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特集 パリ・コレクション2025年春夏

今季も絶好調の「ロエベ」、“童心“で服作りに挑む「ヨウジヤマモト」 2025年春夏パリコレ日記Vol.4

ニューヨーク、ロンドン、ミラノが終わり、コレクションの舞台は、いよいよパリへ。朝から晩まで取材づくしの怒涛の日々が始まります。公式スケジュールだけでなく、それ以外でも気になるブランドやイベントが多い今季は、取材チーム2人で回りきれるのか?そんなドタバタを日記でお届けします。午前中は東の端にあるヴァンセンヌの森、夜は西の端にあるブローニュの森へ。パリを横断した5日目をどうぞ!

藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員(以下、藪野):今日は、パレ・ド・トーキョーで開催される「レオナール(LEONARD)」のショーから取材スタートです。「レオナール」といえば、やはり柄使いですが、今季は美しい海に面したギリシャが着想源。その風景を想起させるアズールブルーと白のコンビネーションをはじめ、グレカ模様やタイルの柄を取り入れたパターン、1960年代のアーカイブを再解釈したポピー(ケシ)のモチーフが登場しました。スタイルは、60年代風のコンパクトなミニドレスやジャケットとミニスカートのセットアップが目を引き、かなり若々しい印象。そこにパイル地で仕立てたカジュアルなセットアップや風をはらむカフタン、リラックスドレスなどでリゾートウエアの要素をミックスしています。

削ぎ落としながらも飽きさせない「ロエベ」

ショー後は、急いで「ロエベ(LOEWE)」ヘ移動。最近のウィメンズショーはいつもパリの東にあるヴァンセンヌ城で開催するので、めちゃくちゃ時間がかかるのですが、今日は割とスムーズに車が動き一安心です。到着後は、まず会場外の中庭でセレブ取材から。今回はジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が衣装を手掛けた映画「クイア(QUEER)」に出演したダニエル・クレイグ(Daniel Craig)やドリュー・スターキー(Drew Starkey)らも来場していました。日本からは、俳優の清野菜名さん。強風が吹き荒れる中、笑顔でインタビューに応えてくれました。

ショーの詳細は上記のリポートをご覧いただければと思いますが、今回は削ぎ落としたシルエットの中にジョナサンらしい捻りを利かせたアイデアや「ロエベ」のクラフト技術を散りばめたコレクション。軽やかに弾み、裾がヒラヒラと揺れる軽やかなフープドレスがとっても印象的でした。チェロ奏者のピーター・グレッグソン(Peter Gregson)がバッハ(Bach)の「無伴奏チェロ組曲」の再構成した楽曲が流れる中、そんなドレスをまとったモデルが登場するフィナーレを見ていると、思わず涙がこぼれそうになりました。村上さんは、いかがでしたか?

村上要「WWDJAPAN」編集長:「削ぎ落とすからツマラナイ」にはならないんだな、と諭してくれるようなコレクションでしたね。クリノリンのようなフープにごくごく薄いシフォンをのせただけのドレスでしたが、歩くたびにフープはピョンピョンとバウンス。裾はヒラヒラと流れ、何度出てきても、その軽やかな動きを注視してしまい、飽きることがありませんでした。

もう一つの見どころは、新しいバッグの“マドリード“ですね。かしこまりつつも柔らかさを忘れないマルチウエイのバッグは、既存のバッグよりさらに高額、おそらく70万円以上という価格帯になりそうですが、数々のバッグをヒットさせながら、10万円台から予算に合わせたバリエーションを用意することでビジネスを拡大し続けている「ロエベ」だけにどれくらいヒットするのか?を注目しなければ、と思いました。

正直、ゼロからイチというアイデアは決して多くなく、前シーズンまでの提案の発展形も多いのですが、それでも飽きさせない構成力と、自分のアイデアを枯渇させないために“出し惜しむ“決断力がジョナサンの魅力だと思っています。

引き算とエモーショナルな要素に期待したい「イッセイ ミヤケ」

お次は、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」でしたね。創業デザイナーの三宅一生さんが亡くなって以降、正直ちょっと精彩を欠いている印象があります。特に「着たい」と思う美しさやリアリティが薄れ、コンセプチュアルだったり気難しそうだったりのムードが色濃くなっている印象があります。今季は和紙にフォーカス。確かに新しい素材に挑戦するのは「イッセイ ミヤケ」らしいけれど、オーバーサイズのトレンチコートにセットアップのルックは明らかに紙で、これを着たいと思う人がいるかどうか?和紙で洋服を作るのではなく、和紙は混紡することでもっと美しい見た目を追求する選択肢もあったのでは?と思います。和紙を使っているからこそ、折ることで形を追求したクリエイションもありましたが、あれは本当に理想の形だったのかな?

中盤の複数の洋服を重ね合わせた洋服は、それこそ直前にショーを開いた「ロエベ」の2021-22年秋冬メンズ・コレクションを思い出してしまいました。端的に言えば、「イッセイ ミヤケ」に期待する、洋服の新しい形や可能性って、ああいうことじゃないんですよね……。一方、スキッパータイプのシャツドレスに軽やかなトレンチコートやジャケットなどのピュアホワイトのルックは、今季のトレンドにも即しているし、美しかった。しばらくは、変わった素材を使うならシンプルなシルエットなど、引き算を意識して共感性を高めた方が良いのでは?と思っています。

藪野さんは、どう思いますか?

藪野:そうですね。正直、ここ数シーズンはコンセプチュアルになり過ぎてしまっているように感じます。そのせいで、服において大切な“着てみたい“という気持ちを喚起しづらくなっているかなと。近藤さんの就任初期のように、純粋に楽しく、気持ちを明るくしてくれるようなショーが恋しくもあります。もちろん資料を見ると、麻の細かい繊維でできた麻紙や、古くから紙や衣類に使われてきたという大麻の繊維を用いるなど、コンセプトを掘り下げたクリエイションにこだわりを持って取り組んでいることがよく分かるのですが、そこにエモーショナルな要素が再び加わることに期待したいですね。

「カワイイ」を追求して突き抜けた「ロジェ ヴィヴィエ」

村上:ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」が、スゴいことになっていますね。「カワイイ」を追求して、突き抜けた度胸に拍手を送りたいと思います。バックストラップのパンプスは、淡いパステルカラー。ラフィアを編み込んだバレエシューズは、グログランを足に3回巻きつけた上に、大きなリボンを結びます。同じくラフィアを編み込んだバッグは、ボーダーでフレンチマリンの香りを漂わせながら、大きなペプラムをプラス。チアガールのポンポンよろしくビニールテープを花のようにあしらったミュールは、ピンク色です。先ほど「イッセイ ミヤケ」では引き算を求めたのに、「ロジェ ヴィヴィエ」は足し算どころか、掛け算がサイコーでした。お値段はコワいところですが、こんなにクチュールライクでカワイイバッグやシューズは、唯一無二。需要はありそうです。

藪野:「ロジェ ヴィヴィエ」は最近、オートクチュール・ファッション・ウイーク期間中に贅を尽くした一点もののバッグコレクションを発表していますが、実際、それも顧客から好評なんだと思います。それで、メーンのコレクションも凝ったものがますます増えているのかと。

村上:最も若いデザイナーの一人、ハリス・リード(Harris Reed)による「ニナ リッチ(NINA RICCI)」は、回を重ねるごとに大人の階段を一歩ずつ登っています。デビューシーズンの“ぶっ飛んだ“印象はだいぶ薄れましたが、今度は“「ニナ リッチ」らしさ“を明確に定義するステージですね。でも考えてみれば、私も“「ニナ リッチ」らしさ“って、よくわかんないんです。早くから香水が大ブレイクしたせいか、創業者によるオートクチュールやプレタポルテを見る機会が少ないからかもしれません。おそらく、ウエディングのように繊細な生地を使ったドレスなどが原点にあるのでしょうが。その意味では、少しクラシックかもしれないけれど、シフォンの水玉ブラウスやビスチエタイプのミニドレスに光明を見た気がします。ハリス・リードの嗜好ともシンクロするのではないでしょうか?少しクラシックで、ともすれば映画の1シーンに思えるようなスタイルを、快活なミニ丈で仕上げたり、カジュアルなアイテムで着崩す発想が生まれると、今の劇場型なファッションショーも共感しやすくなるのかな?なんて考えました。

「ヴェトモン」が停滞する原因は洋服への向き合い方にあり?

どんどん行きましょう。お次は、「ヴェトモン(VETEMENTS)」。デムナ(Demna)の「バレンシアガ(BALENCIAGA)」が進化を続ける一方、弟のグラム・ヴァザリア(Guram Gvasalia)=ヴェトモン共同創業者兼最高経営責任者(CEO)がクリエイティブ・ディレクターも務めるようになった「ヴェトモン」は停滞している印象がありますが、今シーズンも、そんな懸念は払拭できませんでした。今シーズンは、世界経済の停滞などを危惧して「古きを新しく」を心掛けたそうです。でも、デムナが「DHL」とのコラボTシャツを発表したから、グラムは「DHL」のガムテープを使ったミニドレスって、「古きを新しく」なのかな?以降もあらゆる洋服、特に終盤の肩が張ったドレスなどはデムナ時代の「バレンシアガ」そのもので、「古きを新しく」という感覚を掴み取ることはできませんでした。

グラムは、「ラグジュアリーブランドが財政的にも、創造性においても破綻した未来、人々はDIYにより自分だけの洋服を生み出す。それがラグジュアリーの未来だ」というメッセージを発信したそうですが、批判覚悟で突っ込むと「今回のコレクションこそ、創造性が欠如しているよ!」と怒りを込めて発信したいと思います。

対するデムナの「バレンシアガ」って、洋服への純粋な愛の上に立脚しているんですよね。今シーズンも、自分で紙にデザインを描き、ハサミでチョキチョキして作った洋服を、テーブルをランウエイに見立て、家族に向かってファッションショーをしていた幼少期の思い出が原点にありました。、「ラグジュアリーブランドが財政的にも、創造性においても破綻した未来」を想像する、皮肉屋のグラムとは、そもそも洋服への向き合い方が異なっているのかもしれません。そんな愛の深さが、「ヴェトモン」が「バレンシアガ」に大きく遅れをとってしまった一因に思えて仕方ありません。

「ヨウジヤマモト」は子供のような自由な感覚に着目

藪野:「ヴェトモン」の後は大雨の中、「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」のショーのためにパリ市庁舎へ。今シーズン、耀司さんが取り組んだのは「子どもたちが作るように、服を作ること」。そんな自由な感覚から生まれたアシンメトリーシルエットのドレススタイルがそろいます。その手法は、柔らかなテーラリングを大胆に作り変えたり、異なるテクスチャーの素材をはぎ合わせたり、結んでフォルムを作ったり、抽象的な形の生地パーツをあしらったり、真っ赤なストラップを垂らしたり。6月のメンズでも年々暑くなる夏に堪えるように薄く軽い生地を多用していましたが、今回のウィメンズもそんな生地感に加え、レース使い、生地の間から覗く肌、ミニ丈で軽やかに仕上げているのが印象的でした。黒を中心としたラインアップに対して、ラストには真っ赤なドレス5ルックを披露。ディテールでアクセントを加えながら「ヨウジ」らしい布使いとパターンを生かし、すっきりとしたスタイルを描きました。

今回、ショーで演奏を務めたのは、英国を拠点に活動するピアニストのパヴェル・コレスニコフ(Pavel Kolesnikov)。クラシック音楽から始まったのですが、気づくと弾いていたのは、日本の名曲「なごり雪」や「津軽海峡冬景色」。毎シーズンですが、耀司さんの哀愁漂う懐メロの選曲センスがツボです。この良さが分かるのは、日本人の特権ですね。

西の果てまで行って考えた、ショーピースと販売商品の乖離

その後は、協会バスに乗って、「ヴィクトリア ベッカム(VICTORIA BECKHAM)」のショーへ。今回の会場は、パリの西端ブローニュの森の中にある豪奢な邸宅。街灯が輝くパリの街を通り過ぎ、暗い森の中の道路をぐんぐん進んで、ようやく到着しました。“きっと内装が素敵だから、こんな辺鄙な場所を選んだのだろう“と思っていたら、まさかのショー会場は邸宅の外(笑)。ブランケットは用意されていましたが、寒さが堪えます。

そしてショーが始まると、モデルは邸宅の中から登場しました。かつてNYやロンドンで発表していた頃はキャリアウーマンなイメージのブランドでしたが、2022年に「ロエベ(LOEWE)」や「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」「フェラガモ(FERRAGAMO)」などでキャリアを積んだララ・バリオ(Lara Barrio)をデザイン・ディレクターに迎えてからは、かなりモードな路線に方向転換。今季も生地が濡れたまま固まったように服の一部を樹脂でコーティングしたトップスやドレスをはじめ、片袖とサイドをバッサリとカットしたテーラードジャケットにセンタープレスに沿ってスラッシュを入れたトラウザー、ワイヤーを仕込むことで構築的なシルエットを描くドレスなどが登場しました。ただ、なんだかどこかで見たことがあるようなデザインが多いのも事実で、このスタイルを「ヴィクトリア ベッカム」の顧客が求めているのか疑問に感じました。

そこで公式オンラインストアを見てみると、ランウエイピースはほぼなし。着やすいドレスやテーラリング、ジーンズ、Tシャツ、アクセサリーなどが揃っていました。ランウエイショーは、あくまでクリエイティブなイメージ作りのためということなのでしょう。そして米「WWD」によると、2023年の売上高は前年比52%増の8900万ポンド(約164億円)もあり、成長軌道に乗っているようです。今度ロンドンに行ったら、旗艦店にも行ってみようかと思います。

新作香水のローンチも兼ねたアフターパーティーは邸宅内で行われたようですが、ショー終了時はすでに22時前。周りには車も少なそうだし、近くに電車も走っていないので、急いでウーバーを呼んで帰りました。

プールが会場の「クリスチャン ルブタン」 最後にはルブタン本人もダイブ!

村上:私は最後に「クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)」のプレゼン会場へ。会場はスイミングプール。事前にどうやらシンクロナイズドスイミング(今はアーティスティックスイミング)らしい」という情報は届いておりました。招待状には「きっかり午後9時半スタート」って書いてあったけれど、やっぱり始まらないねぇ(笑)。40分ほど待ってようやく始まったのは、本当にシンクロでした(笑)。男性と女性がプールに飛び込み、「ルブタン」の靴を履きながら開脚旋回!「ルブタン」のレッドソールは見えるけれど、それ以上はよくわかりません(笑)。メンズは白いスニーカー、ウィメンズはカラフルなメタリック加工のパンプスであることはわかったけれど、ルブタンさん、靴見せる気ないんです(笑)。フィナーレには、ご本人まで靴を模した滑り台からプールにダイブ!「何のためのプレゼンよ?」なんて野暮は、御法度です。散々待ってイライラしたけれど、最後はスタンディングオベーションしてしまいました。我ながら、チョロいもんです(苦笑)。

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