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特集 ミラノ・パリ2025年春夏コレクション

“マルジェラ期”の再解釈で「MM6」に感涙、潔い「マックスマーラ」に拍手も、終盤まさかの大失態 2025年春夏ミラノコレ日記Vol.3

2025年春夏のウィメンズ・コレクションも、ニューヨーク、ロンドンが終わり、いよいよミラノ。朝9時から夜8時まで2人で最大1日17件の取材をしながら、合間合間で原稿を送り合い、コレクション取材のドタバタを日記でお送りします。3日目は展示会やショーのスケジュールが立て込み、グーグルカレンダーはカオスな状態。チームワークで乗り切れるのか⁉︎

木村和花記者(以下、木村):3日目は「マックスマーラ(MAX MARA)」から。白シャツにブラウンのジャケット、1枚で着るシャツドレス、ウエストを細いベルトでマークしてドレスのように羽織るロングコート、知的でクールな名門大学の教授のワードローブをのぞいているような感覚でした。プリントや華美な装飾は一切なし。ワントーンのスタイリングは、素材の質感を変えることで濃淡を出すのみ。クリーンで自信に溢れ強さのある「マックスマーラ」ウーマンたちに朝から背筋が伸びました。

村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):クリエイションに大事なのが「デザイナーの意志」と「生活者のニーズ」だとしたら、多くのブランドはもっと「デザイナーの意志」を重視します。だから、その意思を表現したアイテムやデザインを加えがちです。一方「マックスマーラ」は、「生活者のニーズ」をもっとずっと大事にしています。そこに向かって一直線にボールを放つので、ムダがないし、潔いんだと思うんです。特に今回は、そんな印象が強かったですね。

たった1ルックだけ登場したボーダーを除き、柄にも、色にも頼らず、求められているものを、最高の素材で、緻密に作る。結果生まれる長いロング&リーンのジャケットや、後ろにスリットを刻んだタイトスカート、ハイウエストの位置でベルトマークしたトレンチコートなどは、控えめながら「つまらない」という印象には全く陥らず、素直にずっと見ていられます。他のブランドでも見かけるラップジャケットやスカート、ドレスが気になってきました。

ここからは別行動。私は「トム フォード(TOM FORD)」の展示会です。ピーター・ホーキングス(Peter Hawkings)の退任と、ハイダー・アッカーマン(Haider Ackermann)の就任とニュースが続きましたが、今回は2人の狭間のシーズンゆえデザインチームがクリエイションを担当。流れるような素材を使って快適さを担保しながら、1960〜70年代のグラマラスなムードを描きます。多用したのは、ジャージーやニット。もちろん、そこにはルレックス(金属糸)を配したり、スケスケに編み上げたりと、セクシー全開です。カラーパレットは、シャーベットのようなピンク、ピスタチオ、アイスブルー、ミントグリーンなど。そこにレジメンタルジャケットをスパイスとして加えました。

ジュエラーの「ダミアーニ(DAMIANI)」は、帽子ブランドの「ボルサリーノ(BORSALINO)」とコラボ。「ダミアーニ」の創業100周年プロジェクトの1つです。「ボルサリーノ」のフェルトハットやベースボールキャップのツバや裏側からダイヤモンドなどのネックレスやイヤリングをあしらった一点モノは、3万5000〜9万5000ユーロ。およそ560万〜1520万円です!ジュエリーは取り外して、普通にネックレスやラペルピンとしても使えるそうですよ。

セラピアン(SERAPIAN)」がすごく良かったです。銀座にオープンした旗艦店のウィンドーも手掛けるベネチア人アーティストのロレンツォ・ヴィットゥーリ(Lorenzo Vitturi)によるムラーノガラスのインスタレーションを使った空間には、“シークレット”や“アニ”など、既存のバッグが並びます。でもムラーノガラスのオブジェが透明なガラスと色付きガラスのコンビネーションであるように、「セラピアン」のバッグもバイカラーだったり、一部にガラス刺繍やビーズを取り入れていたり。定番のシーズナルな見せ方と、「顧客は建築家やアートコレクターら総じて自分のテイストが明確で洗練されたものの美学を理解している人たち」と話すマキシム・ボヘ(Maxime Bohe)最高経営責任者(CEO)の描きたい世界が見事に両立しています。雑材含めて複数の素材を織り込んでいるスペシャルピース級のトートも素敵でした。

この間、木村さんはいずこに(笑)?

木村:私は「マックスマーラ」の会場で創業家マラモッティファミリーのマリア・ジュリア・マラモッティ(Maria Giulia Maramotti)氏の取材を終えた後、「フィロソフィ ディ ロレンツォ セラフィニ(PHILOSOPHY DI LORENZO SERAFINI)」のショーへ。会場に集まる来場者を見ていると、イタリア女性から愛されているブランドなんだなと伝わります。冒頭はシフォンのブラウスにゆったりとしたワイドパンツ、足元はフラットサンダルのルックでスタート。パンツから垂れるタッセルは、お花モチーフでかわいいらしい。ワンショルダーやVネックなど、ヘルシーな肌の露出と風をはらんでふんわりと流れる生地は、イタリア人らしいリゾートウエアという感じ。ここでもラップドレスは数多く提案されていました。バカンスで着たくなる、肩の力が抜けたエレガントなリアルクローズでした。と言いつつ、日本人にはあんまりバカンスなんてないんですけれど(苦笑)。

木村:要さんとは「アンテプリマ(ANTEPRIMA)」で合流でしたね。先日「アンテプリマ」のアンソニー・キョン(Anthony Keung)=アンテプリマリミテッドCEOに取材させていただきました。同社はこれから、日本でもアパレルコレクションの販売を再開します。今爆発的に流行しているワイヤーバッグは、やっぱりアパレルに比べたらリピート率は低め。アパレルをしっかりと売っていくことが同社の次なる挑戦です。意識しているのは、ワイヤーバッグで掴んだ20〜30代の新規顧客たちの心を再びどうキャッチするか?ワイヤーバッグを探しに来た若年層が、自然と服にも手が伸びるような動線が理想です。その意味でも今回のワイヤーバッグをアクセサリーのように用いたルックは、自然と「アンテプリマ」のコーディネートが欲しくなる、いい提案になる気がしました。

バックステージで、荻野いづみクリエイティブ・ディレクターにご挨拶。すると、今回タッグを組んだアーティストの田島美加さんに盛大な拍手を送っていらっしゃいました。荻野さんに「アパレルをデザインするときに、これからリーチする若年層を意識していますか?」と聞くと、「ワイヤーバッグをたくさんの若い人たちが気に入ってくれたのはとっても喜ばしいことだけど、コレクションではその方達に向けてというよりも、みんなが自由に、好きなように着こなしてほしいの」とコメント。そして今回のコレクションが実現できたのはとにかく田嶋さんの功績が大きいと。ライフワークとして芸術家のサポートに取り組む荻野さんのお人柄が見えました。「私はファッションとアートをつなぐフレームになりたいの」と話していました。

村上:得意のニットを、まるでオーガンジーのようにレイヤードに欠かせない素材として活用していましたね。ピュアホワイトからパープルまで、さまざまな色のハイゲージニットやオーガンジーのアイテムがあったけれど、きっと自由に組み合わせてもスタイルはもちろん、色まで素敵なんだと思います。その色合わせの妙を担ったのが、田嶋さんなのかな?今シーズン一番のミラノのトレンドを、ブランドらしく表現した好例でした。

お次の「プラダ(PRADA)」については、木村さんのレビューを読んでもらえればですが、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Rag Simons)の気合いというか、自信を非常に感じるコレクションでした。まず、メンズのセットを改修ではなく、根本的に作り変えたことからは気合いが伺えるし、いつも以上に個性的なモデルからも「いつもとは違うんだよー」という強いメッセージを発信していましたね。

とはいえ、よくよく考えれば「プラダ」ならではのベーシックを今っぽく見せるというスタンスは何も変わってなくて、ブレない強さも感じました。このスタイルが流行るか?は未知数だけれど、考え方は広がっていきそうです。

そして私は、「エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 MAISON MARGIELA)」のコレクションへ。

オーバーペイントのデニムやエイズTなど、いわゆる“マルジェラ期”の「メゾン マルタン マルジェラ」を知っている人なら、感涙モンのアイテムが登場です。「ドクターマーチン(DR.MARTENS)」のエンジニアブーツも真っ白にペイント。きっとデニム同様、ポロポロと剥がれ落ちていって、「マルジェラ」らしい経年変化を表現するのでしょう。最近、「MM6」は、“マルジェラ期”の「マルジェラ」(←って言いたいヤツw)にインスピレーションを得るケースが多いですね。ジョン・ガリアーノ(John Galliano)のクリエイションとは異なるアプローチだから、むしろアリかもって思います。

もう一つの特徴は、酷暑対策。他のブランドでは、とにかくオーガンジーを重ねたヘルシーな肌見せが多いけれど、 「MM6」の場合は、ノースリーブのトレンチコートとか、ジレ単体のスタイリング、ボロボロで風通しまくりのデニム、乳首が見えるくらいVゾーンの大きなリブニットなどの潔い単品コーデ。ノースリーブのサファリジャケット単品のスタイリングは無骨で、これもまた「マルジェラ」な世界観です。

そのあとは、「ジル サンダー(JIL SANDER)」の展示会を経て、「ファビアナ フィリッピ(FABIANA FILIPPI)」へ。手作業のぬくもりを大事にしていたブランドからモードに移行し過ぎてしまい、価格の高騰も重なり、ファンには混乱した方もいるようですね。それをやり切るか?改善するか?は判断が難しいところですが、「ファビアナ フィリッピ」は後者を選んだよう。とはいえ展示会ではまだまだモードなスタイルも多く、打ち出し方には若干の迷いが見え隠れします。

夕暮れのビーチ沿いを散歩するなら「ホーガン」で

木村:「ファビアナ フィリッピ」の後は、再び手分け。私は展示会周りです。「ホーガン(HOGAN)」の展示会場前に人だかり。「何事⁈」と思ったら、中国人セレブの檀健次の来場を待つファンたちで溢れ返っていました。ファンの愛情にあっぱれです。でもそれを抜きにしても会場は、大にぎわい。大同窓会みたいになってました。

コレクションは、イタリアのリビエラを着想源にビーチ沿いを歩くのにぴったりなシューズのラインアップでした。ビーチになじむあせたブルーのバレエシューズや、1986年に流行ったスニーカーの復刻も。真っ赤なスニーカーは、浜辺に埋もれている「コカ・コーラ」の缶をイメージしているそう。ファッションでも今季はレトロなムードが台頭していますが、「ホーガン」もどこか懐かしく、センチメンタルなムードがあります。夕暮れのどきのビーチ沿いを散歩する、そんなシーンに履きたいかも。

村上:私は、「モスキーノ(MOSCHINO)」へ。アードリアン・アピオラッザ(Adrian Appiolaza)がクリエイティブ・ディレクターに就任以降、リアルクローズの度合いを増しています。前任のジェレミー・スコット(Jeremy Scott)はコマーシャルピースのデザインに関心がなかったというから、ビジネスの体制は整いつつあるのかな。でも日本には今、売り場がないんです(悲)。
天井にはロープが貼られて洗濯物が並ぶ会場で発表したのは、まさに、洗濯機から取り出したような(⁉︎)アイテム。例えばファーストルックは、洗ったシーツを肩にかけて端っこ同士を結んだようなドレス。その後も洗剤のロゴを模したデザインをのせたセットアップや、縮んじゃったり伸びちゃったりのタンクトップのレイヤード、シューレースが絡まっちゃったドレスなど、相変わらずファニーな、でも「着られるかも、いや、着たいかも」なアイテムが続きます。スマイルマークにテンガロンハット、水玉のモチーフなど、創業者フランコ・モスキーノ(Franco Moschino)へのオマージュも忘れていません。

「アスファルトに咲く花になれ」
“ブラットグリーン“に染まった「GCDS」

木村:私が次に向かったのはイタリアの若者たちに人気の「GCDS」。会場には、今流行りの“ブラット・グリーン“を思わせる芝生が敷き詰められていました。予想通り、今回のコレクションのスタイルアイコンになったのは“ブラット“ムーブメントを生み出した歌手チャーリー・XCX(Charli XCX)のよう。“ブラット“現象について詳しくは下記の記事をご参照ください。

ショーは、チャーリーが「GCDS」のために制作したという曲をBGMに、鮮やかな“ブラット・グリーン“のルックでスタート。コレクションはとにかく超セクシー。深いVネックをこれでもか、というほど連発しました。イエローやオレンジといったエネルギッシュなカラーパレットのボディースーツやタイツ、キティーちゃんやバツマル君モチーフのキャッチーなブラを見せて着るミニドレスなど、肌は見せるか透けさせるかの2択が中心です。

クリエイティブ・ディいレクターのジュリアーノ・カルツァ(Giuliano Calza)は、今季のコレクションを「FLOWERS OF THE CONCRETE(コンクリートに咲く花)」と題しました。芝生の上を歩く“ブラット“なモデルたちを花に例えたのだと理解しました。「どんなに険しい現実でも、自分らしく着飾るんだ。周りの目なんか気にするな」。そんなメッセージが込められているよう。ショーが終わると「GCDS」の怖いもの知らずなアティチュードに来場者は大興奮の様子でした。

もはや攻撃的にも感じるパンチのあるコレクションは、若者たちのフラストレーションを代弁しているようにも感じます。会場の証券取引所正面には、中指を立てた巨大なパブリックアートの像があります。ショーを終えて会場を出た時、「あぁ、この像があるからこの場所にしたのね」と納得しました。

村上:その頃、私はほぼ1時間遅れの「モスキーノ」の会場がめちゃ遠く、「GCDS」は早々に諦めムード。木村さんに託し、一旦中心地に戻ってからタクシーで「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」に向かいましたが、今度は大渋滞で車が動かず!「GCDS」ショーもスキップしたのに、「エンポリオ アルマーニ」にさえ間に合わない可能性が浮上して焦り出しました。なにせ「GCDS」と「エンポリオ アルマーニ」は客層が違いすぎて、そんなに待ってくれなかった気配があったんです。

とはいえ、25分遅れくらいでショー会場に辿り着きましたが、案の定、宍戸城、オダギリジョーで、「エンポリオ アルマーニ」のショーはスタート(泣)。入り口には、間に合わなかったゲストまぁまぁ大勢です。互いを慰め合いながら、この日は終了。明日は、遅刻しないよう頑張ります!って思ってるけど、ミラノ市内ゼネストらしい。一体、どーなるのかな⁉︎

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