ファッション
特集 サステナブルアパレルの作り方

ミラノ拠点「セッチュウ」のサステナ定義は「もったいない」 欧州規制への冷静な対応も

セッチュウ(SETCHU)」は「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」のグランプリなど数々のアワードで受賞歴を持つ注目のブランドだ。桑田悟史デザイナーは現在、ミラノを拠点に活動をしている。イタリア各地の工場ともつながりを持ち、ラグジュアリーマーケットを開拓している「セッチュウ」は、厳しさを増す欧州のサステナビリティ関連法規制にどう対応しているのだろうか?来日した桑田デザイナーに「セッチュウ」が考えるサステナビリティの定義や実際の取り組み内容について聞いた。

WWD:サステナビリティと言う言葉をどう解釈し、「セッチュウ」での服作りにどう位置づけて取り入れているか?

桑田悟史デザイナー(以下、桑田):サステナビリティをテーマに取材を受けるのはこれが初めて。というのもそれは当然のことであり、アピールするのは違うと思うから。大事なキーワードであり、服作りの最初にくるものだと考えている。環境面、人権面それぞれいろいろな解釈があるから解釈にとらわれず、できることは実行するスタンスだ。

自分がサステナビリティを語るときは「もったいない」と言う言葉を使うことが多い。「もったいない」という発想を持つことで、生地を節約したり、資源を大事にしたりすることができるから。「もったいない」は身の回りのことにできる限りの愛を与えることでもあると思う。江戸時代、日本はサステナビリティの最先端を行っていたが資本主義が進み、環境や人権を置き去りにしたことで崩れ、日本流のサステナビリティは衰退してしまった。「セッチュウ」という、日本の文化をブランド名にした以上、そのイメージを払拭してゆくことも使命だと思う。

WWD:“「もったいない」が衰退している”はどのようなときに感じる?

桑田:身の回りのプラスチックの量ひとつとっても、今の日本の暮らしでは「もったいない」という感覚が明らかに無視されている。プラスチックは必要だけど、そのありがたみ、感謝の念をなくしている。それは日本人のひとりとして恥ずかしいこと。本来日本人は感謝をすることが得意なのに。僕は釣りが趣味で釣りの最中に水面に浮いているプラスチックを見れば悲しくなる。

ヨーロッパの市場では買ったものを紙の袋か、持参した袋に入れてもらうことのが習慣だ。日本では少額のお金を払えばプラスチックの袋がいくらでももらえるなど、その便利さが優先されている。便利を突き詰めるあまり、サステナビリティを突き詰めることをやめてしまったのが今の日本ではないか。資本主義とサステナビリティは真逆にあるので、考える脳の使い分けも難しい。だからこそ僕たちクリエイティブな人間が違う発想でサステナビリティを視野に入れてゆく必要があるとも思う。

WWD:服作りにおいて「もったいない」は具体的にどのように取り入れている?

桑田:もの作りで参考しているのが1940年代の洋服の作りだ。当時は世界大戦があったから、身を守る服を作る技術が短時間で集中的に生み出された。大戦中だから物資不足でメタルなどの資材が使えない。その代わり、縫い方によって強度を求めた。その頃に生まれたミリタリーの服は、その後のワークウェアやユニホームなど大量生産の衣服のベースになっている。そこに見る「どう長持ちさせるか」の工夫はまさにサステナビリティの発想だ。

また人権面では、多くの工場がファッションデザイナーからの “ラストミニッツ”での対応、しかも毎シーズン繰り返される対応に疲れている。「セッチュウ」は決まった型を継続し、生地をアップデートすることで先が見える商品展開を心がけている。工場にすれば労働時間や利益の計算がしやすいし、僕らからすれば品質が向上してゆくから双方にメリットがある。こういった商品展開もサステナビリティにつながると思う。参考になるのは「iPhone」のデザインの考え方だ。

WWD:生地はオリジナルが多く、気に入った生地は継続して使用している。これも同じ考え方?

桑田:そのほうが生地屋さんからすれば生地や糸を無駄にする必要がない。オリジナルで作った分は責任を持って使い切る。だからオーダーは慎重になる。大量オーダーしつつ、実際にはその一部しか使わない大手ブランドがあるのが業界の現実。工場から「〇〇から大量オーダー入ったけど、シーズン余剰が出そうだ」と教えてもらって高級素材を抑えた価格で使用することもある。僕はミラノ拠点が長く、イタリア各地の工場と密なコミュニケーションをしており、彼らは僕が無駄を出さないことに興味があることを知っているから、余剰が出そうなときは声をかけてくれる。

WWD:桑田さんは慎重だけど、決断も早い。

桑田:それは自分の中で決めているルールのひとつ。いろいろなメゾンで経験を積む中で、デザイナーの決断が遅ければ遅いほど周りの人に負担がかかることを知ったから、決断は早くするようにしている。

WWD:環境配慮型素材には、リサイクルポリエステルやオーガニックコットン、技術革新による全く新しい素材などさまざまあるが、特にどこを意識して選んでいる?

桑田:第1に考えるのは品質。価格が同じで品質がそこまで変わらなければよりサステナブルな生地を選ぶようにしている。

欧州の法規制への対応

WWD:欧州、特にフランスを中心にサステナビリティ、循環に関する法規制が厳しくなっている。どのように対応しているか?

桑田:法規制の内容理解はデザインをしていく上で欠かせないので、動きがあるたびにチェックしている。工場との情報交換から得ることが多い。はっきりとした決まりがないケースもあるから「できる限りのことをする」スタンスだ。例えば、納品時に服を入れるパッケージングに関しては、リサイクルプラスチックを採用するのは当然で、加えてジップロックタイプにすることで店で再利用しやすいよう工夫しています。従来品より価格は上がるが、仕方ない。世の中が良くなっていくためには必要なことだと思う。

ただ、規制に全部従う必要があるかと言えば、それは疑問。正直、企業間や国家間のルールメイキングの覇権争い、利害関係に巻き込まれている感は否めない。例えばフランスでは製品に環境的な特性(*編集部注)を表示することが義務付けられているが、100%守られているかと言えばそうではなく、僕らブランド側としてははっきりしてほしい。クリアにしてゆくのは政府の役割でもある。明確でないと湾曲されたルールが生まれるといった困った状況もあるが、僕たちは環境を考えた上で規制以上にできることを行っている。ブランドの在り方、生き方として伝わるから。

*編集部注)環境的特性とは、リサイクル素材の配合とその割合、再生可能資源の使用、耐久性、堆肥化の可能性、修理可能性などを指す

WWD:法規制の中でも特に意識しているものは?

桑田:全般的に常にチェックしている。ひとつあげるとしたら、製品や原料がどこで作られているかを示すトレーサビリティーの義務化だ。意識しているというより、作り手の義務になりつつある。

WWD:コットンであれば農地まで、革製品であればどこの牧場からかを明らかにするのがトレーサビリティーだ。追いかけるのは大変では?

桑田:大変だが、(サプライヤーに対して、原産地に関する)質問をして明確な答えが返ってこなかったら使わない。EUのサプライヤーでもまだ自分たちの原料のトレーサビリティーを把握していないところはあるが、ほぼほぼ皆さん、把握している。レザーに関しては牧場で働く人たちの環境や動物の飼育環境が悪いと分かっている地域のものは使わない。中国産のコットンは(新疆綿のリスクがあるから)避ける。アメリカに輸出できないから。

実は、将来の夢は自分で農業を営むこと。そこで収穫したもので洋服を作ることが究極の夢。畑があり、動物を飼育し、ホテルを付随し、お客様自身もそこで経験をしてもらいながら循環させる。サステナビリティは経験してはじめて見えてくると思うから。資本主義の中で生活しているとサステナビリティは「聞く」だけだから経験ができる場を作りたい。

WWD:イタリアブランド「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」のような発想だ。

桑田:場所はオーストラリアなのかアフリカなのか、僕の場合は釣りができないとダメなので川や海の近くになると思う(笑)。

作る側の責任であり、お客様に求めるのはまだ早い

WWD:サステナビリティの価値をお客さんに伝えるのは、簡単ではない。着る人にもその価値をわかってほしい?

桑田:伝えるのは簡単ではない。今のところそれは、作る側の責任であり、お客さまに求めるのはまだ早いと思う。服はやはり着る人をきれいに見せるためのもの。そこにサステナビリティの付加価値がついたらいい、というスタンスだ。紙デニムのように、結果的に軽さを経験してもらえるような製品が優れていると思う。

僕は「サステナブル」と聞くとすぐ興味を持つ。こだわればこだわるほどアイデアがわき、興味を持つ。だからお客様というより、より多くのデザイナーが関心を持つといいなと思う。求める人が多くなれば変わることも多いと思うから。

WWD:環境配慮型の素材を使うと価格が上がるのでは?一時期は、従来素材の1.3倍から1.5倍と言われていた。

桑田:5年前はそうだったが、生地屋さんも進化し、イタリアでは最近は「多少高い」くらい。「多少」であれば高くても使うようにしている。

WWD:日本では、環境配慮型にこだわると選択肢の幅が狭い、とデザイナーたちがなげいている。

桑田:ミラノウニカなどの生地見本市ではリサイクル繊維などが数多く見られる。ただ、再生することにより水を大量使用しているケースもあるから、認証素材だからといって鵜呑みにはできない。常に疑いの目を持っていないとダメだろう。

PROFILE: 桑田悟史/「セッチュウ」デザイナー

桑田悟史/「セッチュウ」デザイナー
PROFILE: (くわた・さとし)1983年生まれ、京都府出身。高校卒業後にビームスの販売として勤務し、21歳渡英する。セントラル・セント・マーチンズ卒業後はガレス・ピューのアシスタントを経て、カニエ・ウェスト(Ye)のアトリエやリカルド・ティッシ時代の「ジバンシィ」、「イードゥン」でデザイナーとしての経験を積んだ。2020年に「セッチュウ」設立。22年に「フー・イズ・オン・ネクスト?」最優秀賞、23年に「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」のグランプリを受賞 PHOTO:KAZUSHI TOYOTA
WWD:具体的に環境配慮型素材を使った例を教えてほしい。

桑田:冒頭の写真の“紙”デニムは、コットン78%、紙22%。沖縄のキュアラボさんと作ったオリジナル生地。

編集部注)キュアラボ=沖縄拠点の未利用資源を活用した素材開発、製造・販売を行う2021年創業のベンチャー企業。紙デニムの原料は、さとうきびの製糖時に発生する副産物であるバガス。これをキュアラボ独自の技術でパウダー状に加工し原材料とし、国内工場で用途に合わせた紙に加工。紙糸を緯糸に使用し、国内工場にて用途に合わせた様々な生地に加工している。

人類は紀元前からサトウキビを生産・消費してきたけど、その残渣はこれまで飼料用途以外の9割が廃棄されてきた。キュアラボはその課題解決に取り組み、北海道の会社と連携してサトウキビ残渣を原料にした和紙を製造している。そのスタンスに共感した。

WWD:デニムに和紙を入れることで製品としての魅力は?

桑田:このデニムは縦位置にコットンを、横糸に2ミリ程度の薄紙を撚糸した和紙糸を使っている。紙は繊維ではないので、バクテリアがつきにくく、クリーン。そして紙だから着ると驚くほど軽い。そして夏は涼しく、冬は暖かく、機能的だ。今はまだ開発中であり、当初は13~15オンスだったところを試行錯誤で糸を細くしてもらい、現状は16オンスの見た目で11オンス程度まで軽くなった。

WWD:「セッチュウ」と言えば、ユニークなパターンも特徴だ。

桑田:「セッチュウ」のDNAとは、クラシックなものから着想を得て、シンプルで機能的な衣服の創作をすること。サヴィル・ロウでは、生地の最効率化と耐久性の高い衣服の構造を学んだ。このデニムにもエドワーディアン調の要素が入っている。そして僕らは手作業にこだわるのでセルビッチ風のステッチも手仕事だ。

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