沖縄には古くから食用や薬用として活用されてきた島野菜やハーブがある。健康長寿を支えてきた命草(ぬちぐさ)とも呼ばれて重用されているが、その滋味あふれる島野菜を丁寧な下準備と、美しくモダンなビジュアルで、沖縄ならではの鮮やかなサラダに仕上げているレストランがある。その代表格である金武町のフレンチ「アロー・エデッセ」と北中城の創作菜食料理「星のたね」から、センスが光る“ビューティーサラダ”を紹介する。
フランス中南部・オーブラック地方の郷土料理をアレンジした、三ツ星レストラン「ミシェル・ブラス」のスペシャリテ「ガルグイユ」。その“沖縄版”を楽しめるのが、金武町に位置するフレンチ「アロー・エデッセ」だ。
本来の「ガルグイユ」は野菜の煮込み料理を指すが、それを鮮やかにブラッシュアップしたのが“香草の魔術師”とも呼ばれるミシェル・ブラスだ。数十種類の旬の野菜や花、キノコなどがまるで現代アートのように盛り付けられており、その美しい見た目に誰も心がときめく。
アロー・エデッセ料理長の山中貞之シェフは「ミシェル・ブラス」で修行し、「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」などで腕をふるっていたブラスファミリーの一員。料理長として就任した「アロー・エデッセ」でも「ガルグイユ」を提供している。「島野菜は風味が豊かな食材が多い。フレッシュな生の状態はもちろん、ソースとしてペースト状にしたり、火入れしたりと、調理法によって異なる食感や風味を引き出せることが魅力」と話す。
「今回(10月)のガルグイユには島人参、ゴーヤを2種類、アスパラ、スターフルーツ、オクラ、レンブにピクルス、マクワウリなどを用いています。ハーブは琉球ヨモギの一種であるハママーチやイーチョーバー、キノコもきくらげ、あわびたけ、エリンギなどで、もちろん全て県産です。温野菜は約30 種類、ハーブや花は20~30種類、さらに海ブドウなど地元の海藻類も使っています。温野菜は沖縄県産「金アグー」の生ハムで香りをつけたバターソース、冷製サラダの場合はシークワーサーやカーブチーなど沖縄特産の柑橘ドレッシングで提供しています。ドレッシングにはシークワーサーや沖縄在来種のミカン、カーブチーの香りをつけています」。
そんな多種多様な野菜を一種類ずつ、丁寧に仕分けしつつ盛り付けていくと、“皿の上の芸術” を呼ぶに相応しい、彩り豊かな一皿が仕上がる。食べ進めていくと、島野菜のほのかな甘み、海ブドウのプチプチとした食感や温野菜のまろやかさが口の中で幾重にも広がる。ときおり、ほろ苦いハーブがアクセントを付け加えたり、島胡椒のピパーチが弾けたりして味わいや香りを存分に楽しむことができる。ビジュアルも風味も非常に満足度の高いビューティサラダだ。
「ガルグイユはシーズンごとに異なる食材を使っています。ぜひ季節ごとの島野菜の滋味を味わっていただきたいですね」。
■アロー・エデッセ
住所:沖縄県国頭郡金武町金武10907 ASBO STAY HOTEL 2F
TEL:098-989-4919
貸切利用があるため、営業時間は電話やSNSで確認を。
Instagram:@aloedesse
北中城に位置する菜食料理「星のたね」では、無農薬で育てられた県産の食材をベースにしたビーガンメニュを提供している。 “ビューティサラダ”が登場するのは、完全予約制のディナー「菜食料理のおまかせコース」だ。
今回は夏から秋へと季節が変わる10月の一例として、夏野菜の「ナーベラ バンシルーソース」と、秋の彩りの「4種類のきのこレンコン」の2種を提案してくれた。
「ナーベラ バンシルーソース」はともに沖縄の方言でナーベラは沖沖縄ではゴーヤーとともに食される機会が多いヘチマのこと。軽くソテーしたあと、レモンのオイルとシークワーサーでマリネすることでさっぱりした風味に。バンシルーはグァバを指し、白い実の部分をペースト状にして、そこへつるむらさきの花やミントマリーゴールド、葉裏が紫赤色のハンダマなどを使いながら彩りを引き出し、キヌアやアスパラ、パプリカ、ミントなどで食感や旨味をプラス。玉ねぎ麹や塩、レモンのオイルやシークワーサーの果汁で清涼感と塩味のバランスを整えた一皿だ。
店主の松井さなえさんは「なーべらーというと沖縄では味噌炒めが一般的。でも、フレッシュな風味でサラダ仕立てにしてもおいしい。グアバの香りも感じてほしい」と話す。
もう一皿、「3 種類のきのこ レンコン」は見た目にも秋の彩りを楽しめるサラダ。サラダの中心は県産のキノコ。半日ほど天日干ししたアワビタケ、しめじ、しいたけ、マイタケに、県産のレンコンを添えて、ドラゴンフルーツのつぼみ、あかばな、サツマイモの若い葉であるアマランサス、ハママーチなどをアクセントに。きのこには黒ニンニクをベースにしたソースを薄く絡めてあり、うま味も香りも際立つ。そこに塩漬けにしたローゼルとカシューナッツをあわせたソースが絶妙な酸味と香ばしさを演出。ルッコラやレタス、塩ゆでされたつるむらさきなどフレッシュな風味も加わり、食べ応えのあるグルマンドサラダに仕上がっている。
「サラダはコース料理のスターターになるので、視覚的にもお客さまの気持ちが高まるように創作しています。ただ、コースの導入なので後に響かない、軽やかさも大切ですね。島野菜は色鮮やかで個性を主張するものも多く揃っているので、見た目には軽やかなサラダでありながら、食べたときには風味や食感で意外性を楽しめます。そんな島野菜からのサプライズもお客さまに提供したいと考えています」。
■星のたね
住所:沖縄県北中城村島袋1335 Casa del Sol
営業日はSNSで確認を。
Instagram:@hoshinotane_okinawa
ビューティサラダを創作するうえで、おふたりともに語っていたのが生産者や流通にかかわる人への感謝の気持ち。「たとえば、こんなサラダを作りたいという相談をすると、その目的にあった食感やサイズを考えて用意してくださったり、オーダーしていない野菜も役に立つだろうと提案して送ったりしていただける。私たちの仕事は農家さんに支えられてこそと日々感謝しています」(松井さん)。
そもそも沖縄の夏は気温が高すぎることもあり、葉野菜を育てるのが難しい。そんな環境ながらも、旬の葉野菜、島野菜が入手できるのは生産者の努力があってこそ。良い素材があるからこそ、料理も美味しく美しくなる。フレッシュな島野菜を駆使したビューティサラダは、沖縄に根差した生産者と料理人の想いをつなぐ一皿になっている。