プレタポルテと言えど、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の挑戦は続く。一瞥しただけでは、時に破天荒なストリート。しかしクリエイティブ・ディレクターのデムナ(Demna)は、幼少期まで遡ることもしばしばの洋服へのピュアな想いを糧に、創業者クリストバル・バレンシアガ(Christobal Balenciaga)を源泉とするシルエットを現代のスタイルに落とし込むのみならず、まだ見ぬ洋服の可能性を模索する。今シーズンも、そんな「バレンシアガ」の真骨頂がいかんなく現れた。
ショー会場の中央には、巨大なテーブル。フロントローの観客は今回、巨大なテーブルを囲むよう椅子に座り、その上を歩くモデルたちの姿を見上げた。この演出も、デムナの幼少期の洋服にまつわる思い出に端を発したものという。デムナは、「今から35年以上も前から、私はスケッチをしていた。そして紙をハサミで切り、“最新のコレクション”を家族に発表していたんだ。3、4日に一度はね。今回の演出は、まさに自宅での思い出を再現したもの。振り返ればテーブルの上でのファッションショーが私と洋服を結びつけ、私は洋服との恋に落ちたんだ」と語る。
マキシ&ハイウエストから
クロップド&ローライズに
新たなスタイルの1つは、クロップド丈のボマージャケットに、ローライズのデニムだ。「バレンシアガ」は、時には足元にも迫るほどオーバーサイズのトップスと、ハイウエストパンツというストリートなスタイルの先駆的存在。それが今季は一変して、モデルの下腹部を露わにするほどデニムの股上をギリギリまで下げ、ボマージャケットなどの丈を詰めている。デムナは、「だんだんこれまでのコクーンシルエットが時代遅れに見えてしまい、新たなシルエットの探求に苦しんだ。そこで自分も昔着ていた、ツンツルテンなトップスを思い出し、コクーンシルエットと組み合わせてみたら?と考えたんだ。コクーンシルエットがモダンに進化したと思う」という。クロップド丈のレザーブルゾンやGジャン、ボマージャケットには、ネオプレンを仕込み、肩から腕、首から背中にかけて丸々としたカーブを描くシルエットに仕上げた。
クロップド丈のアウターの一部は、極端なハイネックだった。首はもちろん、頭さえ覆い隠すほどの存在感を放っている。デムナは、ルネサンスの頃から長きにわたり今のイタリアやフランスで栄華を極めたメディチ家に想いを馳せたという。ハイネックは、トスカーナ大公国やフランスでのメディチ家の装い、ハイカラーのシャツや、ケープ、マントのネックラインを参考にしたという。多くのハイネックは、ロング丈のアウターの裾や、そこに取り付けたボトムスを首の後ろで引っ掛けるような構造になっている。
ブルゾンとドレスの2ウェイ
「着ける」トップスが登場
ここから発展させたのが、リバーシブルや丈の長さを変える程度の次元をはるかに超越した2ウェイの洋服だ。例えばメンズのハイネックなレザーブルゾンは、胸元までの身頃を内側に折り込み、袖を結ぶと、コルセットでウエストをシェイプしたビスチエドレスに変化する。ハイネックのステンカラーやトレンチコートも同様だ。
そして終盤には、全く新しい装着方法のトップスが現れた。ブラトップのようなアイテムは、ラップブレスレットなどのように両端が自動で互いに近づく構造を有しており、ボタンやファスナーを使わなくても胸をホールドしてくれる。「着る」のではなく、「着ける」洋服だ。開発には1年以上の時間を要した。このアイテムが他のブランドへと広がっていくか?は未知数だ。しかし、これほど奇想天外な形で、新しい洋服、洋服の新たな可能性を模索し続けるブランドは少ない。