ビューティ

花王ヘアケアの逆襲 中高価格帯で「圧倒的ナンバーワン」への周到戦略

花王は、ハイプレミアム(1500円以上の中高価格帯)の新ヘアケアブランド第2弾「ジアンサー(THE ANSWER)」を発表した。今春発売した第1弾の「メルト(MELT)」が販売計画比2.7倍の好調を続ける中、第2の矢として繰り出す「ジアンサー」は、一体どんなブランドなのか。

「メルト」とは打って変わって......!?

10月3日に都内で行われた「ジアンサー」の発表会。会場に映し出されたビジョンを見て、 「そうきたか」と膝を打った(もしくは呆気に取られた)メディア関係者は少なくなかったのではないだろうか。商品と成分名称、そして性能を誇示するレーダーチャートだけが記された、シルバー地のシンプルなパッケージ。“夜間美容”をうたい、リラクシーなムードだった「メルト」とはずいぶん対照的だ。

「ジアンサー」の削ぎ落としたシンプルさは、サイエンスに裏打ちされた性能の高さだけでなく、男性的なイメージさえ想起させる。ただブランドマネジャーの野村聡氏によれば、必ずしも男性の取り込みを意識したものでもなく、「あくまで中身(機能や処方)へのこだわりをストレートに伝えるためのもの」だという。

「ジアンサー」はそのネーミング通り、ヘアケア選びに迷ってきた人たちに向けた“答え”となる商品を目指した。「艶」「まとまり」「滑らかさ」「潤い」「しなやかさ」を備えた“美髪”をかなえる5つの成分として、ラノリン脂肪酸、加水分解ケラチン、リンゴ酸、脂肪酸グリセリドα、そして花王の独自開発成分であるセラミドαを配合した。

ヘアケア商品の開発とは、ただ優れた成分を注ぎ込めばいいモノができる、という単純な話でもない。ラノリン脂肪酸とセラミドαは脂質類。乳化(水と油を融和させるプロセス)が難しく、特にシャンプーにおいては配合が困難な成分だ。「ジアンサー」においては、それらを「ヘアケア研究100年の知見」(花王)により、従来品と比較して12倍量の配合を可能にした。実際に使ってみると、シャンプーのドロっとしたテクスチャーは独特で、髪に十分塗り広げてから泡立てて洗い落とすというプロセスも少々手間がかかるものだが、仕上がりはこれまでとの違いを感じることができる。「体験」の心地よさを少々犠牲にしてでも、「効果実感」を重視した結果だろう。

「メルト」人気のバックボーンに
「研究開発力」と「ユーチューバー」

大企業ならではの資本力、研究力で生み出す独自成分やスケールメリットは、競争優位性を生み出す。それは「メルト」の好調理由の一つとも言える。例えば「ジアンサー」に配合されているラノリン脂肪酸は比較的原価が高く、市販シャンプーやコンディショナーではコストの面から配合するのが難しい成分だが、花王はこれを「メルト」にも取り入れている。

そういった、消費者には伝わりづらい処方や成分の伝道師となるのは美容系ユーチューバーだ。ユーチューバーによる処方の良し悪しの評価は、消費者の購買動向を大きく左右する。事実、「メルト」も「成分に詳しい美容系ユーチューバーによる発信が売り上げが爆発的に伸びるきっかけになった」という。「ジアンサー」では開発段階からユーチューバーの協力を取り付けた。

成熟するハイプレミアム市場
純粋な商品力が成否を分ける

同社はここ数年で市場シェアが縮小傾向にあったヘアケア領域のテコ入れに乗り出している。「メリット(MELIT)」「エッセンシャル(ESSENCIAL)」などを主軸とするマス向け(1000円以下の低価格帯)では依然トップシェアを維持しているが、ハイプレミアムゾーンでも「圧倒的なナンバーワンを狙っていきたい」と見据える。「メルト」は10月から取り扱い店舗を倍以上に拡大する。来年には「ジアンサー」に続く第3弾ブランドを投入する。

男性的とさえ感じられる「ジアンサー」のブランディングは、販路を念頭に置いた周到な戦略だ。「メルト」が主販路とする「マツモトキヨシ」「ココカラファイン」は都市部に強く、顧客は比較的若年層が多く感度やムードを重視する。対して、「ジアンサー」が展開するウエルシアグループは地方に店舗が多く、顧客は「質実剛健」で「実質的な効果効能を求める」傾向があると分析する。第3弾ブランドはまた別の大手ドラッグストア販路を攻めるようだ。販路のニーズに合わせ、商品の機能やブランディングをカスタマイズする入念さからは、花王の本気度がうかがえる。

これまでのハイプレミアム市場は「ボタニスト(BOTANIST)」「ヨル(YOLU)」などを擁するI-neを筆頭に、若く勢いのあるメーカーが中心となり、ユニークな世界観やコンセプトのブランドで引っ張ってきた。ただ市場が成熟し、競合商品の評価、消費者ニーズがある程度定まってきた中では、「純粋な商品力があるブランドだけが生き残れる」と野村氏。ハイプレミアムゾーンでは機を失したかに見えた花王だが、むしろ「機は熟した」とばかりに新ブランドを打ち出し、攻めに転じる。来年には第3弾ブランドのローンチを控えるが、「ジアンサー」ですでに“答え”を提示した花王の次なる一手に注目したい。

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