ファッションデザイナーが紡ぐ物語を解釈し、世界観を広げるのがヘアメイクの役割だ。今シーズンはウィッグやヘアエクステンションなど、文字通り髪を拡張する手法が多く見られた。しかしあたかも本当の毛のようになじませるのではなく、各ブランド絶妙な違和感を表現する。絵本の世界の住人を描いた「シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)」はあえてフェイクな質感にこだわる。随所に仕込む三つ編みで絶妙なノイズを生み出した「ヴィヴィアーノ(VIVIANO)」、洋服の延長線上のヘアメイクに挑戦した「ユェチ・チ(YUEQI QI)」、3ブランドのバックステージを紹介する。(この記事は「WWDJAPAN」2024年9月16日号からの抜粋です)
VIVIANO
ガーデンで編む三つ編みと
肌に消えるパステルカラー
「ヴィヴィアーノ」のナチュラルながら意志のあるヘアメイクは、デザイナーのヴィヴィアーノ・スー(Viviano Sue)が掲げた“My Garden(私の庭)”を着想に生まれた。ブランドのショーを数シーズン手掛けるヘアスタイリストのASASHIは、コンセプトから庭園で子どもが三つ編みをして遊んでいる光景を想像し、モデルの髪に細く編んだ三つ編みを施した。ショートヘアのモデルには地毛の延長のようなロングのヘアエクステンションを垂らし、ヒッピースタイルを連想させる。どこか抜け感のあるバランスを重視した。「肌に消えるようなパステルカラー」を仕込んだ目元は淡くも強いまなざしに。ベースはコンシーラーやパウダーで整える程度にし、リップは少しくすんだ静かな色みでアイカラーを際立たせる。ブランドのパワフルかつ繊細な印象をメイクでも再現した。
スタッフコメント
ドレスに負けない、しかし作り込み過ぎないさじ加減を大切にした。地毛の“面”と“三つ編み”でコントラストを表現。(ASASHI/ヘアスタイリスト)
個性的なキャラクターが集まる風変わりなティーパーティーをイメージした。1種類のメイクにおさまらずに一人一人異なるものに。(Asami Taguchi/メイクアップ・アーティスト)
SHINYAKOZUKA
絵本の世界を作り上げる
やり過ぎないズレ
小塚信哉デザイナーが制作した絵本「いろをわすれたまち」のリマスター版が着想源となった今コレクションでは、物語の登場人物やモチーフを再現したモデルが登場した。ヘアメイクは小塚デザイナーから細かなイメージが共有された上で始動した。その再現を前提に、服が持つリアルさとファンタジーの要素の強弱、モデルの地毛の色や癖、パーソナリティーも踏まえて仕上げた。絵の具で束やパサついた質感を演出したり、ヘアアイロンを用いて髪を強く巻き上げたりしたウィッグで、各々に合わせた“やり過ぎないズレ”を表現する。肌は絵本の世界を表現すべく、ベースをマットに仕上げた。キャンバスをイメージして膝にもパウダーをのせる。モノクロのシーンでは白いマスカラ、青が象徴的なシーンでは耳から頰にかけて青と白を混ぜ合わせたパウダーを施して、コンセプトを彩る遊び心を表現する。
スタッフコメント
服やモデルのルックス、当日の地毛の癖など全てのバランスからスタイルを決めた。地毛となじませ過ぎない質感やスタイルで絶妙なズレを表現。(MIKIO/ヘアスタイリスト)
不規則にマスキングテープを貼って「中途半端さ」を表現した。コンセプトに沿いながらも舞台メイクにはならないように加減を調整した。(Yoko Minami/メイクアップ・アーティスト)
YUEQI QI
着想源は鍛鉄のフェンスや
ラタン家具、アスレジャー
中国を拠点にする「ユェチ・チ」のコレクションタイトルは“Gilded Speed”。メイクは中国出身のJewelが手掛け、古いヨーロッパの建築に見られる鍛鉄と鉄格子(グリッドアイアン)から着想し、UVジェル製のパーツをモデルの鼻や唇、顎に施した。パーツはカタツムリや弓矢を持つ人などをモチーフに、色のバリエーションを用意。メイクでは赤の使い方にこだわった。赤い頰が印象的な遊牧民をテーマに、モデルの肌に合わせたシェードを選び、頰だけでなく額や鼻にも赤色をのせた。河野富広が担当したヘアは、ストリートの空気感にアジアや原宿の要素、シダ植物が巻きつく様子などをミックスした。得意とするウィッグやヘアエクステンションをふんだんに用い、ベールやリボン、レースなどロマンチックなアクセサリーで飾り付けた。服と髪の境界が曖昧なスタイリングのほか、パーティング(髪のセクション分け)にもこだわり、ハートや三角形など多様なデザインを披露した。