中国政府は9月24日、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」と「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」を擁するPVHコープ(PVH CORP以下、PVH)が新疆ウイグル自治区で生産されたコットンを“不当にボイコット”している疑いがあるとして、調査を開始すると発表した。
中国商務省は、調査の一環として、PVHは新疆綿に関して“通常の市場原理の法則”を侵害していないことを証明するべく、30日以内に資料と書面での回答を提出する必要があると声明を発表。PVHに落ち度があると判断された場合、同社は2019年に定められた“信頼できない事業体のリスト”に追加され、中国との取引が禁止となる恐れがある。
PVHの広報担当者は本件に関し、「会社の方針として、当社は事業を展開している全ての国や地域における全ての規制や法律を厳格に順守している。すでに中国商務省と連絡を取っており、関連する規制に則って対応する」とコメントした。
新疆綿を巡っての騒動や混乱
20年6月、中国による少数民族ウイグル人への強制労働問題などが報じられたことから、同年8〜9月にはH&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ以下、H&M)をはじめ、「ナイキ(NIKE)」「アディダス(ADIDAS)」「パタゴニア(PATAGONIA)」など多くの企業やブランドが、新疆ウイグル自治区に工場を持つ中国企業との取引停止や、同自治区で生産された綿花の調達の中止を発表した。
しかし、21年3月24日に中国共産党の青年組織である中国共産主義青年団が、中国版ツイッターのウェイボー(Weibo)に「新疆綿について虚偽のうわさを流してボイコットしておきながら、中国で儲けようだって?それは甘い考えだ」とH&Mの声明とともに投稿したことがきっかけとなり、中国側からの批判が激化。中国の大手ECサイトなどから「H&M」の商品が消え、モバイルアプリも中国の大手アプリストアから削除された。こうした動きを受け、同社は同31日に「中国での信頼回復に尽力する」との声明を発表したものの、中国でのECが復活したのは22年8月とおよそ16カ月後のことだった。
なお、米国は22年6月に、ウイグル自治区が関与する製品の輸入を原則禁止する「ウイグル強制労働防止法(Uyghur Forced Labor Prevention Act以下、UFLPA)」を施行しているが、PVHはそれ以前の21年に同自治区からの調達を中止している。
中国政府の「直接的かつ強制的」な関与に懸念
デラウェア大学(University of Delaware)でファッションやアパレルに関する研究をしているシェン・ルー(Sheng Lu)教授によれば、H&Mが巻き込まれた騒動は背後で中国政府が糸を引いていたことは明白だとしても、表向きは中国共産主義青年団の投稿がきっかけとなっていたのに対し、今回は中国政府が「直接的かつ強制的」に関与していることが懸念点だという。「新疆綿を巡り、中国がアパレル企業に対して規制を持ち出し直接的なアクションを起こしたのは今回が初めてであり、明らかにエスカレートしている」。
同氏はまた、「ザラ(ZARA)」などを擁するインディテックス(INDITEX)やH&M、ナイキ、リーバイ・ストラウス(LEVI STRAUSS)など、中国市場でより高い業績を上げている外資系企業も多い中、PVHを対象とした理由は「恣意的で不透明だ」と話す。「UFLPAが施行されている以上、米国企業が新疆綿に対する姿勢を変えることは難しい。それを踏まえると、今回の件により、中国市場での調達やオペレーションに関してさらなる“リスク回避”へと動く可能性も否めない」と分析した。