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映画監督・白石和彌が語る「時代劇の可能性」 「海外の人たちって日本の時代劇が大好きなんです」

PROFILE: 白石和彌/映画監督

白石和彌/映画監督
PROFILE: (しらいし・かずや)1974年12月17日生まれ、北海道出身。95年に中村幻児監督主催の映像塾に参加した後、若松孝二監督に師事。助監督時代を経て、ノンフィクションベストセラー小説を実写化した映画「凶悪」(2013)で第37回日本アカデミー賞優秀作品賞と監督賞ほか各映画賞を総なめした。さらに、17年に映画「彼女がその名を知らない鳥たち」でブルーリボン賞監督賞を受賞すると18年も「孤狼の血」を含む3作品で同賞を受賞。近年の主な監督作は、映画「孤狼の血 LEVEL2」(21)、「死刑にいたる病」(22)、「碁盤斬り」(24)などがある。

今、日本で熱いエンターテインメント映画を撮れる監督といえば白石和彌だ。初めて時代劇に挑戦して話題を呼んだ映画「碁盤斬り」(2024年)やNetflixシリーズ「極悪女王」(24年)に続いて完成させた映画「十一人の賊軍」が11月1日に公開される。本作は戊辰戦争を背景にし、罪人たちが藩の命運を握る砦を守るために戦うアクション集団抗争時代劇だ。名脚本家、笠原和夫が遺したプロットを基に、アクションに次ぐアクションのエンターテインメント大作でありながら、そこには戦争に巻き込まれていく人間の悲しさも描き込まれている。どんな想いで、笠原が残した物語を映画化したのか。そして、時代劇の可能性について白石監督に話を訊いた。

「十一人の賊軍」への想い

——「十一人の賊軍」は東映が1960年代に始めた集団抗争時代劇へのオマージュを感じて、時代劇好きにはたまらない作品です。脚本家の笠原和夫さんが原案でクレジットされていますが、どういう経緯でこの作品が生まれたのでしょうか。

白石和彌(以下、白石):1964年に東映が集団抗争劇を撮っていた時代に笠原さんが脚本を書いたんです。それを京都の撮影所で東映の幹部が集まって読んだんですけど、撮影所の所長だった岡田茂さんが、ラストで11人全員が死ぬことに不満で「そんな辛気臭い話はやらせない!」って言って企画がボツになったんです。それで笠原さんはブチ切れて脚本を破り捨てた。でも、プロットは残っていて、それを基に脚本を新たに書きました。

——その際に新たに脚色したことはありますか?

白石:岡田さんが言うのももっともで、全員死んで暗たんたる気持ちで終わるのはヌケがないなと思ったんですよ。そこで最後に生き残る人物を作ったのと、政(山田孝之)というキャラクターを笠原さんのプロットよりも立てました。本当は真っすぐな男なんだけど、賊軍に入れられることで、自分だけ助かろうとしたり、いろんな動きをする。元のプロットでは鷲尾兵士郎(仲野太賀)が主人公っぽい感じだったんです。

——藩に忠義を尽くして砦で戦おうとする剣術道場の道場主である兵士郎。無理やり賊軍に入れられて侍に恨みを持っている町人の政。2人の対比が物語を面白くしていますね。

白石:アイアンマンとキャプテン・アメリカみたいですよね。組織のために戦ってきたキャプテン・アメリカは最後に自分の人生を選択したし、アイアンマンはずっと個人主義だったけど最後にみんなのために死ぬ。そういう対比は面白いかなって思いました。でも、笠原さんが描きたかったのは、阿部サダヲが演じた新発田藩の城代家老、溝口内匠だったんじゃないかと思います。

——溝口は言ってみれば本作の悪役キャラですが、必ずしも悪役とはいえない複雑さを持っています。藩を守るために冷酷なこともやってのけるけど、自分の欲望のためではなく全ては藩のため、殿様のため。家族も大事にしている。

白石:溝口は戦禍から藩を守るためにいろんな計略をして領民からは感謝されるけど、その裏ではひどいことをしている。そういう政治家って今もいると思うんですよ。溝口が悪いやつかっていうとそういうわけではなく、彼と同じ立場に置かれたら同じことをする人は多いと思うんですよね。笠原さんが描く脚本の魅力はそういうところで、登場人物それぞれに違う正義があって、それがぶつかって軋轢(あつれき)を生み、人を悲しみの淵に追いやる。そこに完全な悪人はいなくて白黒がつかない世界なんです。

——それぞれの正義が軋轢を生む、というのはつまり戦争を描くということでもありますよね。ウクライナ侵攻が始まる中で、監督は戊辰戦争の話を撮られた、そこでヒーローを描かず、全員を犠牲者として描いているところに、監督のメッセージを感じました。

白石:ありがとうございます。この映画の冒頭に何人か登場人物の名前と役職がテロップで入るんですけど、そこには主人公たちの名前は入っていないんです。「全員の名前を入れたら?」という提案もあったんですけど、そうじゃないんだと。名前を入れているのはゲーム・オブ・ウォーをやっている人たち、安全なところにいて生き残る人たちで、テロップを入れない賊軍の連中は名もなき人たちなんです。彼らが藩を守るために死んだことは領民は誰も知らない。だから名前を入れなくてもいい。実は映画の冒頭からメッセージを入れているんです。

——なるほど。物語を通じて反権力が貫かれていますね。

白石:ただ、権力側にいる奴が完全に悪いというわけではないんですよね。人というものは、そういう立場になったらそういう行動をとるということでしかないと思うんです。

時代劇の魅力

——そこは溝口に対する視線に通じるところがありますね。本作は「碁盤斬り」に続いての時代劇ですが、時代劇としての美意識にこだわった「碁盤斬り」に対して、今回は徹底的にアクションです。

白石:今回は完全なるアクション映画だと思って撮りました。ただ、最近のワイヤー使いまくりのアクションというのより、地に足が着いたアクションにしたかった。人間が持っている力を超えた動きをするのが好きではないので、泥臭い殺陣になったと思います。阪妻(阪東妻三郎)の古い映画を意識したりもしたし。

——兵士郎役の仲野太賀さんが殺陣に初挑戦されていましたが、すごい気迫でした。

白石:彼はがんばりましたよ。一番戦わないといけないし、一番剣術が強いという設定でしたからね。基本的なところから始めて4〜5カ月みっちりやったんです。撮影に入ってからも空いている時間は常に殺陣を練習していました。クライマックスの殺陣のシーンは一番完成されていたと思います。

——とにかく本作の殺陣はエモーショナルで、賊軍の一人、爺っつぁん(本山力)の最後の戦いの立ち回りもすごかった。監督が爺っつぁんという役を大切にしていることが伝わってきました。

白石:アクション部のスタッフも、みんな爺っつぁんが好きなんですよ(笑)。演じてくれた本山力さんは東映剣会(東映京都撮影所所属の殺陣俳優専門の集団)で修行をしてきて東映剣会仕込みの殺陣を今に伝える数少ない一人なんです。

——東映のチャンバラ精神を受け継いだ人なんですね。

白石:三池崇史監督が「十三人の刺客」(10年)のリメイクを撮った時は、松方弘樹さんがいたんです。松方さんはスター俳優であり、殺陣のプロじゃないですか。でも、松方さんが亡くなった今、そういう存在がいないんですよ。だから、スター俳優ではないけれど本山さんにお願いしました。本山さんは脚本を読んだ時、震えたって言ってましたね。

——震えますよね、この役は。監督は続けて時代劇を撮られましたが、監督にとって時代劇の魅力とはどんなところでしょう。

白石:時代劇ってファンタジーだと思うんですよ。調べれば資料は出てくるけど、実際にそれを見た人はいないじゃないですか。だから、こっちで想像する余地がある。昔、深作欣二監督が撮った時代劇(「柳生一族の陰謀」78年)で成田三樹夫さんが演じる公家に「〜でおじゃる」っていうしゃべり方をさせたら、テレビ局とか他の映画でも使い始めて歴史が変わったんです(笑)。黒澤監督の「七人の侍」(54年)のセリフも当時は「時代劇のしゃべり方じゃない」と言われたと思うんですよ。でも、そうやって変わっていくのは豊かなことだと思うんですよね。「ひばり・チエミの弥次喜多道中」(62年)とか、いきなり歌い始めたり、しかもそれがマンボだったりする。今は「時代劇とはこういうもの」というカタに収められがちですけど、昔はもっと自由だったんです。

——昔の時代劇は、その中にミュージカル、アクション、コメディー、ホラーなど、いろんなジャンルがありましたね。

白石:そうなんですよね。日本で時代劇が撮りにくいのなら、海外向けに製作するのもいいと思うんですよ。真田広之さんのドラマ「SHOGUN 将軍」が成功したじゃないですか。海外の人たちって日本の時代劇が大好きなんです。映画祭に行くと、なんでもっと時代劇映画を撮らないんだって聞かれるんですよ。一度、映画祭で海外の方に話しかけられたことがあって。その方は「子連れ狼」のコミックをカバンから出して、「これを映画化してほしい」って言うんですよ。もう映画化されてるよって言ったら、知ってるけれどミスター・シライシにまた映画化してほしいんだって(笑)。

これから挑戦したいこと

——僕も白石監督版を観たいです(笑)。それにしても、今年に入って「碁盤斬り」、「極悪女王」、本作と新作が続きますが、今監督の映画作りの推進力になっているものは何でしょう。

白石:本数を重ねて年齢を重ねていくと、情熱が少しずつ薄れていくのは感じるんですよ。それに抗いながらどこに自分のものづくりの衝動を持つようにするのか、というのはいつも考えていますね。でも、「十一人の賊軍」は笠原さんのプロットを読んだ時から、すごい衝動を感じていたんです。今は無事完成して抜け殻状態(笑)。最近になって割と時間もできたので、映画を観たり、本を読んだりしてインプットしている時期です。忙しい時って目の前のことをこなすだけでいっぱいいっぱいなんですよ。なんでもない時間を過ごしていると、いろんな発見がある。ニュースを見てても、当事者の気持ちを考えてみたりね。そういう時間は大切だと思いますね。

——そういう時に新作のヒントが生まれるのかもしれないですね、これから映画監督として挑戦してみたいことはありますか?

白石:映画を撮れば撮るほど、自分がやりたいのはエンタメなんだなって思うんですよ、今回の作品はそんなに明るくはない作品なので、一回、「白石らしくない」って言われるくらい明るいものを撮りたいですね。例えば等身大の高校生のラブストーリー……いや、高校生は等身大じゃないか(笑)。おっさんの純愛映画なんて、いいかもしれないですね。

PHOTOS:MASASHI URA

■映画「十一人の賊軍」
11月1日から全国公開
出演:山田孝之 仲野太賀
尾上右近 鞘師里保 佐久本宝 千原せいじ 岡山天音 松浦祐也 一ノ瀬颯 小柳亮太 本山力 野村周平 音尾琢真 / 玉木宏
阿部サダヲ
監督:白石和彌
企画・プロデュース:紀伊宗之
原案:笠原和夫
脚本:池上純哉
音楽:松隈ケンタ
配給:東映
https://11zokugun.com
©2024「⼗⼀⼈の賊軍」製作委員会

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