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資生堂“ファンデ美容液”ビッグヒットの裏側 TikTokを重要視する理由とは?

1872年の創業以来、常に新しい化粧文化を創造してきた資生堂は、伝統と時代性が融合した革新的な商品や広告展開を続けてきた。デジタル化が進んだ今、新たに注力しているのはTikTokでのプロモーションだという。最近では“ファンデ美容液”の呼び名でブームを巻き起こした「SHISEIDO エッセンス スキングロウ ファンデーション」がデパートファンデーション市場でシェアNo.1※1を、「マキアージュ ドラマティックエッセンスリキッド」がGMS・ドラッグストア市場でシェアNo.1※2を獲得し、発売3年目の既存品にも関わらず、2024年5月に過去最高売上を記録した。

同プロジェクトのプロモーションをリードしたのは、北原規稚子資⽣堂ジャパン新価値創造マーケティング本部本部長と同マーケティングソリューション部メディアプランニンググループの永田健人。伴走したのは武井俊一TikTok for Business Japanグローバルビジネスソリューションズ ビューティー&ラグジュアリー クライアントパートナー、平田朝穂同クライアントソリューションズマネジャーだ。双方が今回の取り組みの背景やキーポイントを明かした。

※1:インテージSLI デパートファンデーション市場品種シェア(金額)、期間23年9月~24年8月
※2:インテージSRI+ ファンデーション市場(リキッド形状)、推計販売金額ブランドランキング、期間23年3月~24年8月

メイクの概念を“肌を育み、
未来の美しさへとつながるもの”へ
資生堂が目指す新価値創造

WWD:今回の施策の背景にある資生堂の課題とは?

北原規稚子資⽣堂ジャパン新価値創造マーケティング本部本部長(以下、北原):2010年に資生堂ジャパン入社後、数々のブランドのマーケティングの経験を経て、今年7月1日に発足した新価値創造マーケティング本部を担当。資生堂が強みとしてきた新たな化粧文化創造を実行していく、成長戦略の重要な役割を担う部署だ。若年層を中心にSNSやデジタルプラットフォームの中で生まれるトレンドのサイクルは早まり、1~2年かけての価値開発では時代に遅れをとってしまう。新価値創造マーケティング本部の意義は、時代の半歩先を読み、素早く、今までとは違うスキームで価値開発をしていくこと、そしてブランドを横断した新価値創出により新市場を開拓していくことである。

コロナ禍を経て“ご自愛思考”が高まり、「自分のために心地よく過ごせる時間をあげたい」「未来の自分の肌へ投資をしたい」という人が増えている。自分の肌は一生ものであり、スキンケアは未来の自分自身への投資であることに対し、ファンデーションは“今”のための一時的に装う負担になるものであるという心理ギャップが生まれている。資生堂はこうした“今日のために装うもの”というメイクの概念を、“肌を育み、未来の美しさへとつながるもの”という概念に変えていきたい。新価値創造において、“じゃないほう”市場に目を向けることは重要だ。ファンデーションを使わない人、つまりファンデーション“じゃないほう”の市場ができつつある━━その裏側にある人の心理を深掘りし、生活者と共にどのように価値を共創していくか。この課題に対応する商品として、すでにTikTokやSNSで話題となっていた「シセイドウ」“エッセンス スキングロウ ファンデーション”と「マキアージュ」“ドラマティックエッセンスリキッド”を取り上げた。

TikTokユーザーと共創する新たな価値
“ファンデ美容液”がビッグヒット

WWD:“ファンデ美容液”はどのように生まれたのか?

北原:先述した2商品に対して、TikTokなどで施策前から多くのUGCが生まれていた。ユーザーたちが作るキャッチコピーはどれも秀逸だ。これらの商品には、ファンデーションに美容液を配合するのではなく、逆転の発想で美容液にファンデを閉じ込めて、美容液で肌を彩るという世界初“セラムファースト技術”が採用されており、多くのユーザーが“もはや色付き美容液”“ファンデのふりした美容液”“美容液のような使用感”など、「これはファンデではなく美容液なんだ」と発信していた。われわれは、TikTokは広告媒体として活用するだけでなく、TikTokユーザーの声、すなわちUGCからコンセプトを魅力的にするヒントが得られる時代になっていると考えているため、この生活者の発話から“ファンデ美容液”というネーミングを採用し、プロモーションを行うことに決めた。つまり、UGCアップサイクルマーケティングだ。ファンであるユーザーの声を基にコンセプトを作り、一貫して発信することで、再び上質な口コミにつながる。そして単に統一したキービジュアルやキーフィルムをいろいろな場所で展開するだけではなく、未来の新価値を創造する若年層や、彼らが見る媒体に最適化した形で発信する必要性も感じた。TikTokは動画を視聴すること自体をユーザーが楽しんでいるプラットフォームであり、視聴態度が非常に良い。だからこそUGCを一緒に創っていくパートナーとしてTikTokを選定し、若年層が自分事化し、話題にしたくなるようなプロモーションを企画した。

WWD:広告配信と共にブランドリフトを始めとした調査を行い、各調査項目で良好だった。この結果をどのように受け止めている?

永田健人同マーケティングソリューション部メディアプランニンググループ所属(以下、永田):TikTokは以前からUGCが生まれやすく、広告においてもコンテンツとして成立しやすいのが特徴だと捉えていた。そのため今回の施策でも、ユーザーが広告をポジティブに受容し、さらなるUGCの創出につながることを期待した。実際にTikTok for Businessのブランドリフト調査の結果、「広告認知」は+11%、と「購入意向」は+4%向上し、高い結果を得ることができた。

北原:良質な広告のおかげでUGCが生まれ、多くの視聴数獲得につながった。コメント数と検索数においても増加がみられ、商品への興味関心が高まったことが伺える。そして「シセイドウ」「マキアージュ」を初めて購入する新規ユーザー、さらにはファンデーションカテゴリーの新規ユーザーも伸長。普段ファンデーションを使用しない人にとっては、動画の最初にファンデーションが出てきた瞬間に他人事となってしまうが、TikTokならではのトレンドフォーマットをフックにしてコンセプトを伝達し、関心を引くことができたと感じる。多くの新規ファンを獲得するきっかけとなり、市場創造の兆しとも言える結果だ。

WWD:2商品の中でも特に「シセイドウ」“エッセンス スキングロウ ファンデーション”は高価格帯と言えるが、非常に良い反響を得た。昨今のTikTokのユーザー属性の特徴とは?

武井俊一TikTok for Business Japanグローバルビジネスソリューションズ ビューティー&ラグジュアリー クライアントパートナー(以下、武井):元々、TikTokでの美容カテゴリのコンテンツは非常にユーザーの関心が高い。現在、TikTokとTikTok Liteを合わせて、日本国内で毎月3300万人以上が利用し、より幅広いユーザー層にリーチできる広告プラットフォームへと成長している。ユーザー数の拡大とともに年齢幅に広がりが出ており、博報堂の調査によれば平均年齢は36歳だという。(博報堂DYホールディングス、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズによる共同調査「コンテンツファン消費行動調査2023」)

ユーザー層の増加にともない、美容カテゴリの中でもそれぞれの関心ごとが多様化し、今回のようにスキンケアができるファンデーションというトピックも受容されやすい状況になっていると考えている。特に“エッセンス スキングロウ ファンデーション”は高価格帯の商品ではあるものの、最近のTikTokではデパコスなどの価格帯商品でも高い関心が寄せられる傾向にある。

フルファネル施策で
各段階に適した広告を発信

WWD:今回、トップビューやインフィード広告に加え、TikTok Pulseやハッシュタグジャックを盛り込んだフルファネル施策を採用し、2カ月間で段階的に多様な広告を発信した。具体的にはどのようなプロセスを踏んだのか。

平田朝穂TikTok for Business Japanグローバルビジネスソリューションズ ビューティー&ラグジュアリー クライアントソリューションズマネジャー(以下、平田):フルファネル施策は認知拡大や商品概念の理解促進、そして購入意向の後押しなど、段階ごとのユーザーの態度変容に合わせ、バリエーション豊富な広告でアプローチを変えていくソリューションだ。これまでのビューティ企業との実績を踏まえ、ベストな形へと導くことができた。

北原:認知の段階では俳優の河合優実さんを起用し、ブランドとしてのイメージを担保したクリエイティブを配信。その後、“ノーファンデ”“レスファンデ”派の人も関心を持てるよう、TikTokらしいユニークな要素をフックにしたクリエイティブを展開していく。最後の購入を後押しするフェーズではクリエイターが実際に商品を使って魅力を伝えた。段階に合わせて役割を変えたクリエイティブを発信することができるTikTokは、「小規模から拡大していく」という私たちの価値創造の考え方に非常にフィットしていた。今はTikTokやSNSの中で化粧品のトレンドが生まれる時代で、TikTok上のクリエイターから情報を得て化粧品選びをする人はとても多い。ユーザーの視聴態度が良く、若年層中心に話題によって価値を共創したい場合に最適なプラットフォームだと感じる。

多様なクリエイティブを発信したが、一貫して商品の本質がきちんと伝わる最終的な落とし込みにすることに注力した。「TikTokで多様なクリエイティブを発信することで、ブランドの世界観に影響が出るのでは」と考える人もいるかもしれないが、企業がどのようなスタンスで発信していくのかということが重要だ。その軸さえぶれなければ、ブランドや商品のイメージにもプラスに働くはずだ。

永田:“餃子包み器”や“フリーズチャレンジ”など、TikTokでのはやりのフォーマットを利用しているものの、伝えたいことの本質は変わらない。ユーザーからのコメントを見ても、資生堂の意外な遊び心として好意的に受け止めているように感じる。

WWD:日本の美容業界で初のTikTok Pulseを採用した。このソリューションによりどのような効果が得られたのか?

武井:TikTok Pulse(日本では現在β版テスト中)を使用することで、トレンド上位4%に入る動画の次に広告を配信することが可能だ。好感度が高い動画を見て気持ちが盛り上がっているタイミングで広告が流れてくることで、視聴者は自然と広告を受容しやすくなる。

永田:TikTokは元々、広告が好意的に見られやすいプラットフォームだが、昨今はデジタル広告の発展が非常に目覚ましい。広告枠を買う従来のやり方に対して、最近ではターゲティング手法が定番となり個人に向かって発信するようになった。もちろん広告効果を上げるという面ではターゲティングは有効だが、ユーザー側の受容の質については疑問点が残っていた。そんな中、TikTok Pulseでは視聴者の受容態度にポジティブな影響をもたらすことができる。今回、実際に同じ素材を使い、通常のインフィード広告とTikTok Pulseでの配信を実施したが、広告配信レポートによると、TikTok Pulseの方が視聴完了率が5倍高く、視聴完了単価も倍以上安価という結果になった。

資生堂とTikTok for Business Japan
今後の展望とは?

WWD:全体を振り返り、非常にポジティブな結果を得られたと言えるが、今後の両者の展望は?

武井:今回の商材「シセイドウ」の“エッセンス スキングロウ ファンデーション”は高価格帯と言える。いわゆる“デパコス”商材を対象としたTikTokのキャンペーンにおいて今回のような認知から購入意向にまで大きな広告効果を発揮できた事例はまだ少なく、われわれにとってもうれしい結果だ。

平田:ビューティ業界の中でも特に大きな存在感を持つ資生堂とこのような取り組みができ、良い事例を生み出せた。今後も資生堂と共に積極的に新しいチャレンジを続ける中で、時代の潮流に合わせながら適切なサポートを続けていきたい。

永田:今回、特に「シセイドウ」というプレステージブランドで出した素晴らしい結果は、弊社の多くのブランドにとっても意外な発見になるはずだ。今回の結果を基に、他ブランドでの広告展開も検討していきたい。

北原:TikTokのみで認知から購入まで、あらゆるフェーズの認識変容を起こす広告が一気通貫で完結するのは大きな魅力の1つ。特に新価値創造の立場として、若年層からバズを生み、反響を広げていくためにはTikTokは欠かせない存在だ。そして今後はコンセプトのプランニング段階からTikTok for Businessのメンバーに伴走していただき、TikTokユーザーや生活者、クリエイターとともに、社会的価値を生み出せるような新価値創造を目指していく。

問い合わせ先
TikTok for Business Japan
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