それがたとえ現代のライフスタイルに即していないとしても、創業デザイナー、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)の美学を継承することで、女性の自尊心や自信、自立心を増幅しながら確固たるポジションを築こうとしている「サンローラン(SAINT LAURENT)」は、今季も創業デザイナーが生み出したアイコニックなスタイルを現代に蘇らせた。イヴニングドレスに匹敵する、もしくは代わるくらいエレガントなスーツだ。イヴ・サンローランは、女性がパンツを履くことにさえ偏見が残っていた1966年にスーツを発表。これは、女性がスーツを着るようになった1つの転機とさえ言われている。
今季のウィメンズスーツは、メンズのそれよりはるかに強くて、逞しい。肩幅は広く、ピークドラペルは大きく、Vゾーンは深く、そしてシルエットはシャープだ。「サンローラン」にとってスーツは欠くことのできない存在で、特にメンズでは当たり前のように登場する普遍的なアイテムではあるが、1年前にベルリンで発表したメンズのスーツよりも大きく、直線的なくらいだ。そして、メンズでさえシフォンのブラウスを合わせていたのに、逆にウィメンズはタイドアップ。無地のシャツにはレジメンタルタイ、ストライプのシャツには水玉など、スーツとシャツ、そしてネクタイに慣れた男性のように、3つボタンのダブルのスーツを自身のものとして自由に楽しんだ。
合わせるのは、センタープリーツのワイドなパンツにつま先の尖ったパンプス。大ぶりのウエリントンのメガネやアビエイターサングラスを掛け、袖を折り返して、創業デザイナーの生まれ故郷モロッコで手に入れたかのようなエキゾチックなブレスレットを重ねづけした。時にはMA-1やレザーブルゾン、ショールカラーのチェスターコートやレザーのトレンチなど、さらに男勝りなアウターを羽織ってキメる。これがリアルかどうか?は別の話だが、とにかく、圧倒的にかっこいい。時折、カフタンのようなドレスにレザーブルゾンなどのスタイルが箸休めのように現れるが、とにかく中盤まではスーツスタイルの連打で、女性のスーツと言えば「サンローラン」という印象がおよそ60年を経た現在に再度現れた。
終盤は、錦織のように豪華なブロケード生地をノーカラーでクロップド丈のジャケットに仕上げ、プリーツを寄せたシフォンのハイカラーブラウスと、サテンを重ねたミニスカートを合わせ、裾からはレースを覗かせたスタイルにガラリと変えた。カラーパレットは、赤や緑、ブルーなど、いずれも宝石のように深い。大ぶりのゴールドイヤリングとバングルがよく似合う。しかし、今回のハイライトは、やはりスーツ。新社屋のお披露目となったファッションショーでまた1つ、アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)はイヴ・サンローランの伝説を現代に蘇らせた。