エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES以下、ELC)の最高経営責任者(CEO)にステファン・ド・ラ・ファヴリー(Stephane de La Faverie)=エグゼクティブ・グループ・プレジデントが就任する見込みだ。同社はまだ、来年末に退任するファブリツィオ・フリーダ(Fabrizio Freda)現CEOの後任を発表していないが、10月27日の夜(現地時間)にジェーン・ローダー(Jane Lauder)=チーフ・データ・オフィサー兼エンタープライズ・マーケティング・エグゼクティブ・バイスプレジデントが年末に退任することが明らかになり、ラ・ファヴリー=エグゼクティブ・グループプレジデントに関する憶測が広がっている。
内部関係者は数カ月前から、フリーダ現CEOの後任は社内で選ばれる可能性が高いと予測しており、ローダー=チーフ・データ・オフィサー兼エンタープライズ・マーケティング・エグゼクティブ・バイスプレジデントとラ・ファヴリー=エグゼクティブ・グループプレジデントを有力候補に挙げていた。ラ・ファヴリーはロレアル(L’OREAL)に長年勤めた後、2011年に「アラミス(ARAMIS)」とデザイナーフレグランスのシニア・バイスプレジデント兼グローバル・ジェネラル・マネジャーとしてELCに入社。直近では、エグゼクティブ・グループ・プレジデントとして、「エスティ ローダー(ESTEE LAUDER)」「エアリン(AERIN)」「ジョー マローン ロンドン(JO MALONE LONDON)」「ル ラボ(LE LABO)」などのブランドを手掛けている。
同社に近い情報筋によると、取締役会がラ・ファヴリーを選んだ理由は、同氏が業界とELCの両方に精通しているからだという。これにより、ラ・ファヴリーは必要な改革を迅速に行うことができると期待されている。別の情報筋は、「ラ・ファヴリーは会社の将来の方向性について現実的な意見を述べるだろう。彼は会社のことを知っている。また、商才がある」と話す。業界関係者は、ELCが25年度第1四半期決算を発表する11月3日にも、正式発表があるのではないかと推測している。
ローダー=チーフ・データ・オフィサー兼エンタープライズ・マーケティング・エグゼクティブ・バイスプレジデントは30年間の在職中、「クリニーク(CLINIQUE)」「ダルファン(DARPHIN)」「オリジンズ(ORIGINS)」を含むいくつかのブランドのグローバル・ブランド・プレジデントを務めた。直近では、商品や消費者体験をサポートするAIの取り組みを主導している。米国証券取引委員会に提出された書類によると同氏は、同社で2番目に大きな個人の同族株主だ。クラスA株を14万3592株、クラスB株を2234万6614株保有しており、議決権比率は15%。同氏の退任により、自身の名を冠したブランド「エアリン」のコンサルタントを務めるエアリン・ローダー(Aerin Lauder)を除き、ウィリアム・ローダー(William Lauder)=エグゼクティブ・チェアマンが同社の日常業務に携わる唯一のローダー一族となった。ウォールストリートは、こうした人事を好感を持って受け止めている。
金融持株会社スタイフェル(STIFEL)のマーク・アストラチャン(Mark Astrachan)=アナリストは、「一族が所有権を持っていることは誰もが理解している。会社に投資するときは、一族と共に投資することになる。しかし、厳しい環境を反映して株価が今のように低迷していることに、投資家らは不満がある。もっと早く変化が訪れるのではないかと、人々は期待していただろう。ここ数年は、いささか戦略的な失策が続いていた」と話す。投資銀行レイモンド・ジェームズ(RAYMOND JAMES)のオリヴィア・トン(Olivia Tong)=アナリストはまた、ほかの多くのビューティ大手が、こうした厳しい家族経営から脱却していることを強調する。
ELCはフリーダ現CEOの下で、中国の美容ブームの波に乗りながら、ヒーロー商品に注力することで、長年にわたり成功を収めた。株価はフリーダがCEOに就任した09年の16.75ドル(約2562円)から、22年1月のピーク時には370ドル(約5万6610円)以上に跳ね上がり、時価総額は1330億ドル(約20兆3490億円)を超えた。対して10月28日の終値は前日比1.7%高の88.72ドル(約1万3574円)だった。
同社はコロナ禍以降の立て直しに苦戦しており、回復が遅れているアジアのトラベルリテール市場と中国事業に依存したため、株価は急落した。アナリストはまた、最近の商品開発やマーケティングにおける革新性の欠如や、本拠地である米国市場の低迷を指摘。25年度の本業での売上高は前年比1〜2%減少すると予想されている。
アナリストと業界関係者は、同社はイノベーションや若年層の取り込み、ブランドメッセージの強化に注力する必要があると強調する。アストラチャン=スタイフェル アナリストは、「ブランド群は非常に優れたもので、おそらく同業他社と比較しても平均以上だと思う。問題は、それらをどのように復活させるかということ」と分析。最近の流通面での重要な動きとして、主要ブランドについてアマゾン(AMAZON)と販売契約を結んだが、いまだに株価に大きな影響を与えてはいない。