「ムーンライト」「ミッドサマー」「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」ほか、設立10年ほどで革新的な映画を次々に送り出し、日本でもファンが急増しているNYの映画会社A24。同社が最大規模の予算を投じて製作した「シビル・ウォー アメリカ最後の日」が、10月4日に劇場公開を迎える。
本作は、アメリカで内戦が勃発し、国内が二分化された「もし」を描いた物語。混乱が日常化した中、4人の戦場カメラマンとジャーナリストは大統領に直撃インタビューをしようとNYから首都ワシントンD.C.にあるホワイトハウスを目指すが――。
AIロボットとの心理戦を描きアカデミー賞に輝いた「エクス・マキナ」や、ワーケーション先での恐怖を強烈な映像表現で魅せた「MEN 同じ顔の男たち」ほか、A24の信頼も厚いアレックス・ガーランド(Alex Garland)監督によるオリジナル作品だ。来日を果たした彼に、舞台裏を聞いた。
映画化に向けて
——ガーランド監督が脚本に着手されたのが2020年と伺っています。本作を拝見した際に「よく映像化できたな」と衝撃を受けましたが、まずは書いてみようという心持ちだったのか、ある程度ゴールが見えた状態で書き始めたのか、どちらでしょう?
アレックス・ガーランド(以下、ガーランド):自分でもよく作れたなと思います。25年ほどこの仕事をしているため、プロセスに関しては今後どう展開していくかは割と読めるようにはなりました。長年組んでいる人々といつも一緒に仕事をしますし、何が可能で何が不可能かは一応把握した上で作っているつもりではあります。「シビル・ウォー」は確かに予算がかかりそうな物語ではあるし、テーマ的にも問題作になるであろうリスクはあったのですが、ある程度予算レベルを押さえておけばA24あたりが手を挙げてくれるだろうと予想しながら書いていきました。もしこれが大手スタジオだったら、絶対にそんなチャンスはなかったと思います。
A24に的を絞りながら、コストをある程度抑えつつもエッジの効いた部分は妥協せずに初稿を書き上げました。そしてA24に声をかけたら、予算も聞かずに即答で「YES」と言ってくれたんです。その後、プリプロダクション(撮影に向けた準備)に入ると予算がどんどんと増えていってしまったのですが、A24は質問も文句もなく「大丈夫」と100%サポートしてくれました。本作のテーマ性を考えると、それは非常に勇気がいることだったと思います。
——本作はロードムービー仕立てになっていて、アメリカ国内の現在の情勢や政治・地理について予備知識がなくてもスッと入り込めます。このアプローチは発明だと感じました。
ガーランド:ありがとうございます。私が意識していたことは「こういうテーマだからさまざまな怒りを買うに違いない、それを防ぎつつ、多くの人々が本質に対峙してくれるためにはどうしたらいいか」でした。そのために、裏口から入ってきてテーマを語るような手法を取っています。それが「ジャーナリストたちのロードムービー」でした。タイトルこそ「内戦」と直球ではありますが、物語の主軸をジャーナリストたちの旅にして、画面の隅っこで「こういうことを描いているのか」という本題を描けば、皆さん諍(いさか)いを起こすことなく観てくれて対話の種になると考えたのです。
——まんまとその狙いにハマってしまいました。ガーランド監督は、「エクス・マキナ」「アナイアレイション -全滅領域-」「MEN 同じ顔の男たち」と、ある種の異空間に新参者が入り込み、困惑するさまを描いてきたのではないかと思いますが、お好きな作劇なのでしょうか。
ガーランド:私が作る作品には、確かにそうした共通項があるかもしれませんね。ただ、英語で「between a rock and a hard place(八方ふさがり)」というように、にっちもさっちもいかない状況にキャラクターを置くのはドラマそのものの性質のようにも思います。極端な状況にキャラクターを放り込んで「さてどういった行動をとるでしょう」と提示し、観客は「自分ならどうするか」と自身を重ねながら物語を追っていく――この基本に則って、繰り返しやっているような気もします。
大変だったガソリンスタンドの撮影
——なるほど。ちなみに、実際に撮影していく中で実現が大変だった部分などはありましたか?
ガーランド:毎日がロジ的(ロジスティックス。一連の手続きや準備)な悩みばかりでした。皆さん監督業に対して、「俳優の繊細な演技を引き出す」演出が仕事だろうと考えているかと思いますが、それは1%程度でしかありません。全体の85%はロジ的なものに支配されています。例えば会社の経営者が「国内の端から端へ金属のボックスを輸送しなければならない。さてどうしようか」と考えているのと同じです。「シビル・ウォー」でいうと、実は序盤のガソリンスタンドのシーンはかなり難しい部類に入ります。
時間的に半日で撮りきらなければならないのに、スタッフの人手が足りていなくて車止め要員が確保できなくて、撮影中に一般の方がガソリンを入れに来てカメラのフレームに入ってきてしまう――というような事態が発生していました。もちろんテーマがテーマですからそれなりに予算のかかる映画ではありましたが、A24製作映画ですからインディーズのやり方になります。私は日々そうした問題処理に奔走していて、ガソリンスタンドのシーンではスタッフを一人つかまえて「今から10分間カメラを回すからとにかく車を止めてほしい」と指示して急いで現場に戻る――といったことをやっていました。
——そんな手作り感あふれる現場だったとは! 本作は日本でもIMAXを含めたラージフォーマットで上映されますが、撮影段階から想定されていたのでしょうか。
ガーランド:いえ、IMAX上映はサプライズでした。そのような映画だと思わずに撮っていたので、まさかOKになるとは思わずびっくりしました。カメラもIMAX用のものではなく、DJI Roninという小さなカメラを使っています。そこに、「ライカ(LEICA)」の35ミリのスチール用レンズをつけて撮っていました。このレンズを使っている映画はあまりないように思います。
DJI Roninはとても使いやすいカメラでした。スタビライザー(手ブレ防止機能)がついているため自由に動き回ってもスムーズに撮ってくれますし、普通の映画用のカメラだったらドリー用のレールを敷いてそれに合わせて撮るところを、手持ちで走り回ることができました。そういう撮影形式だったのでIMAXのような大画面に耐えうる作品になるとは思っていませんでしたが、どうやらOKだったようです。
そして、安い。私が監督を始めたころのカメラといったら、5万~6万ドルが当たり前でした。でも今回使ったカメラは、そのあたりのお店で6000ドルくらいで買えるものです。今回は照明も使っておらず、映画学校の学生のようにカメラ1台で撮った作品です。
PHOTOS:TAMEKI OSHIRO
■映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」
10月4日からTOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開
キャスト:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニ―
監督/脚本:アレックス・ガーランド
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:CIVIL WAR|2024年|アメリカ・イギリス映画|109分|PG12 公式
https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/
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