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連載 小島健輔リポート

ユニクロは「ライフウエア」のグローバル寡占ブランドになる【小島健輔リポート】

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ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回はユニクロについて深掘りする。世界市場での存在感を増し、ライバルである「ザラ」や「H&M」を猛追する勢いだ。その強さの秘密はどこにあるのか。MDを検証してみた。

2024-25年秋冬の「ユニクロ:シー」と「ユニクロ ユー」のコレクションが店頭に並んでベーシックラインの「ユニクロ」とも違和感なく調和するさまを見て、「ユニクロ」は本当にグローバルブランドに進化したのだと実感させられる。「ザラ」のドレスアイテムの「完成度」を除けば、他のグローバルブランドも国内のライバルSPAも製品の「完成度」と「顧客カバー率」いう根本的なところで完膚なく引き離されたのではないか。

洗練の汎用単品グローバルブランドヘ

クレア・ワイト・ケラー氏が「ユニクロ:シー」のみならず「ユニクロ」総体のクリエイティブデイレクターに起用されたせいか、少なくともカラーパレットは「ユニクロ:シー」も「ユニクロ ユー」も「ユニクロ」もシックなヨーロピアントーンに集約され、売り場で見ても違和感のないワンコンセプトにまとまって見える。小型のブランドショップならともかく標準店で300坪、大型店は1000坪を超えるスケールでこれほど統一感が出せるのは脅威と言って良いだろう。VMD効果というより各々の商品企画にグローバルなナチュラルモード感覚が通底しているゆえで、クレア・ワイト・ケラー氏の起用は大正解だったのではないか。

かつての「ユニクロ」はアメカジ系グローバルNB(ナショナルブランド)の残滓を引きずって洗練を欠くトーン・イン・トーンなカラー展開のイメージがあったが、今秋冬のコレクションは「ユニクロ:シー」で平均3.05色(メンズ3.17色、ウイメンズ3.00色)、「ユニクロ ユー」も平均3.03色(メンズ3.18色、ウイメンズ2.87色)とシックなパレットに絞り込まれている。男女ともカバーする企画が多くMD展開が大きい「ユニクロ」メンズもアウターやボトムは2〜5色、ニットやスエットも大半は2〜6色のベーシックカラーに集約されており、柄物や素材によっては1色企画も見られる。

カラー展開が目立つのはカシミヤ・クルーネックセーターの21色、ラムウール・クルーネックセーターの13色、メリノウール・クルーネックセーターの10色ぐらいで、同じ素材でもVネックセーターやカーディガンは3〜4色のベーシックカラーに絞られている。21色、13色と言ってもアメカジ的なレインボー展開ではなく、デリケートに階調が設計されたニュアンスカラーでそろえられている。

カラーパレットは「ザラ」と大差ないシックなナチュラルモードに見えるが、ニュアンスカラーのバリエーションが豊富な分、コーディネイトのトーン(明彩度)の厚み(立体感)は「ザラ」を上回る。「ザラ」は1〜4色(大半が2色)に絞り込むためニュアンスカラーによるトーンの厚みを出せないが、どのアイテムもニュアンスカラーのバリエーションがそろう「ユニクロ」は単品コーディネイト、とりわけレイヤードでトーンの立体感を出すことができる。その魅力がECサイトや店頭のスタイリングに表現しきれていないのは残念だが、デザインチームのカラーパレット設計(素材による発色の差も含め)は秀逸だと思う。

後述するように「ユニクロ」のサイズ展開は在庫効率を無視するかのごとくカバーレンジが広く(障壁戦略です)、数々のクリエイターとの協業を重ねてパターンとグレーディングも次第に洗練され、ボディコンシャスなフィットからストリートなゆるレイヤードまでさまざまなスタイリングが組める「汎用パーツ」に進化している。店頭のスタイリングは時代ズレしたマッチョなマネキンも災いして洗練には遠いが、デザイン的にもスペック的にも色・サイズのMD展開的にも「ユニクロ」ほど汎用性(同時に創造性でもある)のある単品衣料パーツは古今東西に存在しない。長年のスペック開発の積み上げにクレア・ワイト・ケラー氏のディレクションも加わり、「ユニクロ」はグローバルブランドとして揺るぎなきポジションを確立したのではないか。

「製品としての完成度とお値打ち」「着回し着崩しの柔軟性」の相剋

私は1990年代末から2000年代初期にいくつかの「ユニクロ症候群プロジェクト」(「ユニクロ」を真似たり対抗する業態開発)にMD設計で関わったが、どのプロジェクトも2つの点で「ユニクロ」に歯が立たず、短期で壁にあたった。1つは個々の商品の「生産仕様」開発で、「製品としての完成度とお値打ち」「着回し着崩しの柔軟性」の相剋、もう1つは色・サイズのバリエーション展開による「顧客カバー率」と在庫回転の相剋だった。

汎用性の単品衣料パーツは「製品としての完成度とお値打ち」「着回し着崩しの柔軟性」という相反する要件を満たす必要があるが、それには素材の物性や機能はもちろん、パターンやグレーディング(パターンの各サイズ対応)、仔細な縫製仕様の開発が不可欠だ。にもかかわらず、小売業の商品開発はバイヤー・MDのマーケティング感覚と品ぞろえ構成力に依存するだけで「生産仕様」開発力を欠いていた。

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