1949年創立の国内最古のファッションサークル、早稲田大学繊維研究会がファッションショーを実現させるまでの道のりを全4回の連載で紹介する。第1回のコンセプト決定とルック撮影に続き、第2回では代表の井上航平さんと、小山萌恵さんがショータイトルの決定と服作りについて語る。
WWD:12月に迎えるファッションショーに向けて、進捗は?
井上航平早稲田大学繊維研究会代表(以下、井上):今年度のショーのタイトルを「透き間、仄めき」に決定しました。前回お話しした小山発案のコンセプト「みえないものをみるとき」を元に僕が考案しましたが、コンセプトの抽象度が高いだけになかなか筆が進まず苦戦しました。そこで日常における「みえないもの」の例や、ルック撮影を行った江ノ島での記憶(具体的には湘南港ヨットハウスのガラス越しの光景、鵠沼駅で江ノ電が近づいてくるときに浴びたあたたかな風、七里ヶ浜の水面に陽の光が乱反射する様子など)をイメージして考え始めました。まず始めに小山が「みえないもの」の例として挙げていた余白の美学からの連想で「すきま」という単語が浮かんできました。
WWD:タイトルの「透き間」と「隙間」は異なる?
井上:一般的に用いられる「隙間」と違い、「透き間」は“意図した上で生まれる空間”を意味します。また、のぞく動作が入ることが想定される「隙間」に対して、「透き間」からはふとした時に目に入ってくる、そんな情緒を感じて選びました。もちろん、単純に字面で見たときの爽やかな雰囲気もポイントです。これに続く「仄めき」は当然、ほのかに見えるという意味から思いついたのですが、自分としては意味というよりむしろ「仄」という漢字の密度の小ささ=「透き間感」に引かれて採用しました。
当団体ではこれまで「編み目に浮かびながら」、「纏う空箱」のように合成語をタイトルとしてきたのに対して、今回はこの二つの単語をシンプルに読点で結んだのですが、読点それ自体も声に出して読んだときに間を生み出す、いわば休符で奏でる(これは音楽における「見えないもの」です)役割を果たしています。
WWD:告知フライヤーのこだわりは?
井上:8月にフォトグラファーのカズキ ヒオキ(Kazuki Hioki)さんに撮影いただいた写真を元に作りました。例年は使用する写真の選択からデザインまでの全てを担当者にお願いしていたのですが、今年は学年や部署によってショーに対する熱量に差が出ないよう、みんなで決めるプロセスを重視して、部内で話し合って決定しました。
もちろんどの写真も素敵でしたが、フライヤーとなると単純な写真の良さで決めるわけにもいかず、「これはインパクトに欠ける」「逆にこれは迫力がありすぎて“らしさ”が損なわれる」「この写真だとランウェイモデル=主体、観客=客体と完全に切り分けているように感じるが、こちらならお客さんも一体となってショーをする感じに見える」など活発に意見が飛び交いました。
最終的には、写真のモデルさんの視線・地面に置いた右手・左側に伸びる影から「なんとなく見えないものを見つめている感じがして、かつA4サイズにしたときに収まり良く文字を入れやすい」という話になり、予定の会議時間を大幅オーバーしながらも、全員が納得いく形でフライヤー写真が決まりました。
写真のセレクト後、文字入れは大学でデザインを学ぶ部員にお願いしたのですが、さすがのセンスを見せてくれました。まだ構想段階ですが、インターネットで全て見ることのできる時代に「紙のフライヤーを印刷する意味」を見出せるよう、単純な光沢紙ではなく紙にもこだわりたいと考えています。
WWD:服作りの過程は?
小山萌恵(以下、小山):私たちはルックを製作する部門を「服造(ふくぞう)」と呼んでいます。服造は、デザインから製作、ヘアメイクの考案まで、各々の作品作りにおける全てのプロセスを担います。コーチや講習会を設けていない私たちですが、服造に所属する部員のほとんどは入部して初めて服作りに挑戦した、という部員です。自力で0から探求するからこそのクリエイティブな感覚が、ルックにも表れているように感じます。
私自身は数少ない服飾学生の身なのですが、皆の服作りに対する純度の高いモチベーションや理論に捉われない自由な発想には、いつも刺激を受けています。
ファッション批評を掲げる繊維研究会は、単に批評をして終わりとはしない「理論と実践の両面からの活動」を目指しています。 まさに「実践」の役割を大きく担う服造はショーで発表するルックを「メディアとしての衣服」と捉え、コンセプトをもとに各々がそこから連想したテーマを立てて、デザインへと落とし込みます。
WWD:今年度の特徴は?
小山:「みえないもの」に焦点を当てる今年度は、さまざまな角度からデザイン画が集まりました。陸から見る水中といった具体的なみえないものをモチーフにしたものもあれば、記憶や感情などの抽象的な概念をデザインソースにしたものもあり、自身にとっての私的なみえないものをいかに表現するかに注力したアプローチもあれば、観客にみえないものを見出してもらうことを促すためのアプローチもあり、その視点やデザインへの落とし込み方にもそれぞれの感性や個性、学んでいる専門分野が滲み出るのがおもしろいです。ただかわいさや華やかさを追求するだけでは獲得し得ない厚みと奥行きが、繊維研究会のルックにはあると、わがことながら思います。
WWD:12月のファッションショーとは別に、タキヒヨーとDress the Lifeとの合同展示会を計画している。
小山:本展示会では、タキヒヨーから生分解性のあるPLA素材を使用した生地を、Dress the Lifeからドレス制作時に生じる残布をご提供いただき、繊維研究会で作品を製作しました。ファッション業界に批評意識を持ち、真摯な姿勢でデザインに向き合う私たちにしかできないサステナブルなアプローチがあると思っています。複数の企業と1つの取り組みを行うことも、展示という発表形態自体も初の試みであるため、初めて直面するさまざまな課題に試行錯誤しながらも、開催へ向け奮闘しているところです。ぜひ足をお運びいただけたらうれしいです。
■タキヒヨー×Dress the Life×繊維研究会合同展示会「夢幻泡影」
日程:11月17日
時間:10:30~15:30
場所:BABABASE
住所:東京都豊島区高田3‐3‐16 広研印刷株式会社 新館1階