ファッション

タペストリーのカプリ買収に中止の裁定 市場は「マイケル・コース」の今後を懸念

米連邦地方裁判所は10月24日(現地時間)、「コーチ(COACH)」や「ケイト・スペード ニューヨーク(KATE SPADE NEW YORK以下、ケイト・スペード)」「スチュアート・ワイツマン(STUART WEITZMAN)」を傘下に持つタペストリー(TAPESTRY)による、「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」と「ヴェルサーチェ(VERSACE)」「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」を擁するカプリ・ホールディングス(CAPRI HOLDINGS以下、カプリ)の買収停止を求めた米連邦取引委員会(FTC)の申し出を認める裁定を下した。FTCは、両社が合併すると「コーチ」と「ケイト・スペード ニューヨーク」さらに「マイケル・コース」のセカンドラインで、米国における“アクセシブル ラグジュアリー”なハンドバッグ市場において過度な影響力を持ち、消費者に悪影響を与える可能性があると主張していた。これにより2社の合併は、暗礁に乗り上げた。

仮処分のニュースを受けて、両社の株価は大きな影響を受けた。買われる側だったカプリの株価は、前日の終値に比べて47.1%も急落し、22ドル(約3340円)を記録。タペストリーは1株57ドル(約8660円)での買収を提案していたが、この数字から大きくかけ離れた。一方、買収する側だったタペストリーの株価は上昇。前日の終値に比べて10.9%高い49ドル31セント(約7490円)をつけた。市場は、カプリが持つ「マイケル・コース」のビジネスが近年弱含んでいること懸念している。

多くの弁護士は驚き
「アメリカ版LVMHが遠ざかった」

ファッション業界に携わる多くの弁護士は、仮処分の決定に驚きを隠せない。ある弁護士は、「驚いた裁定だ。確かに『コーチ』や『ケイト・スペード ニューヨーク』『マイケル マイケル・コース』はこれまで、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)やケリング(KERING)とは異なるマーケットで争っていると捉えられてきた。ところが今、こうしたブランドは『ルイ・ヴィトン』や『グッチ(GUCCI)』から『ザラ(ZARA)』や『ルルレモン(LULULEMON)』まで含めて、さまざまなブランドと一次流通のみならず二次流通でも戦っているのに」と話し、だからこそ特定のマーケットが存在し、その独占を懸念したFTCの主張が受け入れられたことに驚きを隠さない。また別の弁護士は、「なぜLVMHやケリング、コンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)のようなコングロマリットが存在する一方で、(合併してもその規模には及ばない)二社の統合はダメなのか?いよいよアメリカでは、独占禁止法がファッション業界においても大きな影響力を持つようになるのだろう」と話す。「選挙の後、超党派での運動などが起きない限り、アメリカ版LVMH誕生は誕生しないだろう」という弁護士もいる。

仮処分について議論した裁判において、FTCは両社の合併により「アクセシブル・ラグジュアリー」市場の価格が最大17%上昇し、年間3億6500万ドル(約550億円)が消費者に価格転嫁される可能性があるとしていた。裁判の最中、FTCの考えに賛同していた人物は、「世帯年収が7万ドル(約1060万円)の女性がアウトレットやメイシーズに行けば、定期口座などを解約することなく、素敵なアメリカンブランドのハンドバッグが買える環境が必要だ。合併により、多くのアメリカ人消費者は不利益を被るだろう」としていた。

もちろん今回の裁定は仮処分だが、多くの弁護士は、好機は逸し、両社はいずれ合併に関する提案を取り下げるだろうと捉えている。

仮処分を踏まえ、タペストリーは「裁定にはガッカリしている。法の解釈を誤ったとしか思えない。両社は良きライバル関係で、争いながら市場を拡大し、細分化された市場の中でそれぞれが独特の存在感を放っていた。社会が二極化する中で、合併はその中間に位置する市場の維持・確立に貢献すると信じていた。今後も、その信念は変わらない」との旨の声明を発表した。

業界関係者にも、今回の仮処分について落胆の声が上がっている。ある業界人は、「それぞれが単独で行う世界戦略と、合併して行う世界戦略ではインパクトが異なる。ことブランディングを進めながらの世界的なビジネスにおいて、合併の意味は大きかったはずだ」という。

今後の焦点は「マイケル・コース」
多くの業界人は別の企業による買収に期待

多くの業界人にとって、今後の焦点は「マイケル・コース」ブランドに移る。業界人の多くは、「コーチ」復活のノウハウを「マイケル・コース」にも適用することで、近年ビジネスが低迷しているブランドの再起を期待していた。仮処分により、「コーチ」と「マイケル・コース」は再び直接的なライバル関係となる。アナリストのジェシカ・ラミレス(Jessica Ramírez)は、「マイケル・コース」には大きな改革が必要だと主張する。「店舗、製品、そして戦略の全てが時代遅れになりつつある。このままでは、『ヴェルサーチェ』や『ジミー チュウ』を擁し続けることさえ難しくなるかもしれない。まずは会社を非上場にすべきでは?」と指摘する。またオリバー・チェン=アナリストも、「ケリングあたりは、『ヴェルサーチェ』の買収に興味を示すのではないか?その一方で『マイケル・コース』と『ジミー チュウ』は投資会社が買収するなどして、非上場になる未来を予想している。一方でもしタペストリーがM&Aを考え続けるなら、ハンドバッグではなくウエアやジュエリー、そしてビューティなどの企業を検討するのではないか?」という。

またカプリは合併に際して、「コーチ」や「ケイト・スペード ニューヨーク」「マイケル マイケル・コース」とは性格が異なる「ヴェルサーチェ」を手放すことも検討していたが、こうした計画も白紙に戻ることだろう。グローバルデータのニール・サンダース(Neil Saunders)マネージング・ディレクターは、「仮処分は、カプリにとって極めて厳しいものだ。カプリのブランドポートフォリオには偏りがあり、正直別のどこかが資本を注入したり、買い取ったりが必要だろう。もちろん、その際タペストリーが提示してくれたような高値で売却される可能性は低い」と分析する。

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