ファッション
連載 ロサンゼルスで活躍するクリエイターの秘密 第4回

大谷やキャメロン・ディアスを撮影する写真家、俵山忠 雑誌編集からビルボードを飾るまでの道

PROFILE: 俵山忠/フォトグラファー

俵山忠/フォトグラファー
PROFILE: (たわらやま・ただし)1977年6月3日生まれ、東京都葛飾区出身。雑誌編集を経て2000年に渡米後、現地コーディネーターを務めながら独学で写真を学ぶ。01年からロサンゼルス・サンタモニカを拠点にフリーランスフォトグラファーとして活動。以降、雑誌や企業広告を中心に多くの撮影を手掛ける。13年にクリエイティブチーム、セブンブロス ピクチャーズ(SEVEN BROS. PICTURES)を設立し代表を務める

レッドカーペットやハリウッド、映画や音楽、ファッションの煌びやかな世界と大自然が共存する大都市ロサンゼルス。世界のエンターテイメントの発信地であるこの地へ、日本からさまざまなクリエイターが移住している。ロサンゼルスに移住して3年、スタイリスト歴23年の水嶋和恵が、ロサンゼルスで活躍する日本人クリエイターに成功の秘訣をインタビュー。多様な生き方を知り、人生やビジネスのヒントを探る。第4回は大谷翔平選手やキャメロン・ディアス(Cameron Diaz)の撮影も手掛けるフォトグラファー、俵山忠に恩師と語る人物や半生を聞いた。

水嶋和恵(以下、水嶋):フォトグラファーとして、移住先にロサンゼルスを選んだ理由を教えてください。

俵山忠(以下、俵山):ロサンゼルスの空が好きだからですね。この空の下で撮る写真は、全ての被写体の発色が鮮やかで他の場所で撮る写真とは空気感が違うんです。そこに魅了されています。ニューヨークも好きですが、住むのはロサンゼルスが良いですね。

幼少期はアドベンチャー系の映画を観るのが好きでした。特に映画「グーニーズ(The Goonies)」の世界観に強く引かれ、撮影場所や舞台も知らなかったのですが、海岸がある街での学生たちの姿を観て、子ども心にアメリカのライフスタイルに憧れました。当時西海岸には親戚や先輩が住んでいたこともあり、16〜18歳の2年間ロサンゼルスに留学し、高校を卒業しました。その後帰国して就職した先が、タレントの所ジョージさんの事務所、ティ・ヴィクラブでした。スケーターをはじめとするサブカルチャーに憧れがあり、世田谷の事務所にスケボーで通っていましたね。所さんは当時、日本で西海岸のカルチャーに一番近い存在だったと思います。そんな彼のライフスタイルを間近で見ながら、彼の元で雑誌「ライトニング(Lightning)」の編集者として社会経験をし、後には西海岸へ移住して仕事をしたいと思うようになっていきました。

その後、枻出版社へ移籍し、米国に住み仕事のできるビザをサポートしてもらい、2000年22歳の時にロサンゼルスに移住しました。振り返ると、人との繋がりの先に米国移住があったという感じですね。フィルム写真、スケート、音楽、そしてバイク、自分の中の「海外のカッコいい」を感じられる全てがLAにはそろっていたのです。

水嶋:時期は異なりますが、私は所さんのスタイリングを担当していたので、今こうして俵山さんとロサンゼルスでご一緒することに縁を感じます。人生のターニングポイントはいつでしたか?

俵山:人との出会いや経験、全てが人生のターニングポイントだった気がします。やってみたいことはすぐに行動に移すので、僕の人生はターニングポイントだらけですね。フォトグラファーとしての転機は、25歳の時に雑誌「ライトニング」の表紙を撮影したとき、そして32歳で自分の作品がビルボードデビューしたときです。

編集時代の先輩がのちに「ライトニング」編集長に就任し、僕の米国移住の際に写真撮影に必要なものを一式プレゼントしてくれ、後にロサンゼルスでのイベント撮影の仕事を依頼してくださいました。その際、編集としてだけではなく、いただいたフィルムカメラでカメラマンとしても稼働したんです。ロサンゼルスでの初めての仕事が表紙に採用されました。書店に並ぶ雑誌を見て、この仕事を続けていきたいと思ったのを今でも覚えています。ロサンゼルスには日本から有能なカメラマンが大勢撮影に訪れます。現地で彼らのアシスタントをする機会も多く、人と環境に恵まれていましたね。

ビルボードに自分の作品が掲載された時も同様です。日本から写真界の巨匠ケイ・オガタさんをお招きし、女優のキャメロン・ディアスさんを起用したソフトバンクの広告撮影でした。3日間に及ぶ大規模な撮影の中、3日目に多忙なスケジュールで動いていたケイさんは次の海外の現場へ、僕はその撮影でスナップ写真を任されました。1、2日目でケイさんが担当していたメインスチールの撮影は終了しており、僕はCM撮影隊の邪魔にならないよう、そしてスチールチームの役に立てるように、大きな脚立を持参し必死にシャッターを切っていました。

後日プロダクションから連絡があり、思いもよらない事を告げられたんです。「撮った写真がビルボード広告に起用されるかもしれない」と。耳を疑いました。その時は、嬉しいという気持ちの前に、直ぐにケイさんに事実確認をしなくてはという、焦りの気持ちが先立ちました。しかし僕の心配をよそに、ケイさんは「嬉しいねぇ〜、君が撮った写真が素晴らしかったからだね」と、おっしゃられたんです。

その言葉を聞いた瞬間、僕はこんなに寛大な方とお仕事をご一緒させていただけていたのか!と鳥肌が立ちました。このとき、心の底からケイさんみたいなカメラマンになりたい!と思い、今でも唯一の師匠と尊敬しています。こうしてビルボードデビューを果たし、カメラマンとしてのキャリアのターニングポイントになりました。

水嶋:素晴らしい人格者ですね。エピソードから、俵山さんが出会ってきた人々の、俵山さんを信じる気持ちの強さを感じます。この連載でロサンゼルスで活躍する日本人の方々にインタビューしていますが、みなさん共通して人とのつながりが大きな影響を与えています。

俵山:振り返ると妻との出会いがあった34歳も大きなターニングポイントでしたし、僕が掲載写真のディレクションを務める「クラッチ・マガジン(CLUTCH magazine)」創刊時は、メンズ読者に向けてクラフツマンシップが伝わる色気や味のある写真を掲載し、”クラッチっぽさ”という形容詞が生まれ、フォトグラファーとしての自信もつきました。サンタモニカにスタジオ・オフィスを構えたのもこの頃です。

水嶋:ロサンゼルスでは、現在どのような仕事をされていますか?

俵山:主に広告の撮影を担当しています。先に述べた作品たちが、強く思い出に残っていますが、最近ではドジャースの大谷翔平選手の撮影を担当しました。彼とは度々撮影をご一緒していますが、集中力や洞察力、そして反射能力は素晴らしいです。

アスリートである彼は、常に撮影の場に身を置いているわけではなく、分からないこともあるかと思いますが、現場での集中力が長けていて、求められているものを瞬時に察知します。撮影現場では柔らかな物腰でありながら、周囲が全部見えているのだろうと思わせる動きをされます。

アスリートを撮影することも多いですが、彼らは自身のパフォーマンスの“フィールド”を大事にしていて、そこが現場でご一緒して楽しいと感じる部分です。撮影現場は僕にとっての公式試合のような、フィールド。そこで彼らとセッションするのは、最高に楽しいです。

水嶋:ロサンゼルスで活躍するハードルは高いと思いますか?

俵山:ロサンゼルスに限らず、いつでもどこでも、ハードルが高いと感じるタイプです。日本を離れて、異国の地で活躍するには、英語力やクリエイティブ力が備わってやっと現地のクリエイターと肩を並べることができる。そのプレッシャーは常に感じてきました。だから頑張ろうという気持ちにもなれます。外国人としてハンデはあると思いますが、それも自分のキャラクターだと捉えています。

水嶋:ロサンゼルスでは、どのようなライフスタイルを送っていますか?

俵山:コロナが明けてからロサンゼルス中心部から離れ、パームスプリングスという場所に家族で移住し、ゆったりとした時の流れを楽しんでいます。撮影でロサンゼルス中心部へはもちろん、州外、日本、さまざまな場所を訪れています。パンデミックの中、ロサンゼルスの中心地に住む必要性に変化がありました。移住に関しても、「やってみたい」をすぐに実行しましたね。ここはほどよい規模の街なので、僕が16歳で留学したときに見た人と人のつながりや助け合い、そんな古き良きロサンゼルスのコミュニティのあるべき姿を、ここパームスプリングスで感じることが出来ています。

TEXT:ERI BEVERLY
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