ファッション

奇抜なスタイルも着こなすアニャ・テイラー=ジョイ 彼女が極める“パーソナル・スタイル”とは

映画のプレミアツアーで着た「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」のミニドレスにはいくつもの矢が刺さり、座れないほどトゲトゲ。カンヌ映画祭には空も飛べそうなくらい大きな「ジャックムス(JACQUEMUS)」のストローハットを選び、深夜のテレビインタビュー出演時には「ミュグレー(MUGLER)」の真っ赤なボンデージドレスを着る――アニャ・テイラー=ジョイ(Anya Taylor Joy)なら、どんな服の着こなしだってお手のもの。

アニャは「ジャガー・ルクルト(JAEGER LECOULTRE)」と「ディオール(DIOR)」のグローバルアンバサダーとしてクラシック・エレガンスをけん引する一方、数多くの大胆なルックを見事に着こなし、ファッションアイコンとしての地位を確立してきた。そして彼女は今、より“自分らしいスタイル”を追求しようとしている。

「子供の頃の自分に、『アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)』のショーについて調べて、その背景にある歴史を知るような人間になるんだと言ったとしても、当時の私はきっと信じないわ」と彼女は言う。

アメリカン・ゴシックに魅了されて

2020年のNetflixのヒット作「クイーンズ・ギャンビット(The Queen's Gambit)」では、1960年代のスタイルで勝ち気なチェスの天才を演じ、ゴールデングローブ賞、SAGアワード(全米映画俳優組合賞)、クリティック・チョイス・アワード(放送映画批評家協会賞)を受賞。ポップカルチャーの殿堂入りを果たした。

ヒロインを演じた22年のコメディ・ホラー映画「ザ・メニュー(The Menu)」では、ニューヨークを拠点とする高級ランジェリーブランド「フルール・デュ・マル(FLEUR DU MAL)」の500ドルのスリップドレスに身を包み、同じく「ジャガー・ルクルト」のブランド・アンバサダーであるニコラス・ホルト(Nicholas Hoult)と共演。その後彼女は「マッドマックス:フュリオサ(Furiosa: A Mad Max Saga)」で主人公である怒りの戦士を演じ、「デューン 砂の惑星 PART2(Dune: Part Two)」にサプライズ登場して世界を震撼させた。

各所に引っ張りだこの躍進ぶりを見せる中、22年にミュージシャンのマルコム・マクレー(Malcolm McRae)と結婚。ニューオーリンズでひっそりと式を挙げ、翌年ヴェニスで家族や友人を招いて祝宴を開いた。

「アメリカン・ゴシックにはとても惹かれるものがある。ストーリーだけでなく、建築物にもね。長い間そこにあって、ちょっとボロボロになっているような――でも本当にロマンチック。そんなところが大好きなの」と、彼女は歴史ある町・ニューオーリンズを結婚式の地として選んだ理由を明かす。

アニャは今でこそ生粋のLAっ子に見えるが、生まれはマイアミで、育ちはブエノスアイレスとロンドン。そんな当時、彼女はファッションの世界とは無縁だった。「兄や姉のお下がりをたくさん着ていたし、いつも外に出て馬に乗ったり、泥だらけになって遊ぶのが大好きだった。映画の仕事をするうちに、本当に好きになったスタイルがある。それは本当にパワーとアイデンティティーを表現しているの」と、ジェーン・オースティン(Jane Austen )の同名の名作を原作にした20年の映画「EMMA エマ(Emma)」の衣装について語る。

「オータム・デ・ワイルド(Autumn de Wilde)監督は、視覚的に細心の注意を払っていた。服はすべて私の体に合うように作られたから、服が作られる間、私は何時間もひたすら立っていたの。そのおかげで、デザイナーのアレクサンドラ・バーン(Alexandra Byrne)と私は本当に親しくなったのよ」。

レッドカーペットのためにドレスを着ることは、キャラクターになりきることでもある。「最初はレッドカーペットに圧倒されないように、自己防衛のために服を着ていたわ」。この夏行われた「フュリオサ」のプレスツアーでは、「リック・オウエンス(RICK OWENS)」や「ロバート・ウン(ROBERT WUN)」の衣装を選び、映画のキャラクターのパワーを現実世界に投影した、戦士にふさわしいルックを着てみせた。

「スタイリストのライアン・ヘイスティングス(Ryan Hastings)とレッドカーペットのルックを完成させるまで、映画の仕事は終わらない気がするの。自分自身と役柄が融合したようなルックに仕上がることでやっと、その作品を手放すことができる」と彼女は言う。

アニャ・テイラー=ジョイのモデル時代

彼女が初めてハイファッションに触れたのは、実はモデルとして活動していた時のことだ。17歳のとき、ロンドンのナイツブリッジにあるデパート、ハロッズ(Harrods)の前で犬の散歩をしていたところ、ストーム・マネージメントの創設者サラ・ドゥーカス(Sarah Doukas)にスカウトされた。アニャは“演技を最優先し、追求し続ける”という条件で、このエージェンシーと契約したのだ。

「いつも現場に行って、全ての服を見ては誰が着るのか見極めるのが大好きだった」と彼女は言い、才能のあるデザイナーや職人と仕事をするだけでなく、好奇心も彼女の糧になったことを明かした。「情熱的な人にとても惹かれる。もしあなたが税金に情熱を持っているなら、私はじっくりと話を聞くわ」とユーモラスに語る。

今や彼女はファッションに魅了され、プレスツアーの衣装のアイデアのために常にランウエイを見たり、4年間一緒に仕事をしているライアンにメールを送ったりもすると言う。「私とライアン、ヘアスタイリストのグレゴリー・ラッセル(Gregory Russell)、メイクアップアーティストのジョージー・アイズデル(Georgie Eisdell)の間では、常にメールが飛び交っているわ。私達はみんなとても仲良し!自分達の映画のキャラクターが何を体現しようとしているのか話し合うの」。

「私がファッションを好きな理由の1つは、ファッションにはファンタジーの要素があるから」。シドニーで開催された「フュリオサ」のプレミアで、「パコ ラバンヌ」の96年春のオートクチュール・ルックを着用したことは大きなミッションだった。「『ランウエイを歩いて以来、誰もこれを着ていない』と言われたの。ゾクゾクしたわ。矢はプラスチックで作られていて、絶対に座ることはできなかった。一番重かったのはヘッドピースで、信じられないような構造。夜が明ける頃には、矢が頭から外れてもいいと思うほどよ」。アニャはヘッドピースが大好きだ。「あまり活用されていなくて、もったいないと思うわ」。

「ディオール」から学んだこと

21年に「ディオール」のグローバル・アンバサダーに任命されて以来、今年のアカデミー賞で着用したガウンの他にも、49年秋コレクションの傑作“ジュノン”と“ヴィーナス”をモダンにアレンジしたドレスを着用。たびたび「ディオール」の衝撃的なルックを披露してきた。

「私は歴史が大好きなので、豊かな歴史を持つブランドで仕事ができることをとても幸運に感じる。『ディオール』のクチュールと香水、両方のアーカイブでかなりの時間を過ごすことができた」と語り、「クリスチャン・ディオール(Christian Dior)本人に関する本もたくさん読んだわ。ニュールックが世界の服の見解にどのような革命をもたらしたか――あのシルエットは本当に新しい時代を象徴していると思う」と続けた。

「ディオール」から得た学びの中で、彼女にとって最大の驚きとは?「私の頭の中では、アトリエのチームはもっと大きいものだと想像していたの。でも実際は、このような素晴らしい服を作っているのはほんの数人。その人達が何時間も費やして作っていることにいつも驚かされる」。

「デューン 砂の惑星 PART2」のロンドン・ワールドプレミアでは、61年のマーク・ボーハン(Marc Bohan)期の「ディオール」にインスパイアされた白いガウンとフードを着用。アフターパーティでは、シアーなフードを脱ぎ、ローカットのマキシドレス姿を披露した。

「このような歴史を持つファミリーと仕事をすることの素晴らしさは、アーカイブを深く掘り下げることができること。そして、“私のキャラクターが誰なのか”“映画の中で彼女はどのような人物なのか”がわかった時、このウエディングドレスを見て即座に『イエス』と答えた。唯一変えたのは下のドレスで、オリジナルは上にリボンがついていた。そして、もう少し肌を見せようと思ったの。スタイリストのライアンと私がお互い『これだ!』って思う瞬間が大好きなの。そして、『ディオール』は私達にそれを体験させてくれたのよ」。

彼女はまた、結婚式で着用したウエディングドレスも「ディオール」に依頼した。ハチドリが花に近づく姿など、繊細に、華麗に刺繍されたドレスは、アニャとマクレーの愛の物語を表現している。

「私達の愛の物語をドレスに刺繍したかったの。小さなスピードボートがあるのは、私の父が若い頃、パワーボートの世界チャンピオンだったから。それに夫の家族のためのコーディネートもあるのよ。私は結婚式の写真をSNSで公開しなつもりだったけど、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)はとても優しく時間をかけて、常に気遣ってくれた。つまり彼女は、ただ愛のもと引き受けてくれたということよ」。

「ジャガー・ルクルト」との関係も、実は個人的なものだ。「ザ・メニュー」の共演者であるホルトから、彼女がこのブランドと「きっとすごく気が合うはず」と勧められたことがきっかけだった。

「ジャガー・ルクルト」と刻む時間

「『ジャガー・ルクルト』の“レベルソ・ウォッチ”が、ポロ競技の槌で時計の文字盤を叩き割られないようにするために考案されたということを知った時は、かなりクレイジーだと感じた」。31年にアール・デコのラインでデビューした“レベルソ・ウォッチ”は、ポロ競技の激しさに耐えられるように作られた。先駆的なリバーシブル・ケースを備え、やがて世界中で知られる時計デザインの1つとなった。

「時計というものは大抵の場合、特に男性にとって“成功の証”であるように感じていた。だから私にとって、この時計はとても特別なものよ」。アニャの時間に対する概念は、とても几帳面である。「私は5分以上遅刻しないように最善を尽くしているの。それはきっとバレエから植え付けられたもので、決まりの時間にはちゃんとクラスにいなければならなかったから」と、彼女は3歳から15歳までセミプロのバレエスクールでダンスを学んだ幼少時代について振り返る。「だから、私は時間通りに撮影現場にいることにとても厳格なの。私の体にはちょっとした体内時計がある。でも、もっと時間があればと思うことはよくあるわ」。

「ロサンゼルスの家にいる時間がもっとあれば」と思うこともあるそうだ。「仕事のスピードが速すぎて、私生活が追いつかないことが多い。今の家を持つようになって2、3年経つけど、まだ完全に荷解きができていないわ。ただ、とても住みやすいのよ」。

ファッションに関して言えば、衣装とレッドカーペットの間にあるもの――彼女ならではのスタイルの追求に、アニャは今夢中になっている。

アニャ・テイラー=ジョイの“パーソナル・スタイル”

「常に仕事と結びついているから、私自身のパーソナルなスタイルはそれほど重要ではなかったの。私が考えなければならなかった唯一のことは、朝の3時に撮影現場に行って、その日の残りの時間、別の服に着替えるときにいかに快適でいられるのは何かということ。だから何年もスウエットパンツを履いていたわ。でもファッションに夢中になるにつれて、よくビンテージショップに行くようになった」。

ビンテージの「ジャン・ポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のバイカージャケット、ホットパンツ、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」の“タビ ローファー”…「最近は『ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)』のビンテージに夢中なの。ビンテージショップに行って一目惚れするたびに、スタッフが『それは“ウエストウッド”のだ』って言うの。ワードローブ全部を“ウエストウッド”だけで揃えたいくらい」と彼女は言い、お気に入りのビンテージショップはLAのレプリカ(Replica)だと明かす。「あのお店はもはや、歴史の一部を所有しているようなものよ」。

「最近はとてもスペシャルな『ミュグレー』の服を買ったの」と言う彼女に「レッドカーペットのため?それとも実生活用?」と尋ねると、「私のためだと思うわ」とアニャ。

「友達から食事に誘われたとき、私が持っていたのは舞踏会用のガウンかセットアップだけだった。カジュアルに着られるものを持っていないの」。彼女のレッドカーペットでの大胆さを見ると、そのクローゼットでも納得だ。「“小くて赤いレザーグローブ”みたいな感じのファッションが好きなのかも。昔の人の着こなしは魅力的だし、とても興味をそそられるの」。

この秋、彼女はロマン・ガヴラス(Romain Gavras)監督の次回作「サクリファイス(The Sacrifice)」の撮影でヨーロッパを回る予定だ。「あまり詳しくは明かせないけど、とても緊迫感のある作品よ。監督はとてもアーティスティックだから、撮影をスタートするのが待ちきれないわ」。

アニャは9月末にパリで開催された「ディオール」の2025年春のプレタポルテ・ショーにも出席した。「以前は人混みを恐れていたけど、今はもっとエネルギーを持って出席できるわ。どのデザイナーがどんな道を辿るのか見るためにね。毎回旅行のような気分なの」。

この業界のプロフェッショナルのように語る彼女は、将来的にファッションビジネスに挑戦するのだろうか?――ミステリアスな彼女はこう答える。「そうね、否定はしないわ」。

PHOTO:MILAN ZRNIC(WWD)

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