー、カット)というグレードにより市場の価格相場が決まっているため、投資価値のある宝石として人気が高く、婚約指輪として選ばれる宝石の代表格だ。日本では、婚約指輪のダイヤモンドの大きさは0.3〜0.5カラットだが、アメリカでは、1カラット以上。比較的小さい石の需要が高い日本では、1カラット以上の選択肢は欧米に比べると少ない。「ケンジントン ダイヤモンズ」のハンナ・トンプソン代表が同ブランドを立ち上げた理由はそこにあった。金融業界出身のトンプソン代表に、宝石業界に転向した理由やブランドについて聞いた。
叔母の死をきっかけに考えた自身のキャリア
WWD:「ケンジントン ダイヤモンズ」を立ち上げたきっかけと目的は?
ハンナ・トンプソンKENSINGTON DIAMONDS代表(以下、トンプソン):イギリス人の婚約者が東京で指輪用のダイヤモンドを探していた。大粒になると選択肢がハイブランドか御徒町の宝石業者だけだったため、結局ロンドンで調達。日本にも、ダイヤモンドのミドルマーケットの選択肢があればと思ったのがきっかけだ。香港やインドに視察に行き、本格的にビジネスとしてスタートする決心をした。
WWD:金融業界からダイヤモンド業界へ転向した理由は?
トンプソン:金融業界で仕事をしていたが、モノづくりに興味があった。金融業界は安定した業界だが、親戚と旅行中に叔母が60歳で急死して、ふと当時30歳だった自分のことを考えた。人生が60歳としたら、折り返し地点。今後、人生をどう生きるべきか考えた。そこで、一度きりの人生なので、新しいことにチャレンジしようと思い起業した。
WWD:ダイヤモンドに特化したブランドである理由は?
トンプソン:資産価値があるジュエリーとして自信を持って提案できるものは、ダイヤモンドだけだから。金融で債券の運用をしていたことがあるが、債券は、信用力に応じて第三機関が格付けを行っている。われわれが扱うダイヤモンドは、GIA(米国宝石学会)という独立した第三機関による鑑定書付きで、債権に似ている。ダイヤモンドは一生ものとして選ばれ、世代を超えて引き継げる資産価値のあるものだ。
予算に合わせて選べる親身なコンサルテーション
WWD:ブランドコンセプトは?
トンプソン:デザインはロンドンだが、メード・イン・ジャパン。イギリスは、ロイヤルファミリーでも知られ、クラシックでありながらダイヤモンドを際立たせる洗練されたデザインのノウハウがある。ブランド名のケンジントンはロンドンの高級住宅地名の一つ。ジュエリーの商品名にも、チェルシーやリッチモンド、ナイツブリッジといった地名を付けているのが特徴だ。次の世代にも引き継げる洗練された大粒のダイヤモンドをそろえている。ラウンドブリリアントカットが一般的だが、ファンシーカットの種類も豊富で、センターストーンは9種類から選べる。資産価値の高いイエローダイヤモンドも提供している。
WWD:どのような商品ラインアップか?売れ筋や価格帯は?
トンプソン:ビジネスの6~7割がセミオーダーの婚約指輪。他、ネックレスやピアスなど、既製のダイヤモンドジュエリーをオンラインで50~60型販売している。結婚、婚約指輪としても、ファッションジュエリーとしても楽しめる汎用性の高いエタニティリングが売れ筋。テニスブレスレットも人気で、イエローダイヤモンドへの関心も高まっている。価格帯は、婚約指輪が約0.5カラットで30~40万円、約1カラットで100万円前後。ピアスは10万〜50万円程度、エタニティリングは、17万〜78万円程度。
WWD:ターゲットや顧客層は??
トンプソン:30~60代の女性が中心。ブライダル目的も多いが、節目やご褒美目的の自家需要が多い。ブランドというよりも、ダイヤモンドの本質にこだわる人が多い。外国人や芸能人、ジュエリー業界の顧客もいる。スタッフ全てが女性で、ダイヤモンドに関する資格を持っている。ダイヤモンドは大きい買い物。だから、ダイヤモンドの知識だけでなく、予算を考慮しながら選び方や買い方など親身にコンサルテーションしている。
マージンなしで他社より手に取りやすい価格を実現
WWD:他のジュエラーと違う点と一番の強みは?
トンプソン:強みは、高品質で天然のGIA鑑定書付きダイヤモンドをハイブランドの2分1〜3分の1という適正価格で提供しているという点。業界最大手のデビアス(DE BEERS)のサイトホルダー(ダイヤモンドの原石を買い付ける権利を持つ会社)と契約しているので、予算に合わせて、希望の大きさや品質、カラーダイヤモンドなどを探すことが可能だ。多くの業者が提供するのは買い付けたものだが、われわれは、デビアスのサイトホルダーのシステムと連結しているため、約2万点のダイヤモンドをオンラインで見ながらコンサルテーションできる。品質にこだわり、メレダイヤモンドもカラーはF以上、クラリティーはVS以上、カットはトリプルエクセレントなので、輝きが違う。
WWD:他社より手に取りやすい価格で提案できる理由は?
トンプソン:ダイヤモンドの価値は明瞭。手に取りやすい価格で提供できるのは、中間業社を通していないのでマージンがないから。また、自社ECと表参道の小さなショールームで予約制で販売しているので、広告宣伝費や、店舗スタッフ、家賃などのコストを抑えて適正価格でいいものを届けられる。
WWD:ブランド認知度アップはどのようにして図っているか?競合ブランドは?
トンプソン:マーケティングツールの主軸は、インスタグラム。モデルや芸能人とコラボしてインスタライブの配信を行ったりする。このスタイルのブランドはなく、競合はほぼないと思う。
女性のセルフラブを促進するブランドに
WWD:現在の課題は?
トンプソン:素材価格が高騰する中、どのように適正価格で商品を提供するかが大きな課題。だが、他ブランドも価格改定しているので、別の選択肢として選んでもらえる場合もあると考える。
WWD:今後、強化したい点は?
トンプソン:今までは、大粒のダイヤモンドが中心だったが、エントリー価格帯のだジュエリーを拡充し、若い層にも興味を持ってもらいたい。ファーストダイヤモンドを選んでもらえると嬉しい。ポップアップを継続して開催しつつ、関西にもショールームをオープンしたい。
WWD:ブランドとしてどのように成長させたいか?
トンプソン:ダイヤモンド=ロマンチックなものだとは思わない。結婚だけでなく、女性が昇格や出産などの人生の節目を祝うためのもの。ダイヤモンドを通して、女性が自分で成功を祝うセルフラブを促進するようなブランドにしたい。
WWD:母親業と社長業をどのように両立しているか?
トンプソン:子育て、仕事、家事、全て完璧にこなすのは不可能。家事などは、ヘルパーや宅配などのサービスを活用している。そうすることで時間をつくり、子どもと過ごす時間にしている。英語でワーキングマザーが直面する“MOM GUILT ママ・ギルト(母親の罪悪感)”という言葉がある。長男が生まれたときは罪悪感があったが、娘が生まれてからは、それを捨てることにした。子どもにとって大切なのは笑顔でいられる母親。自分が働く姿を見せるのも教育だと思っている。欧米は子育ての費用が高いが、日本は支援制度が充実しているので優遇されていると思う。